通常ルート116




 夏休みが始まり最初の一日目。

 俺は早速姫と共に夏休みを満喫し、惰眠を貪っていた。

 いつもの学校があると錯覚し、早くに起きてしまったが二度寝をして姫とダラける。


 けれど、そんなことがいつまでも出来る訳なく、


「……重い」

「むふふ……もう食べられないのじゃ……」

「そんなベタな寝言言う奴いんのかよ」


 姫が大の字で寝ている所為で足が俺の腹にのし掛かっている。

 いくら小さい奴でもこれは流石に重たいし、でもまだ寝ていたいのが本音だ。


「もう少し寝るか」


 とても駄目な奴、というか俺のことだが仕方ないだろう。学校が無い初日を満喫したいのだ。


 だがそんな俺の幸せの時間は長く続くことはなく、突然鳴った来客を知らせるインターホンが部屋内に響き渡る。


「……」

「透〜? 鳴ってるのじゃ〜」

「お前起きてたのかよ。知らん無視だ無視! 俺はまだ寝たいんだ!」


 ならしょうがないの〜、と再び寝に入る姫、コイツには来客の事はどうでも良いようだ。

 こんな事をしている間も呼び鈴が繰り返し鳴り続けている。

 ここまで来たら誰もいないのかと考えないのだろうか?


「お、止んだ」


 もはや迷惑になるレベルで連打で鳴らされていた呼び鈴はようやく収まり、再び寝ようとした瞬間だった。


 ベキッ……、と聞き覚えのない、だが嫌な感じの音が鳴った気がした。そしてその後扉が開く音と共に一言、


「先輩いますよねー? 入りますねー」


 何やら聞き覚えのある可愛らしい声がする。


「……夢か」

「……夢じゃな」


 気のせいだろう。どっかの怪力馬鹿後輩が不法侵入してきたような気がするが気のせいだろう。神様が共にいるなら怖くない、このまま三度寝に旅立とうか____


「姫さんお土産のお菓子とかありますよー」

「今行くのじゃーー!!!」

「クッソ裏切りやがった!!!」


 布団から飛び起き声のする玄関へと走って行く姫、仕方なく自分も起き上がり声の主へ進む。

 まぁ誰かはもう分かるんだけどね。


「おはよう景ちゃん……」

「おはようございます先輩! もー早く出て来てくださいよー!」

「あ、うん。ごめんな?」


 そこに少し困った様子だがすぐに笑顔を向ける白髪が綺麗な少女、後輩の海野景ちゃんがいるわけで、

 ……うん知ってたよ? でも言いたいことがあるんだけどね?


「景ちゃんとりあえずノブを捩じ切るのやめてくんない?」

「逆に考えてみてください先輩……? 私ごときの力に耐えられないドアノブの方が悪いのでは?? あ、先輩これ捩じ切ったノブです」

「そんな脳筋思考やめてくんない? 同じゴリラでも景ちゃんより本物のゴリラの方が常識分かってそうだ____イタタタタタッ!!?」


 毒を吐きつつ取れたドアノブを受け取ろうとしたら景ちゃんは俺の腕を掴み力を込め出して来た。

 というかどんだけの力で掴んでんだおい!?


「私……丁度先輩が肌身離さず持ってる物が欲しいと思ってたんですよねー? ……この腕貰って良いですか??」

「……す、すいません腕着脱不可能なんで勘弁してください……」


 もう先輩冗談ですよ、だって? 目がマジだっただろうが、俺の右腕が無くなったらどうしてくれる。


「大丈夫ですよ。先輩の右腕が無くても私が先輩の相棒……右腕であることには変わりませんからねっ!!」

「上手くねぇよ」


 


「全くもう先輩ったら冗談ですよ冗談!」

「……へぇ? ほぉ? 俺の目を見てもう一度言えるか?」

「もちろんですよ! ____きゅん♡ 先輩そんなに見つめないでください♡」


 駄目じゃないかよ。

 

「お主らはさっきからなんじゃ? 漫才でもしておるのか?」

「してない」


 のんびりとお土産に貰ったお菓子を食べながら姫は俺達の姿を呆れた様でジットリ見つめている。

 なんだよお前いつもなら俺の不幸をゲラゲラ笑ってるのに。


「儂をなんだと思っておるのじゃ!!」

「疫病が____意地悪な小悪魔かな☆」

「……せめて”人の不幸を喜ぶ意地悪な猫型ロボット”と言って欲しいのぅ!」

「いやクソじゃねぇか!!」


 そんな国民的なロボットがいてたまるか! 

 など、姫と会話を弾ませようとすると隣の景ちゃんが良い顔をしないわけで、


 景ちゃんは姫の方を向く俺の顔を両手で押さえ、


「もう先輩!! 私といるんですから私だけを見てください!!」


 ゴキッ____


 力技で勢いよく首の向きを変えられたことで盛大に首からよろしくない音が鳴り響いた。


「痛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「もう先輩の馬鹿♡」

「痛い!! 絶対首折れたマジで折れた!!」

「そう言える間は大丈夫ですよ」

「暴君か己は!!?」


 そんなことより! と痛みに苦しむ俺を無視して、


「先輩!」

「……なんだよ?」


 景ちゃんは続ける。




「先輩デートしてください!!」


 ……

 …………

 ………………


「嫌____」

「断るつもりですか? でしたら和服の女を家に招いたことで折檻しますけど??」

「んー☆ やっぱりなんか出掛けたくなったなぁー☆ 行こうぜ愛しの景ちゃん☆」




        ~おまけ~


「透お兄ちゃん?」

「なんだよ……首痛……」


 いやの?


「儂の力で脊髄は守ったからの」

「え……」

「儂が守らなきゃ死んでおったぞ」

「マジかよ……」

「ほれ礼はどうしたのじゃ? ほれほれ?」

「いやマジで俺の命が風前の灯火過ぎんだろ……」


 まあ嬉しいけどね??


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