通常ルート119 景 露音姫 天 デート後編



「ずびばぜんでじだ……」


 地面に頭を擦り付け、誠心誠意気持ちを伝え続ける。ただそれを見てもらいたい子達にこの想いが届いているのかは別だ。


「私はそんなに怒ってないです。先輩に私が怒るなんてまず無いことですし」

「私もそんなに怒ってはいないよ。ただのペットにそんな資格ないからね」

「……」


 あーうん、じゃあここで言うけどね?


「俺が今ボコボコなのは何故なんだろうか?」

「「さぁ?」」

「『さぁ?』じゃないけど!?」


 現在進行形でズタボロにされ、水着販売店の綺麗な床に正座させられた俺を見下ろしながら景ちゃんと天はにこやかに応えているので冷静にツッコミを入れるが、景ちゃんはそれに冷たい眼差しを向ける。


「そもそもこんな事しておいて命がある奇跡にもっと感謝して欲しいですよ」

「全くだ。私もご主人様の匂いがするとは思っていたけれどね、まさか姫君もいるとは思わなかったよ」

「それはコイツが____」


 原因は全て姫だと、そう口に出そうとした時、何故かその続きが話せなくなった。

 驚きのあまり口に触れてみると、まるで本当にお口にチャックをしたかの様に固く閉ざされ、口を開けることが出来なくなっている。


 こんなことが出来るのは一人しかいない。


『露音姫様!!?』


 開かない口を押さえ目線で強く訴える……が、その犯人は冷酷にも二人に涙目で報告しだす。


「儂は嫌じゃと言ったのに透が勝手に入って来てぇ〜」

「「ナニ?」」


 この駄神!! 嘘つけない俺への嫌がらせか!? 許さないぞこのクソが! お口にチャックなんて知ったことかぁぁぁ!!!!


「だらっしゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 我慢の限界が超えた瞬間、自分の開かない口に手を突っ込み無理矢理こじ開けた。

 

『此奴!? 儂の力を無理矢理破りおったのじゃ!!』


 うるせえ黙ってろ駄神!!


「勝手じゃない!! 実は姫に無理矢理連れ込まれたんだ!!」

「……姫さん?」

「え、あ……えーとあれじゃ、つい出来心での」

「……」

「わ、儂はあれじゃ透お兄ちゃんの妹じゃからの! ついお兄ちゃんにイジワルしたくなっての!」

「……」


 動揺して言い訳を繰り広げる姫を景ちゃんは睨みつけている。正直気まずい……。

 

 こうなったらここは……、


「俺景ちゃんの水着見たいんだけど見たいなぁーなんて」

「____なんですって?」


 景ちゃんの眼光が今度は俺へと矛先を向ける。


 クソ駄目だったか!?


「もぉーしょうがないですね先輩!! そこまで言うなら見せますね!! 本当に先輩は私のこと好きなんですから!! 全くもう!!」


 あ、チョロかったわこの子。


「ご主人様に水着を見せるだと!? なんて破廉恥な!!」

「お前は今更何を言っているんだ??」




「先輩いますかー?」

「いるよー」


 少しの間をおいて、


「先輩いますかー?」

「いるよー」


 さらに間をおいて、


「先輩いますかー?」

「いるわ!! どんだけ信用ないんだよ!!」


 試着室越しに繰り返し俺がいるかを確認してくる景ちゃん。

 景ちゃんもだが、姫と天も試着しているのもあり現在一人で待っているわけだが、


「男の俺が一人でいるのは尋常じゃない程に気まずいのだが……」


 と、まあそんな気まずい俺を察してか、景ちゃんはすぐに着替えを済ませ姿を現した。


「じゃーん! どうですか先輩!!」

「おー」


 景ちゃんの水着は真白でシンプルなデザインで、綺麗な白髪と合わさって清楚な印象を与えている。


「凄く可愛いぞ景ちゃん」

「本当ですか!? やったぁー!!」

「うん……可愛いよ? ただね?」


 なんですか先輩? と嬉しそうにご機嫌な景ちゃんが言うので機嫌の良いうちに言っていた。


「こういうシンプルな水着って自分の容姿に自信のある人しか着ないよな、と」

「余計なこと言っているとその口捩じ切りますよ?」

「怖っ……」


 笑みを崩さずに握り拳を作る景ちゃんの姿に怯えていると、次のカーテンが開かれ天が姿を現す。


「ど、どうだろうか……ご主人様……」

「ッ!?」


 天は景ちゃんとは対照的に黒ビキニを着ており……それがまた……、


「メッチャ綺麗じゃん。あと胸デカいな」

「あ、ありがとうございます……」

「いや本当に綺麗だ____なんで照れてんだよ天。あと胸デカいな」

「は、恥ずかしい……」

「嘘やん。あと胸デカいな」


 お前アホな格好で夜の散歩とかした癖になんで照れてんだよ。照れるところがおかしいだろう……あと胸デカいな。


 ただとりあえず言っておきたいことがある。


「これ心達にバレたらヤバそうじゃん……」




        ~おまけ~




「はっ!! でもこうやってご主人様にいやらしい視線を向けられているだけでご褒美では!? そう考えると興奮してきたよ!!」

「いや本当にこの雌豚どうしようもないな。あと胸デカ____痛っ!?」


 突然の足に起きた激痛の発生源を見てみると、景ちゃんの足がそこにあった。


「景ちゃん痛いっす……」

「先輩の馬鹿……」


 理不尽過ぎない??


「透お兄ちゃん! 儂の水着はどうじゃ? か、可愛いかの……?」

「あーはいはい可愛い可愛い」

「な、なんじゃ! 適当過ぎじゃろがい!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る