個別ルート111



「私、アンタのことが好きだったの」

「ッ!? ……そっか、そうだったんだね」


 杏理からの突然の告白を聞くと、心は予想外だったらしく目を見開いて明らかに驚いた様子を見せ、真剣な表情の杏理と無言で見つめ合う。

 黙っていればスーパー美少女の二人が言葉を交わさずに流れる沈黙の時間はそれだけでも絵になる程の状況というか、言葉が無くともただ真剣な表情の女子が黙っているだけで映画のワンシーンの様なそんな場面に思えてくる。


 が、そんな気になる状況での俺の内心はというと、


『言ったぁぁぁぁ!!! 告白きたぁぁぁぁ!!! あー胸がキュンキュンするぅぅぅ!!!』


 恋愛ゲームが好きなのもあってか、俺は絶賛乙女モードに入っていたのであった。


『なんかあれだ! 散々好きって言われてたのになんで何も感じないって元々俺は”見る専”なんだよな!! 決して自分に関心がないわけじゃないが基本は人の幸せな姿が好きな”典型的な後方腕組み応援ニキ”なんだよ!!』


 だからこういう相手の恋愛を見守るような側が好きなのである。言うなれば【あくまで俺はプレイヤーで、主人公とヒロインの恋を応援する役】なのだ。

 

『ありがとう二人共、改めて自分の存在価値を再認識させてくれて……さあ見せてくれ二人のその後ってやつを!!』


 もっと良いのを頂戴!? と厄介オタクと化した俺の期待を他所に、真剣な様子の杏理に対して心がようやく口を開いた。




「うんごめんね? 僕ね透のことが好きなんだよね」

「嘘だろおい?」



 え、そこで今隣にいる俺の名前出す?? 鬼かお前は??


 良い感じに高まったテンションが冷水……いや液体窒素でも浴びせられたかの様に一瞬にして鎮火してしまった。


「え、待って?? この状況で俺いないといけないってヤバ過ぎない? 死ぬ程居心地悪いから帰っていい?」

「雨上アンタちゃんとここにいなさいよ? 逃げるんじゃないわよ?」


 いやこの地獄の様な状況で大人しくいられる程俺のメンタルは仕上がってないんですけど……(困惑)




「ふーんそうなの?」

「うん」


 心の無慈悲な応えを聞いた杏理だが、特に様子を変えることなく話を続ける。


「どんなところが好きなのよ?」


 あ、それ俺も気になる。


「存在そのもの、かな」

「なるほどね」


 存在ってお前……、


「細かく言うと”優しい”とか”格好良い”とか色々あるけどね? 透の内面っていうかな? 人の為ならなんでも出来る所や、困った人を見過ごせない所、他にも自分の中にしっかりとした芯がある所も好きだよ?」

「そうなのね」


 でもね?


「考えて言葉にすればいくらだって出てくるけど僕はそんなのどうでもよくて、透とならこの先十年でも五十年でもずっといられるなぁ……って、いや一緒にいたいなって思うんだよね。ずっと僕を見ていて欲しいなぁって」

「……」

「今の僕じゃない時から透は僕の事を考えてくれてて……透は男とか女とか関係無しにその人の幸せを第一に想えるそんな人なんだよ」

「……そうなのね」


 うん、と応える心は幸せそうな笑顔を見せている。

 正直色々言いたいことはあるがとりあえずここは置いておくとしよう。ちゃんと話を聞きたいし、俺が二人の話に入るのはおかしいしな。


「私はなんで心のことを好きになったって」

「うん」

「単純で悪いけど優しかったからよ」


 転校して心細い私に声をかけてくれた。一緒に出掛けてくれた。友達を紹介してくれた。いつも楽しい日々を送らせてくれた。おはようって、また明日って言ってくれた。

 それだけのこと、でも、


「どんなに単純って思われても良いわ。それでも私は心のそんな所に惹かれたのよ……」

「そっか……ありがとね杏理ちゃん」


 告白を受けて素直に礼を言う心に杏理はさらに続ける。


「……ねぇ心?」

「なぁに?」

「心太郎に戻りたいって思わない?」

「思わない」


 心は即答した。


「皆には悪いけど僕は今が良いの。今の自分に……心になれて嬉しい。透にちゃんとアプローチができるもん。僕はいつまでも親友で幼馴染じゃ嫌なの」

「……」

「それにもう透のお義父さんとお母さんには挨拶したしね、透との結婚は約束されたようなもんだよ」

「「……」」


 え?


「あのー? 心さん?」

「……」

「おーい心さん聞いてるかな??」

「……」

「おい無視すんなや!! なにお前は外堀から埋めてんだよ!! 当の本人の俺は何も知らないんですけど!!?」

「透今は黙ってて」


 理不尽過ぎる!!!!!


「なるほど、心の気持ちは分かったわ」

「杏理ちゃん……」

「正直言うと私ね? 心のこと昔に会った優しくしてくれた男の子に重ねてたみたいなのよ。今にして思えば本当にスケコマシで、女の敵で、歯の浮くようなことを簡単に言うようなやつだったんだけどね??」


 そんな奴いるの?? 最低な奴だな。


「でもソイツのおかげで今まで頑張って来れたのよね。また会いたいって思いで転校してきたわけだし」


 そう言うと杏理がコチラを見てくる。どうしたのだろうか? なんで俺を見てくるんだ??


「……その子には会えたの??」

「ん〜? まぁ〜会えたわね? ソイツは覚えてなさそうだけどねぇ??」チラッ

「……ジロリ」


 な、何故俺を見るし?


「ソイツ誰でも助けるような正義マンなのよ。だから他にもソイツのことを狙ってる子がいるみたいでね? 少しの失恋なんて気にしてられないなって」


 ほぇ〜? どうやら杏理には新しい恋がやってきたようだ。

 大変だね本当に、と内心応援していると杏理が突然俺を指刺し言い放った。


「透!!!」

「え!? あ、は、はい透です」

「これから私はアンタのこと透って呼ぶから!!」

「あ、そっすか」

「なんか文句ある!!?」

「いや特に」

「勘違いしないでよねっ!? 別に透のことなんかなんとも思ってないんだからね!?」

「あ、うん。知ってるぞ?」


 おう唐突のツンデレは良いな。魂に染みる……これはあれだ。今は無理だが後に難病の薬になるな(確信)


「……それで一つ聞きたいんだけど……と、ととととと、と、透??」

「おうどうした?」

「アンタ今好きな人とかいる??」

「いや特に」

「……そうなのね」


 なんで露骨に凹んでんの?? 


「とりあえずあれよ心」

「……なにかな?」

「これからよろしくね」

「望むところだよ」


 告白から見つめ合い、そして最後には睨み合う二人。

 え、どうしたんだよ二人共?? なんでそんな怖い顔してんだよ!? 何があったんだよ!!?




        ~おまけ~




「どうかしら! 私の胃袋から捕まえに行く作戦は!!」

「ムムム……侮れないね。とりあえず杏理ちゃんこのいなり寿司の作り方教えてくれないかな?? ……振る舞ってあげたくて」

「何言ってるのよ私達はもう同志なのよ? レシピどころか全部教えるわ! 後で私の家集合ね!」

「ありがとう杏理ちゃん!!」


 熱い握手を交わす二人を見て俺は思う。




 仲良きことは良いことだなぁ……(他人事)



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