通常ルート98
「……いあ……!!」
「……」
「おーい雨……!!」
「……」
「おーい雨上!!」
「え……」
窓から外を眺めていると、突然声を掛けられ目の前に紫先生の顔が近くにあった。
「あれ紫ちゃんどうして?」
「先生を付けなさい先生を、全くやっと気付いたわね? 雨上アンタ何回も呼んでたのよ?」
マジか全然気付かなかった。
「すいません先生、ちょっとボーッとしてて……」
「あら素直に謝るじゃない? てっきり『五月蝿いな今僕は考え事してるんだ!』って怒鳴られるかと思ったわよ」
何故にドラ◯もん? しかもブ◯キの迷宮ネタだし。
「気分よ気分、一度くらいは言われてみたいわね。生徒に反抗される経験って」
「あ、じゃあ言って良いですか?」
「内心下げるわよ?」
「紫先生は裏表のない素敵な人です!!」
「よろしい」
紫先生は言いたいことだけ言うと黒板の方へと戻り授業を再開する。
いい加減集中するか、とノートに目を落とすが、どうにも集中出来ず再び窓の外を眺める。
体育祭を終えてしばらく、季節はいよいよ暑さを増してきて夏休み間近の期末試験が近付いてきたのだが、
杏理は体育祭の日以降、学校に来ていない。
「……何処にいんだよアイツ」
あの日、体育祭終わりに皆で行こうとした寿司屋も杏理がいなかったことで延期となっている。それについては姫からもかなり文句を言われたが、やはり食べるなら皆で食べるのが良いだろう、とここだけは譲れない意思を示し、姫との約束も延期した形になっているのだ。
杏理のお弁当もしばらく食べてない。
「また食べたいな」
まるでいなり寿司のような形の雲を眺めている時、チャイムが鳴り真っ白なノートのまま授業が終わる。
●
「ねぇ透大丈夫?」
ふと聞こえた声、横を向くとそこには俺を心配そうに見つめる心がいた。
……しまった、いくらなんでも杏理のことを考え過ぎて心配をかけてしまったようだ。いい加減気持ちを切り替えないとみんなに迷惑をかけてしまう。
仕方ない杏理のことは忘れて授業を聞かないと、期末試験の為に勉強をしないといけない。
さて授業に戻ろうか。
気持ちを切り替えて、心に笑顔を見せて言った。コイツを安心させてやろうと……しかし、
「全然大丈夫じゃない」
「そうなの?」
「おう……」
真実の呪い先輩がログインされました。
こんな小さな嘘も対象なのか恐ろしいな本当に……
「透が弱音を言ってくれるって珍しいね……杏理のことを心配?」
「いいや?」
やった嘘つけた。
「本当は?」
「心配に決まってんだろ」
「やっぱり嘘ついてる」
「くそ……」
「乱華ちゃんに聞いた通りだね」
なにをだよ、と呪いの恐ろしさに身震いしながらも聞き返してみる。
「透は嘘つかないって教えてくれたの、変だなって思ったら何回か聞き返せば良いって」
「ふぁっきゅー乱華」
あの後輩俺の弱みを唯一知っててそれを教えたとか絶対許さない。これは懲らしめてやらないと……あ、駄目だ俺が負ける未来しか浮かばないや……。
そんな凹んでいた俺に心の後ろから真白が言葉をかけてきた。
「杏理の家行ってみる? とー君場所知ってるよね?」
「良いじゃん! 皆で杏理ちゃんのところ行ってみようよ!」
あぁその手もあるな……あれいや待てよ?
「なあ真白」
「ん? どうしたのとー君?」
「いやさ、俺が知ってるって言ってたけどもしかしてお前杏理の家知らないのか?」
「知らないよ?」
「僕も知らないなー」
「あ、そうなのか」
最近結構コイツらが一緒にいる所を見ていたが、お互いの家に遊びに行ったりはしてないらしい。
「じゃあ今から皆誘って行ってみようよ透!」
俺の机に両手を乗せて前のめりになり接近してくる心、悲しきかなロマンの塊があれば素晴らしい景色が広がっていたというのに残念でしかたない。
とりあえず眼前に広がる心が邪魔なので、身体を傾けて真白に視線を合わせる。
「いやここは俺一人で行くわ」
「「え」」
俺の言葉を聞いた瞬間、心と真白の態度が変わった。先程までの優しそうな二人の笑顔は何処へやら、彼女達の眼光はとても鋭いものとなって俺を見つめたのだ。
「……なんで一人で行くの透? もしかして皆とは行きたくない理由とかあるの? ねぇどうなの? ねぇ?」
「とー君って本当に女の敵だよね……あぁもう嫌だ見てるだけでイライラする……私の視界に入らないでよ本当に嫌い」
心は安定の真っ黒な目をし、真白からはゴミを見る目で俺を見下ろしている。
ちょっと待ってくださいお願いします……。
「いやあのな? 杏理結構休んでんだろ? 病気だったり家の事情だったりしたら複数人で行くほうが迷惑だろ」
「「う、確かに」」
「だろ?」
本心である。別に嘘をつく必要もない。
ただ杏理が皆には家を教えていないのに俺にはあっさり教えているのは事実なのだ。
杏理のことを考えてわざわざ皆に教えなくてよいだろう。
そう思考を巡らせていると心が俺の顔を覗き込みながら、変わらず真っ黒な瞳で俺を見つめて言った。
「本当に?」
「え」
「透本当に?」
「あ、うん本当だ真実だぞ。俺は嘘つけないからな」
「ん……真白ちゃん嘘はついてないっぽいよ」
「……そっかならいいね」
「……」
あれだ。マジで俺のこと話した乱華のことは恨むぞおい。
「ふぁっきゅー乱華」
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