通常ルート97 体育祭 後編③ 杏理♡⑤




「し、信用できねぇ……」


 早く来るのじゃ、と俺達を呼ぶ姫に向かって進んでいるわけだが、


「この勝負終わったわね……」

「ま、まだ決めつけるには早いんじゃないかな〜?」

「……でも」


 どうやら杏理は敗北を確信したようで、明らかにテンションが落ちている。


「……ごめん私が転んだ所為よね」


 再び涙を浮かべる杏理。

 止めてくれよそんな悲しい顔をしないでくれ。


「大丈夫だって姫を信じてやってくれ杏理」

「……透」

「あぁ見えて姫は凄いんだぞ? よく一緒にいる俺が言うんだ、それかアイツを信じるのが無理なら俺を信じてくれ。姫ならやってくれる」

「……」


 慰めてみたがやはり不安そうな表情のまま俯いている。

 こうなったら____


『おい姫聞こえるか!!!』

『ん? おう目の前におるのになんじゃ透早く来い! 儂の神々しさ見せてやるのじゃ!!』


 歩みを止めずに思考を送ると、脳内に姫の声が響く。

 神様と過ごしていればテレパシーの使い方も慣れてくるのだ。姫は家でゲームをしている時、飲み物やお菓子を要求する時にテレパシーを送ってくるから自然と慣れてしまう。

 全くもって神の力の無駄遣いだが、今回はとても助かる能力だ。


『姫! 本当に勝てるのか!? 大丈夫なんだな!?』

『儂をなんだと思っておるのじゃ? 神じゃぞ神』


 いや分かっているけどさぁ……、と不安に思っていると、


「「え」」


 杏理と俺の声がシンクロした。それは後ろから相手走者が近付き白組のアンカーが現れたことで出た言葉……


「この勝負は白組が勝たせてもらおうか。いくらご主人様がいる赤組でも今回は勝ちにいかせてもらう」


 それはこの学校の生徒会長にして、剣道部の主将系雌豚ペットの最強女子。


『おぉー良いですぞ! 最後の競技白組のアンカーは拙者達生徒の頂点にして最強!! 東鐘天先輩殿ですぞ!!!』


 嘘やん……アレに姫が勝てるわけないだろ……。


『因みにここで体育教師の五理雄先生による情報によると、東鐘先輩殿の百メートル走の記録は九秒台らしいですぞ!!!』


 阿呆かな??(困惑

 はぁ? 勝てないよねこれ? 敗北確定だよねこれ? 無理だよねこれ?

 

「ねぇ雨上?」

「ど、どうした杏理」

「私……体育祭が終わったら皆に謝罪して腹斬るから介錯頼めるかしら?」

「あ、そう? じゃあ天から枝垂桜借りるわ。あの刀切れ味ヤバいからな」


 実体験である……ってそうじゃなくて!!


「諦めるな杏理まだ分からないだろ!?」

「いや無理でしょ? 九秒台ってもはやオリンピック選手じゃない……」

「た、確かにその通りだけど」


 非常にヤバいぞ、杏理どころか赤組まで負けムードになって絶望している。そりゃそうだあんなの聞いたら負けを確信するはずだ。


 だが俺は違う。


『姫!!!』

『ん? なんじゃ透?』


 負けムードに一切飲まれていない姫に告げる。


『勝てるんだよな!!?』

『当然じゃ』

『あくまで一般人の感覚で勝ってくれ! 目立つのは無しだ!』

『それでも余裕じゃな』


 なら俺が姫に言うことは一つ____




『勝ってくれたらご褒美飯は”寿司”だ!! 絶対勝ってくれ!!』




 そして杏理は姫にバトンを渡した。


「その言葉忘れるでないぞ透お兄ちゃん!」


 姫と天の二人が同時にスタートし、駆け出した瞬間である。


「あ痛ーーー!」


 天が突然転倒した。それは地面にキスする程勢いのある転び方で、見るからに痛そうなのだが天は直ぐに立ち上がり先に走って行った姫を追い掛けようとしたのだが、


「あ痛ーーー!!」


 再び転ぶ天。

 え、これってもしかして……、


「くっ! 何がどうなって____って私の左右の靴の紐が結ばれてる!? どういうことだいこれ!?」


 おいおい嘘だろ……?


「しかもこれ固結び!!?」


 これアイツの仕業だろ!!


『ふっふっふ! これが神の力なのじゃ!!』


 神の力ショッボ!


「あ痛ーーー!!! な、何故だ固結びを解いたのに____って今度はイヤホンのコードみたいに意味分からないくらい絡まってるぅぅぅ!?」

「……だ、大丈夫なの? 先輩大変そうだけど」

「み、見るな……俺達はなんも見てないんだ……」


 そ、そうなの? と心配そうな顔で見てくる杏理。

 止めろそんな目で俺を見るな。

 アレは「可哀想な生き物だなぁ」ぐらいな感じに思っておけば良いんだよ……。


 そしてスタートラインから数ミリしか進むことが出来ていない天が転び続ける中で、コースの反対側では姫がゴールテープを普通に切って赤組の勝利が確定した。


「やったのじゃこれで寿司食べ放題なのじゃ!! 大トロと雲丹を食べまくるのじゃぁぁ!!」


 いやお前それ高いやつじゃん。ふざけんなぶっ殺すぞ。

 勝利が決まったというのに俺の思考は財布の中身と残りの生活費の計算で埋まった。マジであの大喰らいがどれ程食べるのか……考えただけで恐ろしい。


 ただとりあえず杏理には言っておくとしよう。


「なぁ杏理? 姫ならやってくれるってその通りだっただろ?」

「そうね、まさか勝つなんてね……」


 杏理を保険の先生に預け、遠めからでも分かるくらい勝利を喜ぶ赤組のもとへ帰ろうとした時に杏理が呟いた。




「……雨上を信じて良かった」

「だろ?」



 じゃあ俺は行くな、と杏理から離れる。

 やはりアイツに泣いてる姿なんて似合わない。いつも通り安定のツンデレでいてくれた方が有難いのだ。

 さて今回はショボかったが一応活躍してくれた姫にご褒美をやることにしよう。今日は皆で寿司パーティーだな。

 あとで保健室に寄って杏理も誘うことにしよう。




 こうして体育祭は俺達赤組の勝利で終わったのだ。


 そして____





 この日から杏理が何も言わずに姿を消した。






        ~おまけ~


    好感度

杏理   47%→69%

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る