通常ルート88 皆でゲーム 後編
●
以上、ここまでが回想である。
こうして始まってしまったゲームも中盤を過ぎ、本格的にこのスゴロクの恐ろしさと皆の狂気を知ることになったのだ。
「次は”先輩に頭ナデナデしてもらう”ですね♡ はぁ〜い先輩ナデナデしてくださ〜い♡」
「お、景ちゃん可愛いなぁ〜」
「にゃぁ〜♡」
よしよし、と優しく頭を撫でると景ちゃんがとても気持ち良さそうな声を漏らした。
ふと思ってみたが、女性は自分の髪を触れられるのはかなり嫌らしい。
セットが乱れるなど色々理由はあるらしいが、態度から見てとりあえず景ちゃんが嫌そうじゃなくて良かった。
「私が先輩にされることで嫌がることなんてあるわけないですよ♡」
「お、そうなのか」
「ん〜♡ 先輩好きぃ〜♡」
語尾を伸ばしながら景ちゃんが抱き着いてしまったことで、早速他の者からいつも通り不公平に対する不満が飛んできたのだが、
「こら〜! 僕の透に気安く抱き着くなぁ〜!」
「「そぉ〜だそぉ〜だ!」」
「皆のとー君なんだから勝手なことしちゃ駄目だよぉ〜!」
「「そぉ〜だそぉ〜だ!」」
「大体透はその程度でデレデレすんなぁ〜!」
「「そぉ〜だそぉ〜だ!」」
「いやデレデレはしてないのだが? いやそんなことより」
何かがおかしい、皆の態度がいつもと違うのだ。なんか皆語尾を伸ばしてるのも気になる。
いつもなら心が包丁をテーブルに刺し、真白がナイフを投擲したのち、乱華がブチギレ顔で爆弾を持って脅してくるだろう。
なのにそれが無いのは絶対におかしい。
いやそんな非日常がいつもの事になっている時点で俺の生活がおかしいのだが……、それより今はこの状況の方が大事だ。
「景ちゃんちょっと顔見せてな?」
「ん♡」
丁度近くにいたのもあり景ちゃんの顎をクイっと上げて良く観察してみる。その行動にさらに三人が文句を言っているが無視だ無視。
「ん〜♡ 先輩どうかしましたかぁ〜?」
「ちょっと待っててな」
よく観察してみた時、不自然な点が見つかった。
まずは目が座っているというか少しジト目にも見える。さらに頬が異様に赤い、頬を赤く染めるとよく言うがそれよりも頬を起点に顔全体が赤い感じがする。そして何よりも____
「さ……」
「さぁ?」
「酒臭ぇ……」
コイツらと同じ部屋にずっといて鼻が慣れてしまっていたが、改めて景ちゃんに近づいてみると無茶苦茶酒臭い。
そこで他の三人も確認してみると、
「……なんでコイツらこんなに酒臭いんだよ。しかもなんか甘ったるい匂いだし……」
なんか酒でも持って来たのか? いやまさかそんな事をする奴等ではないし……
ならなんで? そう考えていた時だった。
「おぉー透よ! このちょこれいと? とやらはかなり美味いのじゃ! また食べたいのじゃ!!」
「え」
背後からの声に振り返ると、いつの間にか姫が天からの頂き物のチョコを食べていたのだ。
「ちょ、お前何食ってんだよ。ってもう空!? 姫お前どんだけ食べてんだよ!?」
「儂をここまで満足させるとはコヤツはかなりの代物じゃな」
また食べたいのじゃ、と満足そうに言う姫が全部食い尽くしたのを見てため息を溢していると、
「でもあれじゃな」
儂からしたらもっと酒が強い方が良いのじゃ。
「え……」
姫の言った突然の発言に俺の思考が一時的に停止し、冷静に姫の食べ終わったチョコの包装を確認してみる。
「洋酒を練り込んだチョコレート……度数三%!!? 嘘だろマジか!!!」
あの雌豚なんてもんを寄越してくれてんだ!? イかれてんのかアイツは!!
「え、待って……つまり?」
嫌な予感するぞこれ……。
「なぁ透♡」
「ど、どうしたんだ乱華?」
「透の耳齧って良いか?」
「だ、駄目っす……」
「噛み切って良いか?」
「か……勘弁してください……」
「引っ掻いて良いか?」
「や、やめてください……」
頬を赤く染めているが瞳孔の開いたヤバい目で俺を見ている。なるほど乱華は猟奇的な酔い方をするヤバいやつのようだ。
真白はさっきからうとうととしているし、心と景ちゃんは猫撫で声でやたら甘えてくるし、もうめちゃくちゃである。
そう、これは間違いなく皆酔っ払っているようだ。
まずいなこれ……、ともかく早くこのゲームを終わらせよう、とサイコロを振ると”六”が出た。
「よしデカい数字だ」
早く終わらせたい時にこれはラッキー過ぎるな。そう思い駒を進めてマスに書かれた文字を見ると、
「”今一番好きな人を発表”……?」
え、この状況で? このただでさえ何するか分からない連中なのに、酔って何するか分からない奴らの前で言うの?? 地獄かな??
「ほら透♡ 正直に僕が好きって言っちゃいなって♡」
「先輩ここでハッキリ私とのことを発表しましょうよ♡」
「とー君は誰が好きなのかなぁ〜♡」
「まぁ透が選ぶのなんて私しかいねぇけどな♡」
「嘘やん……」
こんなの誰を選んでもこの部屋が事件現場になりそうなんだけど?? でも呪いの影響で変なことは言えない。嘘を吐こうもんなら俺の深層心理の本音が赤裸々に溢れてしまう。
なら……
「…………ちゃん」
「「「「え?」」」」
「ゆ、紫ちゃんが好きかな俺……」
「「「「……」」」」
空気が死んだ____
「次は”誰かにアイスを買って来てもらう”なるほどの!! よし透儂にアイスを買って来てくれなのじゃ!!」
「うっす姫さん!! ご厚意に甘えて買わせていただきます!!」
お、おうなんじゃ急に……、と姫が不審がっていたが気にしない。
俺はすぐさまこの恐ろしい状況から逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます