通常ルート91 体育祭 前編①
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いよいよ体育祭が始まり、最初の種目の準備にスタッフ達が動き始めた。
そして聞こえる放送の声、
『はぁい! ではここから拙者が勤めさせていただきますぞぉ!』
スピーカーから響く元気な声は明らかに聞き覚えのある奴の声、てかそこのイケボは間違いなく友人の声だった。
運営テントに目線を向けてみると、丸みを帯びた体格の男が一人……その名も……。
『本日は転校生の杉田銀十郎が実況をやりますぞ!! よろしくお願いしますぞ!!』
「さすがだぜ銀ちゃん!!」
マイクを握り締めて熱く自己紹介をする友達の勇姿を瞳に焼き付け、一人彼に声援を送る。
あ! 手を振ってくれた!! それでこそ友達だぜ!!
間違いなく声に関して銀ちゃんに匹敵する程の適任者はいない!(確信)
銀ちゃんに手を振り返している時、後ろに座る別学年の女子生徒の声が耳に届く。
「ねぇこの実況の人凄いイケボじゃない?」
「あ、それ私も思った無茶苦茶かっこいいよね」
「見える? どんな人か?」
「ん〜……どうだろあんまりよく見れない」
「そっかぁ、でも絶対かっこいい人だよ! 後で見に行ってみよう!」
「ほんとね! 声かっこいいまるで声優さんだよね!」
そんなドンドン盛り上がっていく会話が聞こえてくる。
「……」
言ってやりたい。
銀ちゃんはかっこいいんだぞ、って言ってやりたい。性格も外見もいいぞと。
だがここでいきなり知らん男が話しかけたら絶対変な空気になるから言わないでおこう。
「……」
深い意味はないけど声が良いから顔も良いというのは幻想である。
天は二物を与えない、と言うがその通りなのだ。稀に例外はあるかもしれないが、それはかもしれないと言うだけで人には必ず欠点がある。
要は”隣の芝生は青く見える現象”というもので、人は自分が持っていない物を相手が持っていると、それを羨み期待値を上げてしまう生き物なのだ。
人には必ず欠点がある。問題はそれをどう無くすかという当人の努力が関わってくるのであり、どんな状況も羨ましがって良い物ではない。
おっと、話は長くなったがつまりは何が言いたいかと言うと、
声が良い声優だからって見た目も自分好みとは思うなよ?
ああいう輩は大体が幻滅するのだ、自分で期待値を上げた癖に。声優というのは声が仕事なのだ。声の仕事が外見で勝負してどうする。
しかしそのクセ人間の特徴として最初がプラス値から始まったものはマイナス値に下がるのも一瞬なのだ。決してゼロには戻らない。マイナスだ。
彼等は一度否定した物に対し絶対に良い顔はしない。……おっと色々偏見が過ぎたな。
「まあ事実だけど」
一先ずは冷静になることだ、このままでは俺の内心を垂れ流すだけで話が終わる。冷静になれ雨上透……深呼吸だ深呼吸。
「銀ちゃんに何かあったらマジで潰す……」
全然冷静になれなかったですはい。
「透大丈夫……?」
「とー君どうしたの? 怖いよ?」
「雨上……アンタ私達のこと言えないくらい殺し屋みたいな目してるわよ……?」
「クールな先輩も素敵♡」
おっとまた久々に色々考え過ぎた様だ。というのも銀ちゃん関係は中学時代に色々あったので、それを思い出して少々神経質になってしまったらしい。いけない俯瞰して考えるんだ俺。
「大丈夫、今の銀ちゃんならそんなのへっちゃらだ。俺の友達の銀ちゃんは凄いのだ俺が何もしなくてもなんとかなる」
そう自分に言い聞かせていると、姫が見るからにテンション高く袖を引っ張り、こっちを見てくれと、アピールするので仕方なくそちらを見てみる。
「透お兄ちゃん! そろそろ始まるみたいなのじゃ楽しみじゃの!」
「姫はここ数日本当にテンション高かったもんな、落ち着けって始まる前から疲れるぞ」
「うむ! そうじゃな!」
「あぁ……眩しい笑顔……」
既に子供の頃の運動会から数えてこの行事を今回で十一回も経験しているのでこう言っちゃアレだがワンパターンなのだ。
けれど神様という神社で街を見守る立場からするとワクワクするものがあるのだろう。そんな嬉しそうな姫を見てると凄く微笑ましく感じる。
「……一緒に楽しもうな姫」
「そうじゃな!」
満面の笑みで応える姿を見る俺は境地はもはや親のそれだ。可愛い奴め小遣いをあげよう。
「いや透それは親じゃなくて”おじいちゃん”の目線だよ」
「とー君おじいちゃんだね」
君ら言い方酷くない? あと人の思考を自然に読み取らないでくれないかな?
え、顔見ただけで分かるって?? どんだけ俺のこと見てんだよ引くわ。
あ、幼馴染だからか(納得)
「楽しみなのじゃ! 頑張った体育祭の後に食べるお弁当と夕飯の外食がの!!」
「おっと君さては一回目にしてこの行事の全てを理解してるな??」
分かる親と一緒に運動会お疲れ様外食するの良いよね。分かるよ分かる。
「回らないお寿司が良いのじゃ!!」
「お前みたいな食い物をなんでも掃除機みたいに吸う奴を行かせてたまるか。回る方で我慢しろ」
「やったのじゃ言質はとったのじゃ!! 夕飯が楽しみなのじゃ!!」
お前さては嵌めたな!? わざと高い要求から始めて本命の要求を通りやすくさせる手段じゃないか!! 天才かお前!!
姫と盛り上がっていると突然肩に手が置かれたので振り返える。するとそこにはニコニコ顔の我が担任教師の紫先生が立っていた。
そして一言、
「五月蝿え」
「すいません大人しくしてます」
●
それでは始まりますぞ、と銀ちゃんが叫ぶ。
『第一種目は今年で最後を迎える三年生先輩方の”パン食い競争”ですぞ!!』
放送を聞いて思う。
今年から初めてやる種目だが、ギャルゲーならよくあることだけど、近年衛生的な問題からやる学校が減っているのにこの学校はやるらしい。
とは言ったけれどパンはちゃんと包装されており、洗濯バサミで袋が吊るされた感じになっている。
すると杏理が付け加えた。
「なんでも今年の生徒会が色々変えたらしいわよ? ほら私達今年は種目の表みたいの渡させてないじゃない?? なんでもリレーとかの練習しないといけない種目は開示するけど、後は当日に発表っていうワクワク感を楽しむ感じらしいわね」
「なにそれ……」
一瞬思ったがないな、今時ギャルゲーでもそんなことしないわ。
じゃあ今回は運営側と教師側しか種目を知らないのかよ。なかなか凄過ぎないその企画通るの……。
「良いのぉ! 儂も食べたいのじゃパン!!」
お前はなんでも食べたいだけだろ? とツッコミを入れていた時だった。
「「「うっわ……」」」
突然聞こえてきた声、どうやら心と真白、さらには景ちゃんが同時に言葉を発したらしい。
明らかに嫌そうな声で、
「どうしたんだ何かあったのか?」
皆の方に目を向けて気がついたがもう既にパン食い競争が始まっていたらしく、皆それを見て不思議な反応をしているようだ。
「えぇ……」
杏理も何かに気づいたようで一気に困惑顔だ。そして景ちゃんが一言。
「この案出したのも受理したのも男ですよきっと」
「だからどうしたんだよ一体____」
と……あ、なるほど。
三年生が頑張っているパン食い競争に目を向けた時、そのあまりの異質な光景に釘付けになった。
揺れている。ジャンプする度に激しく揺れるそれを見て男子達の野太い声援が校内を満たす。同じ男としてつい俺も目で追ってしまう。
それは、胸と言うにはあまりにも大き過ぎた。
大きく、柔らかく、重く、そしてデカ過ぎたそれは正に巨乳であった。
前から思っていたが今年の三年は何故か胸が豊満な女子生徒が多い。
とある愛好家達からは”一年と二年の発育は全て三年に吸われている”と言われるくらいにその洗練されたフォルムには誰もが納得するだろう……にしてもこれは……。
「この種目は主に三年女子がやるやつみたいだね」
「そ、そうみたいっすね。……あ、揺れてる」
「ここまでさせます?? 女子生徒無茶苦茶冷めた目で見てますよ。綺麗な眼差しなの三年女子だけですし、コンプラ的にアウトでわ?」
「いやいやこれも先輩達の考えた種目だ。俺達後輩は先輩の勇姿をその目に焼き付ける責任があるぞ。あ、あの人デカ……」
「「
ちょっと二人とも!? 胸ぐら掴まないで!? 苦しいから苦しいからさぁ!! てか見えない! み、見せろぉぉぉ!!
心と景ちゃんから妨害を受けていると、前の方で見てる男子から声がする。
「俺……生まれてきて良かった……」
「見てみろよ……あれが楽園の果実か……アダムが食べたのも頷けるよ」
「おいおいここが天竺か?? これが目的なら三蔵法師が十七年旅をしたのも納得だよ」
いやお前ら天才か?? なにその表現力さすがの俺も引くわ。気持ち悪過ぎるぞ。
ま、気持ち分かるけどね。
「「「「男子最低ー」」」」
「きっしょ……なんで男子生きてんのよ」
「同じ空気吸いたくない」
「死ね」
……とは絶対言わないようにしよう。多分精神壊れちゃうわ……。
そしてこんな状況でも銀ちゃんは普通に実況している。おいおいマジかよ銀ちゃんさすがに悟りを開き過ぎだろ。坊さんでもチラ見するレベルだぞおい。
そして皆の本命が現れた。
「「「天先輩……」」」
「雌豚先輩」
「天……」
まああれだ。呼び方は安定しないけれど皆の想いが一つになった。
他の生徒も静まり返り、その瞬間を見守る。
この星空高校の頂点にして最強の人間かつ、最恐の胸。その最強の見せる光景を皆今か今かと楽しみにしていると、スターターが鳴らす開始を知らせる音が鳴り響いた。
「____ッ!!」
天が走り出した。
もはやただ走るだけなんて彼女にはとても容易いだろう。しかしこれはパン食い競争だ本来の見せ場がそこにはある。
吊るされたパンの下までやって来ると、天が勢いをつけてジャンプをし、皆の望んだ理想郷がやってきた。
そして____
「痛ぁぁぁぁぁ!!?」
目にとんでもない激痛が走り、俺は悶え苦しむ。だがその人智を超えた瞬きの瞬間でも俺の目は確かに見ていたのだ。
「な、何しやがる景ちゃん……」
そう景ちゃんだ。あんな一瞬で人に目潰しする奴なんてコイツしかいない。
「先輩の浮気者……」
「クソ後輩にしてはやるね、ありがとう」
「男女先輩もやろうとしてる事は一緒でしたか、今回は共闘ですね」
「あぁー! 目がぁー! 目がぁー!」
コイツらなんでこんな時だけ協力的なんだよちくしょう!!!
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