個別ルート121 紫 オフ会①





 グレープ侍さんのお誘いから数日後、現在いつもの星空町から二駅程離れた場所へと来ていた。

 二人で待ち合わせ場所を決める為に連絡を取ってみたところ、どうやらお互いに同じ県に住んでいたらしく、とりあえず近場に集まろうということで決まったわけだ。

 世の中珍しい偶然もあったもんだ。事実は小説より奇なり。


 と、まぁそんなことがありなんとか待ち合わせ場所まで来たわけだが、


「なんか勢いでここまで来たけど……今更緊張してきたな……」


 緊張して手汗がえらいこっちゃになった手でスマホを取り出し、未読を示す通知表示数が六千を超えたメッセージアプリを開く。

 その殆どが心や景ちゃん、その他のメンツからだったが、その中からグレープさんとのメッセージを表示させる。


【とりあえず待ち合わせ付近に着きましたよ】

【お、早いな】

【言うて十分前ですけどね】

【私もう着いてるわよ。近くのコンビニの前にいるから】

【おーけーです】

【右にグレープジュース持ってるからそれ目印】

【え、あ、はい?】


 何故にジュース? 一瞬よく分からないメッセージを受け、反応に困ってしまったが……さてそれは置いといてだ。


「コンビニというと……あそこか」


 言われた通り駅前近くのコンビニを見つけると、すぐに店前にいる人に気付いた。確かにいた、女性がだ。けれどここで問題が、


「二人いる……」


 そう二人いるのだ。ただ女性が? 否、小さい紙パックに入ったグレープジュースを店前の右側と左側に同タイミングで二人の女性が立っていたのだ。


「嘘やん……どっちだ?」


 どっちにも声をかけようか、とも思ったが考えてみればすぐに解決のできることだった。グレープさんは『右に持ってる』と言っていたのだからそこを見ればよかっただけじゃないか。

 少し離れた場所からでも物を左右どちらの手に持っているかなんてことはすぐに分かる。これは勝ったな。


「……なるほど」


 確認してみたところコンビニ前、向かって左側にいる帽子をかぶった女性はジュースを左手に持っている。もうこの時点でこの人じゃないだろう。


 なら、


「あのーすいま____」

「ごめん遅くなって」

「もー遅いよ待ったんだから!」


 声をかけた瞬間、目の前の女性は突然現れた男性の腕に抱きつき歩きだした。突然の状況と二人のイチャイチャ具合に恥ずかしくなり、両手で顔を隠していると隣から声が届く。


「あのーもしかしてトオル?」

「え」


 突然に聞き覚えのある声が響いた一瞬に覆っていた手を除けて声の方向へ目をやった。そしてお互いに目が合った時、とある事に気付き俺の口から静かに言葉が漏れる。


「……ゆかりちゃん?」


 深くかぶった帽子を脱いで特徴的な紫色の髪を現した女性は見慣れた学校の担任で、正直戸惑う俺に対し特に動揺することなく彼女は応えた。


「やっぱりトオルって……雨上だったんだな」


 とても意地悪そうな笑顔で……。




 合流を済ませ新たな問題が発生した結果、俺達はとあるカフェに来て話し合いが始まっていた。出逢って早々にである。

 というか俺は色々思うことがあるのだが、紫先生はなにやら反応が俺と少し違うみたいなのだ。


「雨上~大人のお姉さんとオフ会してる感想言ってみろよ~」

「い、いやあの……紫先生?」

「おいおい雨上ここは外だぞ? しかも二人だ」


 だからなんすか? 何が言いたいんだよ。


「名前で呼んで」

「グ、グレープ侍さん?」

「私は悲しいぞ、雨上が選択肢を間違える度に内申点が下がっていってるからな」

「まさかの職権乱用!!?」


 コイツ本当に教師か!? 教師の皮をかぶった悪魔か!?

 てか待って? そもそも俺はなにを間違えたんだこれが分からん。


「いつもの呼び方があるでしょ」

「……ゆかりちゃん?」

「”ちゃん”はいらない」

「……紫」

「ん、透。学校じゃないしバレたら困るから」

「あ、納得」


 確かにこれでバレたらお互いに困るだろう。先生はもちろん立場が危うくなり職を失う可能性、一方俺は奴らにバレて命が危うくなる可能性。

 ……あれ? 俺だけ生命の危機に瀕してない? ……いやそれはいつもか(冷静)


 一人思考し、一人で自己解決して冷静になった俺を他所に紫先生はニコニコしながらアイスコーヒーをかき混ぜて小さな声で囁いた。


「透」

「な、なんすか」

「別に? 呼んだだけ」


 そうすっか。


「透も呼んで」

「……ゆ、紫」

「なによ?」


 いやアンタに強要されたんだが???

 何かもう深くは聞かないし、聞きたければ追々話せば良いだろう。折角だしオフ会という今を楽しむとするか。


「それで? 紫はどうしてオフ会したかったんだ? なにか理由があるんじゃないのか?」

「そうそうそれ! 実は好きなアニメがコラボカフェやってるみたいで行きたいんだよ! 行くわよ透付いてきなさい!」

「ちょ、ちょっとせ……紫!? 引っ張んなってまだコーヒー残ってるから!!」




        ~おまけ~


「そういえば紫って学校にいる時とゲームしてる時とで話し方違くないですか? なんか男っぽい時があるというか」

「あ~あれ、男子生徒や他の先生に舐められないようにね、それで気がついたら男口調が混ざった感じの話し方になったわけよ」

「どっちが本当?」

「どうだろ? 分からないわね」

「ふむ大変ですね」

「私は個性があって好きだけどな?」

「なるほど?」


 でも意外とそのギャップが良いかも……


 ……

 …………

 ………………


 あれ待って?


「そもそもなんで左手でジュース持ってたんですか! 右じゃないじゃん! 無茶苦茶恥ずかしかったんだけど!?」

「何言ってんの? 透から見て”右側”に持っていたでしょ?」


 いや紛らわし過ぎるだろおい。



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