通常ルート95 体育祭 後編①







『さあ! いよいよ今回の体育祭も次で最後ですぞ!』


 銀ちゃんの元気な声がスピーカーから流れ、それに合わせてグラウンドに集まる生徒達のテンションは最高潮になっていた。


『集計の結果現在白組が一位ですぞ! が、その点も僅かな差! まだどちらが勝つか分からないですぞ!!』


 貼り出された点を見ると、確かに天や乱華のいる白組が勝っているけれど、最後の競技で赤組が巻き返せる程の差しかない。

 まだどちらが勝つか分からないという状況が余計に生徒達の熱量を増加させるようだ。


「透頑張ろうね!」

「そうだな心、ここまで来たら勝ちたいな」


 隣にいる心のテンションもかなり高まっているようで、真白や杏理、姫と共に手を繋いで物凄くはしゃいでいる。

 俺はそれを第三者として眺めていた。


「あそこまで楽しんでいたら企画を考えた側も満足だろうな」

「全くですね」


 心達を見て呟いた俺に対し、景ちゃんが腕に抱き着きながら耳元で囁く。


「ところで先輩私の勇姿見てくれてました?」

「見てたぞ」


 とは言ったが俺以外の奴らも釘付けだっただろう。なんていったって景ちゃんが参加した一年による”綱引き”は勝敗不明という普通の人からしたら実に不可解な結末を迎えたのだから。


「景ちゃんの本気を目の当たりにして鳥肌立ったわ」

「本気だなんてそんな! いっても五割くらいしか力入れてないですよ!」

「あーいや鳥肌とかそんなレベルじゃないや、恐ろし過ぎるわ」

「そんなこと言わないでくださいよ! 私じゃなくてあの綱が悪いんですよ!」


 景ちゃんは反論しているけれど無理があるのだ。何故かというと、


「景ちゃんが掴んでた所から綱が引き千切れてたのにそれを言うのか? どう考えても景ちゃんが原因だろうが」

「ぐぬぬ……」


 そう、先程の綱引きの勝敗が決まらなかったのは景ちゃんの途轍もない腕力で綱が耐えられずに千切れてしまったのが原因なのである。

 まさか綱が切れることが、ましてや人力でなるとは想定されてないから予備があるはずも無く、教師陣の判断で競技自体が無かったことになってしまったのだ。


「私……悪くないですもん……」


 不満そうな態度を見せる景ちゃんだが、確かに全てを彼女の所為にするのもどうかと思い、優しく頭を撫でることにした。


 すると次の瞬間____


「危ねぇぇ!!?」


 何かが高速で顔に向かっていたのを本能的に感じ取り、撫でていた景ちゃんから瞬時に離れた。そしてそれを景ちゃんが動じることも無く、平然と手で掴んだ。

 俺はその物体を見て驚愕することになる。


「ナイフと……なんだそれ?」

「弾丸ですね」


 うっわ……。


「マジか、じゃあ犯人は確定だな……あれ? え、待って? 景ちゃんナイフは知ってるけど弾丸も素手で止めれんの!?」

「恐ろしく早い弾丸……私じゃなきゃ見逃しちゃいます……」

「喧しいわ」


 握った弾丸にさらに力を込めると粉々になって地面へと落ちて行き、ナイフは平然と捻って丸める景ちゃん。

 すげぇ……アニメで観る脳筋キャラみたいな事してるわ。地味に男心がくすぐられる。


 ……てかちょっと待ってくんない??


「アイツらこんな人が多い所で仕掛けてきたって頭おかし過ぎるだろ!? 俺が何をしたって言うんだよ!!」

「私別にあの人らの味方になったりしないですけど」


 なんだよ、と聞き返すと景ちゃんは真顔で言った。


「先輩の鈍感さって時々私でも殺意が湧く時ありますよ」

「え、何故に……?」


 流石に理不尽過ぎない??







 遂に最後の競技が始まろうとしていた。俺はそれを応援席で見守る。

 今回の体育祭は個人競技に一切出ていない俺だが、なんだかんだ他の競技に参加していたのもあってかそれなりに疲労が溜まっているので、もう最後だから後はのんびり応援しておこう。


 そこで俺は最後の競技に参加する彼女達に声を掛けることにした。


「心と杏理頑張れー!」

「うぉーい!! 儂も出るんじゃぞぉぉー!! 儂のことも応援するのじゃ!!!」

「うっさアイツ……姫も頑張れ〜」

「皆頑張ってー!」


 銀ちゃんが競技が間も無く始まることを知らせて参加者がそれに従い並ぶ。

 最後の競技は”紅白対抗リレー”これで全ての勝敗が決まるというわけだ。


 リレーが始まり、選ばれた者達が勝敗を決めるために走り出す。


「あ、見てとー君! 次ここちゃんだよ!」


 真白に言われ見てみると心の番になり、スターターの音と共に心が駆け出した。競い合っている相手を華麗に抜かすと隣の景ちゃんが呟く。


「あの男女先輩意外と足早いですね」

「心は運動神経が良いからな、意外でもないぞ」

「へー? 人にも一つくらい取り柄があるんですね」

「言い方言い方」


 ちょっと景ちゃん? お口が悪いですわよ?


「すいませんつい本音が」

「おい」


 全くこの後輩は本当に困ったもんだ。

 だがとりあえずこれで赤組の勝ちも確定的だろう。相手との差もかなり離れているから勝ったも同然だ。やはり学校の行事とはいえ、勝敗が決まるものなら基本勝ちたいのが人間というものだろう。


「と、まあこれなら大丈夫だろ」

「勝ったな風呂入ってくる! ってやつだねとー君!」

「……いやそれフラグだからね?」


 不穏なことを言わないで欲しい、そんなことを考えていた時だった。


「あ、次は杏理だね!」

「ん?」


 いつの間にやらレースは進み、次の走者の杏理がスタートラインに立ち駆け出そうした時、


「あっ!!」


 真白が驚きのあまり大きな声を発した。


 確認すると杏理がスタートした瞬間に躓いてしまい転んでしまったのだ。


「杏理ちゃん!!」


 杏理を心配して真白が叫んだ瞬間____


「先輩!?」


 どうしたのだろう。何か景ちゃんの俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、気にしていられない。


「杏理ッ!!!」


 転んで苦しそうにしていた杏理を見て、俺は咄嗟に叫び駆け出していた。



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