通常ルート120
【トオル良かったら私と出掛けない?】
……
…………
………………
「え」
思いもしないメッセージアプリの通知にふと言葉が漏れた。それをすかさず調理をしている最中の心が台所からコチラを覗きこむ。
「ん? どうしたの透?」
「あ、いや別に? ちょっと驚いただけだぞ」
ふーんそっか、と追及することなく調理に戻る心、念の為に確認するが、
「あはははは! 透よこれ面白いのぉ!!」
「ん? おうそうだな」
「じゃのぉ~!」
テレビに映った芸人の漫才を見ながら姫がゲラゲラ馬鹿笑いをしている。つまり誰も俺の反応をちゃんと見ていない。
ならば、とやり取りを続けることにした。
【で、グレープ侍さん一体どうしたんですか?】
【いやだから出掛けようとね】
銀ちゃんの作ったゲームきっかけでグレープさんと知り合ったのだが、それ以降色んなゲームを二人でやっている。
ふむつまりあれか? 最近やっていたやつだと、四角い物ばかりの世界で自由気ままに遊ぶゲームをしていたし、進行の為に新たな世界へ行こうとしていたからそれか? 他にも一緒に進めているゲームがあるからそれかも?
【オーケー分かった。いつがいい? 今日か?】
【いや今日は無理でしょ……もう夜だし】
ん? いつも夜中から朝までやることがあったけど? まあ今日は忙しいのだろう。深くは聞くまい。
【日程と時間は後で送るから】
【おう】
【絶対に来なさいよ? ドタキャンとかしたら殺すからな!】
【怖……】
いやそんなこと言ってもゲームのことなら断ることないのだが……、
【初めてのオフ会楽しみにしてるから……】
え、
【じゃあ……またねトオル】
【お、おう】
そこで通知が終わったが、俺はいつまでもスマホを眺め続けた。
え、どゆこと? 何が起こったの? え、え?
あまりのことに動揺していると、心が出来上がった料理を運んできて一言。
「出来たよ二人共さあ食べよ____ねぇ透」
明るい声とは一変、突然の低い声がまるで重力の様に重く圧し掛かる。
久しぶりに感じるこの重苦しい感覚は正直慣れない。なんとかスマホの画面は消したから見えては無いと思うが……。
「透」
「はい!」
「鼻の下伸びてる」
「嘘やん!!」
「嘘」
「……!?」
酷いわ!! あたしが嘘つけないってのにあんまりよ!!
「でもニヤニヤしてる」
「う、うぅぅ……」
駄目だ、コイツに下手な嘘は通じない。まあ嘘はつけないけどね。
「とりあえずご飯食べながら話そうよ。ご飯冷めちゃうし」
「は、はい……」
「いただきます……ほら姫も」
「ん! いただきますなのじゃ!」
さて……どうしたものかな……。
●
食事中の心は終始無言だった。
言葉の通り冷めないうちに食べて欲しい、それが本音だったということだろう。とりあえずそろそろ話しをしよう。
「いや実は出掛ける約束があってだな」
「誰」
「と、友達……」
「女とかじゃなくて?」
「ち、違うよ? ……多分」
そうだ多分、おそらくきっと……所詮ネットだしね? 本当はもっとゴリゴリなおっさんかもしれないし、今時はノアみたいに男の娘がいるしぃ? 嘘じゃない判定になるよねそうだよね? そうですよね呪いパイセン!?
「ゲーム仲間と遊ぼうとね! はは!」
「……あのクソ後輩とかじゃなくて?」
「景ちゃん? ないない」
「今日は出掛けたくせに?」
「ぐっ……」
さすが心さんよく知っておるな……。
「アイツから水着の画像と自慢付きでメッセージ来たから”透に似合うって言われたって自慢付きで”」
「……」
「アイツの水着画像ネットにばら撒いてやろうかな」
「それは倫理的に駄目だろう……」
「じゃあ僕とも買い物デートしてくれるの? くれないの?」
ぐぬぬ……、それ実質選択肢ないですよね。断ったら俺どうなっちゃうのよ……。
顔色を覗き機嫌を伺ってみるが、既に包丁を持ってスタンバっている。
感情の無い真っ黒な瞳で……もう超怖いのだが……。
でもどうすれば良いのやら、そんな意味の無いこの場をやり過ごす思考を巡らせていた時「心よお主まだまだ青いのぅ」と姫が語りだした。それに対し心が良い顔をする訳もない。
「今日一緒にお買い物デートした姫ちゃんなんですか?」
「まあそんな威圧するでない。これは儂から話すタメになる話じゃがな」
「なんですか?」
「”共に買い出しに出掛ける”それも良かろう。青春じゃ」
買い出しとか可愛くないって? まぁそれは良いのじゃ。
「ともかく好いた男児と逢引をすることは良いと思うが、今回は儂に良い案があるぞ」
「それはなんですか?」
それは、
「”さぷらいず”というやつじゃよ」
「____ッ!!?」
「分かったようじゃな」
「つまり透に選んでもらうのも良いけど、自分で選んで透を驚かしてドキドキさせた方が良いと!!」
「お、おうそうじゃな」
「その方が透のドキドキを先出しすることなく、後に最高にドキドキさせられるし!!」
「う、うむ……」
若干姫が引いているが、心の機嫌が良くなった。
ありがとう姫様……、お前のおかげで心が鼻歌ご機嫌モードで洗い物に行ったんだぞ? もっと誇れってな?
その後、なんとかオフ会の日時が決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます