個別ルート101 杏理♡
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「おい透早う来るのじゃ!! いつまでも止めてはいられぬぞ!!」
静止した世界、俺と姫以外の全てが止まった星空町を二人で歩く。
杏理を狙う男に襲われて今までで一番危うい状況だったが姫のお陰でなんとかそれを脱却し、現在離れた場所まで逃げて来たわけだが……、
「ちょ、ちょっと待ってくんない姫!!?」
「なんなのじゃ?」
「いや疑問系で言わないでくれって!! 俺の状況見てくれ状況を!!」
悲痛の叫びを投げかけることで姫は目を細め俺の現在の姿を数歩離れた場所から眺め、そしてため息を吐いた。
「透よ……そんな東鐘の巫女の胸を背中で堪能するとは……お主は”おーぷん助兵衛”なのじゃな……」
「誤解だぁぁぁぁぁ!!!!! ____痛えぇぇ!!!」
否定と共に肩への激痛、もう最悪である。
目の前の馬鹿はあんなことを言っていたが厳密には違う。現在の状況を説明しよう。
あの杏理関係の男から姫の時間停止を使って回避したのは良かったのだが、あのままあそこにいてはいけないと逃げ出した。
ここまでは良い、姫のおかげで助かったのは事実だしな。
ただ、
「なんでお前が手ぶらで怪我した俺が止まったままの天を担いでんだよ!!」
「適材適所じゃ、男と女じゃぞ? 必然的にお主の方が力があるじゃろうが」
「こっちが怪我人なのがその選択肢に含まれて無いんですけど!!?」
「男じゃろ」
「男女平等を支持する!!」
こんの駄神がいい加減にしろよ! 絶対にこの怨みは忘れない!!
「覚えてろよ! 俺の怪我が治った暁にはお前の神社の賽銭に脱糞してやる!! お前の神社を”運”の溢れる神社にしてやる! ”う◯こ”だけに!」
「殺すぞ」
「まさかの直球!?」
「儂の全神力をかけてお主に呪いをかけるのじゃ……とりあえず女性関係の呪いの」
酷い!! 神様って皆そうですよね! 俺のことなんだと思ってるんですか!!?
「儂の退屈を紛らわす人ぎょ____大切な友達じゃろ?」
「今”人形”って言おうとしなかったか? ねぇ?」
気のせいじゃろ、と口笛を吹いて誤魔化す姫に告げる。
「ダウト」
「五月蝿いのじゃ。あ、透よ」
「んだよ」
「そろそろ時間切れなのじゃ」
「え」
言われた言葉に反応する暇なく、環境音が突如聞こえて周囲が動き始めた。
その結果、
「くっ殺せ!! 貴様なんぞにやられるくらいならご主人様を殺して私も死ぬ!!」
「天さんなに物騒なこと言ってんの!? てかただでさえ痛くて力入んないのに暴れんな____あ」
時が動き出したことで突然天が暴れ出してしまい、俺はそのまま天を背負ったまま地面へ倒れ込んだ。
「い……痛い……」
もう色々痛過ぎて訳が分からない。
「とりあえず動けるなら降りてくれ天……」
「え、あれ? す、すまないご主人様」
状況が分かっていない困惑気味な天は言われた通りに降りると、周囲をキョロキョロと確認し出す。
それもそうだろう。天からしたら突然場面が変わって俺に担がれているのだ、戸惑って当然である。
「奴は何処に行ったのだろうか?」
「あ、あれだよ。天が気絶しちまってな、なんとか隙を見て逃げて来たんだよ。なあ姫?」
「じゃな」
「私が気絶??」
俺達の言葉に首を傾げる天は、
「確かに蹴られて酷い衝撃を受けたが……むむむ……!?」
「ま、まあ良いだろ天? なんとか逃げれたんだし! だろ!?」
「む……それもそうか」
なんとか納得させることができた。頭は良いのにコイツも結局はチョロいのだ。
天のチョロさに安心している時、でこれからどうする? と姫がコチラに尋ねて来た。
「どうすると言ってもなぁ……」
「なんじゃ」
正直なところ傷を治療したいのだが、下手に町を動いてアイツに見つかるのもよろしくないだろう。
……というよりも気になることができた。
「なあ姫?」
「なんじゃ」
「俺の気のせいなら良いんだけど」
____なんか機嫌悪くね?
「時間停止はかなりの神力を使うから疲れたのじゃ」
「あ、そういう」
「なんじゃったら一番の功労者の儂を運んでくれても良いんじゃぞ?」
う、嘘やろ? こ……この肩でですか??
「なんじゃ天は良くて儂は駄目なのか? お主の命救ったの儂なのに? 体育祭での大活躍の寿司も貰ってないのに? へーふーそうかそうかよう分かったのじゃ。透の誠意というやつがな」
「んー! なんか急に姫を抱っこしたくなって来たぞぉ!? 姫へい! 今ならお姫様抱っこでもいけるぞ! ”姫”だけにな! ハハ!」
「普通にキモいのじゃ」
「はぁ? キレそう」
誰の為に言ってると思ってんだ? ぶっ飛ばすぞおい?
眉間に皺を寄せ、文句の一つでも言ってやろうかと思考しているとポケットに入れたスマホが震えた。そこに記された名前は、
”杏理”
「!?」
俺はすぐさまスマホの通話ボタンを押し叫んだ。
「おい杏理!?」
「……久しぶりね雨上」
久しぶりに聞いた杏理の声は少し弱っているのか元気の無い声色で、俺の心配をより駆り立てる。
「大丈夫なのかよ」
「大丈夫……って訳じゃないわね。あまり動けないから……」
「……」
「さっき家の方に仕掛けてたセンサーが反応したのよ。雨上アンタも奴に会ったんでしょ?」
大丈夫なの? とコチラの心配をしてくれる杏理、自分のこともあるというのになんて優しい奴なのだろうか……。
「俺も別に大丈夫だぞ」
「……そうなのね」
「おう」
「「……」」
会話が途切れ、僅かな沈黙の後に杏理が静かに囁く。
「ねぇ雨上?」
「なんだ杏理?」
「……一つだけ我儘が言いたいのだけど良いかしら?」
「ん? どうした?」
すると、杏理の声が少し震えて電話越しでも分かるくらいの悲しそうな声で言い放つ。
「……アンタに会いたい」
俺は居場所を聞き、すぐにその場を駆け出した。
姫をお姫様抱っこしたまま……
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