通常ルート117 景 デート?前編
◆
「透お兄ちゃん行くのじゃ!」
「待てよ姫走ると危ないぞー?」
「じゃったら早う来るのじゃ! ほれ景も早う!!」
「……」
デパート内を笑顔で駆け出していく姫は見た通りの子供という感じだ。
結構な頻度で思うが姫は何百年も神様をしているらしいが、何か年数と態度が見合ってないというか少し違和感を覚える。
が、こんな事は今のところ重要じゃない。何故なら、
「……」
「ひ、景ちゃん?」
「……なんですか」
「なんか機嫌悪くね? なんか不満があるのかなと」
「不満? 不満ですか? えぇ不満で溢れてますとも!!」
どう見ても不機嫌ですよ、と露骨なアピールをしていた景ちゃんは俺の発言を聞き文句を爆発させた。
「先輩!! 私は家を出る前になんと言いました!?」
「え、何を……確か出掛けようって」
「出掛けようじゃありません!! デートですデート!! 私は”デートをしましょう”と言ったんです!!」
「だからこうして暑いってのに外に出て来たんだろ? デパートだって景ちゃんが提案したんじゃないか」
そう、俺達は先程から話題に出ているが現在駅前のデパートへとやって来た。
もちろん別のデパートではなく、前に杏理と買い物に来たり、心や景ちゃんとデートに来たお馴染みのデパートにまた来たわけだ。
だが景ちゃんはそれが不満らしい。
「違うんですよ!!! そうじゃないんですよ!!! 一緒に買い物に来れたのは嬉しいんですけど!!!」
「じゃあ良いだろ」
「良くないんですよぉぉぉ!!!」
おうおう落ち着け落ち着け……皆見てるからね??
「私が言いたいのはあれです!!」
「あれ?」
景ちゃんが指差す方を見てみると、
「姫?」
嬉しそうにコチラに手招きして俺達を急かしている姫しかいないのだが、どうやらその姫が問題のようで、
「なんで二人きりじゃないんですか!? なんであの子もいるんです!」
「いやだって一人で家に置いとけないし」
「だからってそんなぁ……これじゃデートじゃありませんよ……」
ま、まあそんなこと言わずに許してくれよ景ちゃん……ほら姫も嬉しそうだろ? 一人で家に置いとくのも可哀想なんだよ。
「それもそうですけど……」
だろ? と納得しつつも渋る景ちゃんだが、いつまでも来ない俺達に痺れを切らして姫が走ってやって来ると一言、
「なんかあれじゃの景よ!」
「……なんですか」
「透お兄ちゃんと景が一緒にいると”かっぷる”みたいじゃな、と思っての!!」
そんな言葉を聞き景ちゃんは、
「もぉー姫さんたら正直なんですからねぇ! さあ行きましょうか! お昼はフードコートでご飯食べましょう私が奢ります! デザートにニャスドのドーナッツも買っちゃいますからねぇ!!」
無茶苦茶チョロかった。
「ちょろいのじゃ」
おい口に出すな。
●
こうして一瞬で上機嫌になった景ちゃん、さらに別の理由で上機嫌になった姫と共に来た場所はデパート内のとある一角。
その煌びやかな店を見て俺は思わず後退り、ニコニコな景ちゃんに問うてみる。
「ひ……景ちゃん? 用があるのはここなのか?」
「そうですよ!」
「透お兄ちゃんここか? ここが”にゃすど?”という場所かの??」
いや違うここは……。
「水着専門店です!!」
「マジかよ……」
店舗内外の目を惹く所に置かれたマネキンには可愛らしいフリルの付いた水着や、大人っぽい水着が着せてあり、もう男という生物が入るにはとてもハードルの高い場所がそこにあった。
「夏なんですから水着を買いましょう!」
「そうか……じゃあ俺は適当に椅子に座って待ってるよ……」
「何言っているんですか先輩も入るんですよ?」
マジでか……景さんやお前マジで言ってんのか? これは服選びよりも過酷だぞおい?
「水着を選んでもらいたいから来たんですよ。これはデートなんですからちゃんと私と一緒に付き合ってください」
ねぇ? と握り拳にさらに力を加え、拳から軋む音が聞こえる。
一体どんな威力を加えているんだ……これは逆らわない方が良いな……。
「あ、はい分かりました」
「姫さんも一緒に水着を選びましょうね! そしてこの夏の間に三人で海に行きましょう!」
「海良いのぉ! 行ってみたいのじゃ!」
じゃあ行きましょう、と諦めて店に入り、二人の買い物を見守ることにした。
嬉しそうに水着を選ぶ二人はまるで姉妹の様に仲睦まじく、変な事を言わなければ可愛い二人だからか他の客の注目も浴びている。
き、気まずい……。
「先輩これどうですか?」
「お、おう良いのではないですか?」
何故敬語って? うるせぇ恥ずかしいんだよ。
「先輩これは?」
「おー良いのでは?」
「……じゃぁこれは?」
「おー良いのでは?」
「……ちゃんと見て言わないと腕折りますよ」
「おー良いんじゃないかぁ!!? なんだろうあれだよ! 白い水着も可愛いな! 景ちゃんの透き通った白髪と揃って良いなぁ!!」
「そ、そうですか……?」
「うん!! スゲェエロい!! ナンバーワンセクシー女優になれるぞ!!!」
「……」
「痛ッ!!!」
突然に足を勢い良く踏まれたが、仕方ないだろうほぼ嘘つけないんだから!!
「透お兄ちゃん儂は儂は!!」
「可愛いマジ天使」
「天使!! なんたる侮辱じゃ!!」
「いや俺なりの最上級の褒め言葉だから」
「そ、そうなのかの? なら許すのじゃ!」
「なんだコイツ可愛いな」
「う、五月蝿いのじゃ!!!」
頬を赤く染めた姫は顔を逸らしてしまった。
それを見て景ちゃんは目を細めて俺をジトっと見つめ、
「なんか私の時と反応が違いますね」
などと呟く。
いやほら姫さん怒らすと呪いが増える可能性があるから仕方なくねっ! 勘違いしないでよね!
「まあ良いです私試着して来ますので待っててくださいね?」
「あ、うん分かった」
「ほら姫さんも行きますよ」
「わ、分かったのじゃ」
姫を引っ張って試着室に入りカーテンを閉める景ちゃん。もちろん二人とも同じ試着室に消えたわけではなく、別々に試着室へ入っていった。
こんな状況で一人で待つとか一番気まずいのだが____って、
「わっ!?」
そんな一人寂しい状況にいると、突如試着室から白い手がヌッと出てきて俺の手を掴み試着室内へと連れ去られた。
こんな事をしたのは一人しかいない。
「何してんの……姫?」
「……」
こんな事をしでかした姫は俯いたまま俺の手を強く握っている。
幸いにもラッキーなことはコイツが水着に着替えることなく、また服を脱いでもいないヤバイ状況じゃないことが救いなのだが……。
でも一先ず言わせて欲しい。
「これ景ちゃんにバレたら俺殺されるから早く要件を言ってくれ」
俺の精神はドギマギすることもなく、いたって正常だった。
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