個別ルート99 杏理♡
◆
杏理の家へ向かう中、隣の姫が話しかけてきた。
「のう透お兄ちゃんよ?」
「どうした姫?」
「ブヒィ」
豚の鳴く声は華麗に無視して、
「儂達は今何処に向かっておるのじゃ?」
「おいおい忘れたのか、杏理の家だろうが」
「ブヒィ!」
またしても五月蝿い豚は無視。
「おぉーそうじゃったな。お主が杏理に良からぬことをしないように心達から見張りを頼まれたのであったのじゃ」
「誠に遺憾であるけどな?」
「ブヒィィ!!」
イラ……
「……そ、それにしても杏理はどうしたんだろうな? 家にいてくれれば良いんだけれど」
「全くじゃな、アヤツが早く来てくれねばいつまで経っても寿司が食いに行けぬのじゃ。首根っこ掴んで引きずってでも連れてくのじゃ」
「ほ、程々にな?」
「ブヒィィィ!!!」
イラ……イラ……
「……お、俺はあれか? そんな信用ないのか?」
「え」
「なんだよ」
「寧ろあると思っておったのか透お兄ちゃん?」
「あ、待って? 今日一傷ついたわ」
「ブヒィィィィィ!!!!」
イラ……イラ……イラ!!!
俺の我慢が限界を超えた。
「うるせえぞ雌豚ぁぁぁ!!!」
「ブヒ!?」
後ろを振り返り一番近い電柱に向かって怒号を浴びせる。すると電柱が動いた。
いや正しくは違う。正確には電柱に密着して背後に隠れていた何者かが動揺のあまり激しく動いたことでその様に見えただけだ。
そして俺の知り合いであんなブヒブヒ言ってる奴は一人しかいない。
「ったく……何してんだよ天……」
「な、なんのことかなブヒ……わ、私は通りすがりのただの豚ブヒよ」
「ただの豚が街中にいてたまるか!!」
相変わらず電柱に隠れる奴だが、先程から深緑の髪が見切れているのだ。バレバレである。
「てか待って? 人語を理解する豚とかいくらで取引されるんだ? 無茶苦茶気になるぞおい」
「のうのう透お兄ちゃん? それがもし高く売れたら何が食べれるのじゃ?」
「そりゃもう……回らないお寿司だろ」
「なんと!!?」
魅力的なキーワードを聞いた途端、姫の目が鋭く電柱を睨みつけ、その殺気をすぐさま察知した雌豚は焦りながらようやく姿を現した。
その正体は予想通り、
「う、売り飛ばさないで欲しいブヒ! 私はご主人様の側にいたいブヒ!」
「やっぱり天じゃねぇか」
まあ天しかいないわけで、
「ふっ! 私の正体に気付くとは流石ご主人様だ! やはり私のご主人様は最高だね!!」
「うっざコイツ」
「くっ!? 姫君がいる前でこんな言葉責め!! や、止まないかご主人様……今私は真剣な話をしようと……くっ!!」
なんだコイツやば過ぎだろ。
「透お兄ちゃんコイツヤバいのじゃ」
「だよな。ドン引きだよ本当に」
いい加減にしてくれないとね? ここ外だからね? 前回は夜の散歩だったからギリセーフだったけど……いやセーフじゃないわ。
前も今も人が来たらどうすんだよ。
天はもちろんのこと俺もお縄になるかもしれないだろうが……
この場合はあれか? 俺はご主人様として”変態不法所持”とかで連れて行かれるのだろうか?
誠に遺憾である。
「ペットと飼い主が共にあるのは当然だからね。私達は一蓮托生だよご主人様♡」
いつの間にやら首輪を付け、リードを俺に向けて差し出す様に言った天を見て俺は思った。
「女子にそうまで言われたのにトキメキがないってもはや不治の病じゃない?」
いや本当にマジでもう救いようがない先輩である。
●
「というと天も俺を見張るために来たと?」
「うんその通りだ。心君達に頼まれてね」
「透お兄ちゃんの信用の無さが途轍もないのじゃ……」
いや本当にね? 親友と幼馴染にここまで信用されてないってシンプルに傷つくんだけど?
まあ実際、心は俺に好意を向けていることと、嫉妬深いのもあって警戒していても仕方がないのだが、何故に真白まで反応が悪いのだろうか?
全くまともなのは乱華ぐらいなものか。
「そういえば乱華言っていたな」
なんて? と聞くと答えはあっさり返ってきた。
「ご主人様がもし杏理に手を出そうものなら」
「まあまず無いけどな? ……ものなら?」
「頭だけ持って来て欲しいと言われたよ」
「スッー……」
んーこれはあれだ、面白い冗談だな。
「あのご存知かも知らないんですけど首が無いと非常に困るんですけど?」(ガチギレ)
「それもそうだね身体も無いとお散歩ができないだろうしね」
「そうじゃなくってね?」(ガチギレ)
「お主らそんなコントしとらんでサッサと行くぞ日が暮れてしまうのじゃ」
神様お願いだから俺にもっと興味を持ってくれないですか?? どストレートにサイコパス発言をされてるんですけど、少しは助けてくれませんかね?
と、まあそんな考えは虚しく三人で杏理宅にたどり着いた。
「ここかい? 杏理君の家は?」
「そうだぞ。って本当に来たことないんだな」
心達の言っていた通りだったが、やはり天も杏理の家を知らなかったようだ。なるほど杏理はどうにも皆と少し距離をとっていたらしい。
これはあれか? 家を教えたことを後で謝ったほうが良いだろうか?
「……」
まあ良いか、なんとかなるだろう。
「透お兄ちゃん! ピンポン押してよいかの!?」
やけにテンションが高い姫の問いを了承すると、彼女はインターホンを勢いよく押した。
「なんかあれじゃの」
「ん?」
「これを押した後は走って逃げたくなるのじゃ」
「やめとけ馬鹿」
まさか人間の子供のみならず神様にもそういった考えを与えるとは……流石ピンポンダッシュの恐ろしい魔力だぜ……。
そんなしょうもないことは置いといて、返事が無いので再びインターホンを押すが、やはり返事がない。
「留守なのかな?」
「出れないのか、それとも出掛けてるのか」
「いないらしいの、人がいる気配は感じられないのじゃ」
「? 姫君はそんなことが分かるのかい? 凄いな」
「まあ儂は神だか____んー!!!」
即座に姫の口を手で押さえ言葉を遮る。
コイツ隠す気あるのか? 馬鹿か? 馬鹿なのか?
暴れる姫を抑えて落ち着かせていると、
「おい」
突如背後から声が響く。
振り返るとそこには深くフードを被った何者かがいた。声からしておそらく男性だろう。
そんな不審者オーラ全開の男に、警戒していると想定していなかった言葉を耳にしたのだ。
「お前達は……」
____”L”の知り合いか?
瞬間、俺の肩に弾丸が撃ち込まれた。
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