個別ルート100 杏理♡




「____ッ!!?」


 肩に想像を絶する鋭い痛みが走り、倒れ込もうとした身体だったが杏理宅の塀に背を向けていたおかげで塀に体重をかけしゃがむ事ができた。

 それにしても、


「透!!」

「ご主人様!!」


 とんでもなく肩が痛い。いやもはやどのくらい痛いとかそんなことを考えられないくらいの激痛である。

 歯を食いしばり言葉にならない叫びを抑え込み肩に手を触れると、その行動に対しての痛みと共に手のひらに粘度のある液体が触れた。


「……うわ……やば」


 血だ。偽物じゃない本物の血。

 手を顔に近付けると独特の鉄の臭いが鼻を満たす。

 前の男を見てみると、奴の手には銃が握られていた。俺が理解を出来ずに呆けていると、




「もう一度言うぞ。”L”を知っているか?」




 男の発した言葉を認識する前に隣にいた天が腰の刀を抜刀し、勢い良く大地を蹴り踏み込み跳躍した。


「____殺す」


 瞬間、俺は叫ぶ。


「天よせ!!!」


 果たし合いの時よりもハッキリとそれでいて静かな天の殺意が謎の男にも伝わったらしく、相手もまたなんの躊躇いもなく銃の引き金を引いた……が、それが天に届くことはなかった。


 刀身を振り切ることなく、弾丸の軌道に合わせ刀の向きを変えた天はとんでもない芸当を見せたのだ。

 天の行動により弾丸と刀、両金属が接触した時に僅かに金属特有の甲高い音が響く。

 

 その結果……




 天は発射された弾丸を日本刀で両断した。




 自分からそんなに離れた相手ではない。寧ろ相手はフードを被っているけれど、本来であればお互いの顔を容易に認識できる程の距離。

 そんな距離で彼女はそれを行ったのだ。


「……マジか」


 相手も困惑している。気持ちは分かるぞうん。

 因みに一般人の俺がなんでそんな人間の枠からズレたことをしている奴らのことを見ていられるか。その理由だが、


「透安静にするのじゃ!! 弾は運が良いことに貫通しておるぞ!!」

「た……弾で撃たれる経験は一般人にはねぇんだよ。何が運良いか分からないわ……」

「治療の時に弾を抜かなくて良いから痛みがマシになるのじゃ」

「あ……それ良いな……」

「ま、どのみち痛いのは変わらんのじゃ」

「それ全然嬉しくねぇから!! ____痛ッ!」


 おうおう動くなって? じゃあツッコミをさせないでもらって良いかな?(ガチギレ)

 こちとら今も死ぬほど痛いんだよ。


 と、まああれだ。

 シンプルに日頃から心達の強襲を回避してきたことで得た動体視力と、撃たれて出血したことでアドレナリンが大量分泌したことによるちょっとした”ハイ”な状態になっているだけなのである。はい。


 ……

 …………

 ………………


「はい」

「透よ阿呆なこと言っとらんで歯を食いしばれ。止血してやるのじゃ」

「いや今は俺より天を……」


 相手を殺す前に天を止めろ、と姫にそう言おうと痛みに耐え、刀を振おうとしていた天から姫に目線を向けた時、


「っ!?」

「痛え!!!」


 突然の鈍痛、あまりの痛みに叫びそうになるのを堪えて音も無く悶絶した。

 ゆっくり目を開いてみると天が俺に倒れ込んでいる。どうやら男が足を上げていることから、突っ込んで行った天だが蹴り飛ばされて戻って来たらしい。


 女性を蹴っ飛ばしただけでハラワタが煮え繰り返りそうになるが、まあでも良かった。

 突っ込んで行った天を見て本気で心配したのは事実なのだ。


「天……無事で良かった……」

「ご主人様すまない情けない姿を見せて……」


 自身の行動が阻まれたことにショックを受ける天は苦虫を噛み潰したように顔を歪ませる。そんな時だ。


「おい透」


 危機的状況の中、隣にいた姫が耳元で相手に悟られぬよう言葉を発した。


「儂がなんとかする。僅かな時で良いから奴の気を逸らすのじゃ」

「えぇ……」


 このヤバい状態でそんなこと言うの!? 己は鬼か!!?


「神じゃ」


 平然と人の考えを読むな! それはマナー違反だろがい!!


「良いから早うするのじゃ。選択肢はない

「ぐぬぬぬ……」

「この間だけ呪いは解除するぞ。存分にその話術を使うのじゃ」

「ま、マジか」


 ……良いよやってやるよ!! 見せてやるよ俺の口八丁を!!


 奴が銃口をコチラに向けている。

 俺達をいつでも撃てるぞ、とこの場において自身の方が上だと言っているようだった。

 

 だが今そんなことは関係ない。俺のやることは一つだ。


「俺は”L”の居場所を知っているぞ!!」

「……!?」


 表情は変えないが、奴の目が僅かに開いた。


「Lを探しているんだろ? 俺達にこれ以上危害を加えるのはお勧めしないぞ?」

「……何処にいる」

「こんなことしといて簡単に教えると?」

「言え」


 奴の指が引き金にかかる。だがまだ引かない。


「まずはなんで探しているか言えよ。話はそれからだ」

「ご、ご主人様……」

「……」

 

 俺の一歩も引かない姿勢が伝わり、奴は静かに語り出した。


「ここしばらく俺はLを追っている」

「何故?」

「殺すためだ」

「____!?」


 内心動揺してしまったが、なんとか生唾を飲み込み感情の揺らぎを抑えて耳を傾ける。


「二週間程前に負傷していたLを始末しようとしたが逃げられた」


 杏理は体育祭の時に転んで怪我をしていた。おそらくそこを狙われたのだろう。


「最強だった奴を始末して俺が最強になる。その為に来た」

「そうか……」


 コイツの所為で杏理は姿を消したのか……そうか……


 ならお前に言いたいことは一つだ。


「くたばれクソッタレ」


 その瞬間姫が囁いた。


「時間じゃ」


 姫は手を上げて世界へと告げる。




「____”時間よ止まれ”」




 次の瞬間、世界が静止した。




        ~おまけ~


「お、お前……」

「どうした透? 早く逃げるのじゃ」

「まさかこんなところで世の一割しかいないとされる”時間停止”に出逢えるとは……」

「ふふふ! 凄いじゃろ!」


 いや本当に凄いわ。感動物だわ。


「偶々透のパソコンをイジっていたら”研究資料”という名前のファイルに多数の動画があっての、それで知ったのじゃ」

「テメェ人のパソコン何見てんだぁぁぁぁぁ!!!!」

「ついでに消しといたのじゃ」

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!」



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