通常ルート115
「これ粗茶ですが……」
「ありがとうございます」
「え、えっとよろしければこれお菓子です。お茶請けにどうぞ……」
「お構いなく、すぐ帰りますので」
「あ、さいですか」
わざわざ家にまでやって来てくれた乱華達の母親を追い返すわけにも行かず、とりあえず用があるらしいので家に上がってもらうことにした。
客人用のお茶やお菓子があって助かったわ。
ただ俺は買った記憶がないから多分心が買って俺の家で寛ぎながら食べるやつだと思うが……まあ後で謝っておけば良いだろう。
すまん心、と謝る事を想定し、先に内なる心に謝罪をしていると東鐘お母様から一言。
「で? 先程のは一体なんなのかしら?」
突然の言葉に一瞬頭が真っ白になるが、すぐに冷静さを取り戻し応える。
「あ、いやですから別に付き合ってるわけではなくてですね?」
「娘達が嘘をついていると? そう言いたいのですか?」
「へ!? あ……いや……」
おっふ……
「あ、あのですね? 厳密には天とは……」
「天?」
「……そ、天さんとは別に付き合ってなくてですね? 乱華と付き合っていたというか……」
「あらそうなのですか? 娘の話と違いますね」
「ち、因みに天……さんはなんと?」
「付き合っているとは直接は言いませんでしたが『将来を誓い合った素敵なパートナー(ご主人様)』がいると言ってましたねぇ」
アイツなんてこと言ってんだぁぁぁ!!?
「それと」
まだあるのか……?
「少し前のことですが夜に水着で家を出て行く姿を見ましてね、娘本人に聞いたら貴方に会いに行ったと言ってましたよ。それに関してはどう説明するつもりなんですか?」
「あぁぁぁ……」
「娘にそんな格好をさせといて付き合ってないと? 面白いこと言いますね。えぇ……ここまで面白いのは久しぶりです……」
ミシミシ、とお母様が手を添えていた湯呑みに一瞬にしてヒビが入る。
これはあれか!? 嘘つけないし正直に言うしかないのか!? よし行くぞ!!
「いや実はあの格好は天さんが好きで着て来たんですよ!」
「そんな変態がいるわけないでしょう」
「しょ……しゅんなこと言っても真実なんですっピ……」
ですよねぇ……本当にそんな変態がいるわけないですよねぇ……(号泣)
「それにあの子首輪を愛おしそうに見ていたわ!! 愛しそうに眺めたり首に付けたりしていました!! あれは貴方がプレゼントした物では!?」
「あれはアイツが買ってきたんですけど!?」
「それに最近じゃ夜中になにか言ってますし!」
「……なんか? それは一体?」
「なにかブヒブヒ言っているんです……」
「あ……」
天のヤツまさか家で鳴き方の練習をしてるのではあるまいな……? え、アイツマジでふざけんなよ?(ドン引き)
「あれなのでしょう!? そうやって天ちゃんもペットにして弄んでいるのでしょう!?」
「んなわけあるかっ!! てか”も”ってなんだ”も”って!!」
「リードして散歩したり、いやらしい格好をさせたり、自分のことをご主人様とでも呼ばせているのでしょう!? なんて破廉恥なっ!!」
全部正解してるし何その天才的想像力!? あれか、変態の親だから思考回路も同じなのか!!?
「……ま、まあもう天のことは良いです……。と、とりあえず乱……下の子と付き合っているというわけですね? まあ貴方がワタクシの娘と交際しているというだけで怪しいものですが」
「あ、もう乱華とは別れました」
「……」
「……」
「ぬ? 菓子を食わぬのなら儂が貰うのじゃ」
黙り込んでしまった東鐘家のお母様、長いな東鐘ママで良いだろう。
ともかく東鐘ママが話さなくなってしまったので必然的に黙っていると、姫がお客様用のお菓子に手を伸ばしあっという間に食べてしまった。
美味しかったって? そりゃ良かった。
などと考えていると、東鐘ママは突然机を勢いよく叩き怒鳴り出した。
「こぉの最低のゴミ男がァァァ!!!」
「えぇぇ!!?」
「嫌がる天ちゃんに最低な格好をさせて外へ連れ出し!」
いやそれは天の趣味で!!
「乱華ちゃんを弄んでアッサリ捨てる!」
「待って!? 誤解誤解!!!」
「この変態男!! ワタクシの娘達になんてことを!!! 待ってなさいな必ず後悔させてあげますからねぇぇぇぇ!!!!」
「ちょっと待ってぇぇぇぇ!!!?」
とんでもない事を言いながら部屋を飛び出て行く東鐘ママさん、それに対して反論したい気持ちはあったのだが全く相手にしてくれなかった。
開け放たれた扉を茫然と眺め、俺は歯を食いしばり吐き捨てる。
「俺が何をしたっていうんだぁぁぁぁ!!!」
こうして不安いっぱいの夏休みが始まった。
~おまけ~
「あ、思い出したのじゃ! あの小娘ゆーちゃんではないか! 懐かしいのぅ!!」
あの露音姫様? お前今の今までお菓子食っててようやく喋ったと思ったらそれか? ……ったくお前は本当に____って!?
「お前あのお母様のこと知ってんのかよ!?」
「子供の頃のあやつに会ったことあるぞ」
「マジかよ。知ってたならお前が話をしろよ」
「いや儂は透の面白い反応を見るのが仕事じゃからの」
ふぁっきゅー姫。
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