通常ルート82



 スーパーからの帰り道。


「見よ透お兄ちゃん! さっき買った”ガルガル君”の当たりが出たのじゃ!!」

「それは良かったな、一袋目で引き当てるとは神引きだ」

「うむ”神”だけにな!」


 別にそこまで上手くないからね? なんならこの心もいる状況で唐突に言った一言に俺は驚いてるわ。姫さん隠す気あるの?

 

「これは急がねばならぬ! 儂ちょっとひとっ走りさっきの店に行って交換してくるのじゃ!」

「待て待て、それはいつでもできるから家に帰って夕飯食べような? オムライスが冷めたら嫌だろ?」

「ぐぬ……確かにそうじゃ! 初めて食す未知の食べ物が冷めてしまうのは駄目なのじゃ!!」

「だろ? だからとりあえず今回は家に帰るぞ」


 分かったのじゃ、と元気よく返事する姫、そんな俺達のやりとりを見て心が笑みを溢したので俺は問いかけてみた。


「どうした心?」

「ん〜? いやなんか透、姫ちゃんに優しいなと思ってね」


 またヤキモチかと思ったが、反応的にどうも違うらしい。


「なんか意外だな。透って子供好きなんだね」

「子供!? おい心! お主今儂の事を子供と言ったか!? おいどうなんじゃ!!」

「子供みたいに可愛らしくて天使みたいだなって意味だよ」

「おーなんじゃそう言うことか! まあその通りじゃが天使は違うのじゃ! 神様的可愛さと言ってくれなのじゃ!」


 神様的? と首を傾げる心、おい本当に隠す気あんのかこら。

 てかどんだけチョロいんだよ姫……心もお前の扱い分かってきてるじゃないか……。


「でもそのアイスも透が買ったあげたでしょ? 優しいなぁって」


 だってコイツ、アイス抱えて幸せそうにしてレジまで来たからね? それで買わないなんて言ったらクズ過ぎるだろうが。目に浮かぶわ絶望に染まった姫の顔が。

 いくらロリババアとはいえやはり女子の笑顔は貴重なんだよ。国宝と言っても間違いじゃない筈……って俺の大好きなギャルゲーの主人公が言っていた気がする。


「透が子供好きで良かった♡ 未来の僕達の子供も可愛がってね♡」


 心が冗談を発した瞬間____足元に衝撃を感じた。見てみるとそこには弾痕がある。

 これは間違いない杏理のものだ、だってこんな事するのはアイツくらいしかいないのだから、しかも俺達の会話が聞こえるところにいるということになる。


 もう勘弁してよね? 心臓止まるかと思っただろ? ……いや本当にびっくりした。


「惜しいのじゃ」


 おい惜しいとか言うな飯抜きにするぞ。


 まぁ卵を撃たなかっただけでもう許せるが、たい焼きの恨みは忘れない。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。


 そんなことより今はこれ以上心が余計なことを言う前に止めないと、


「面白いジョークだけどごめんな心? ちょっと笑えないかな」

「なんでそんなこというの?」

「ヒェ……」


 一瞬にしてハイライトの喪失した目で瞬きもせずにコチラをジッと見つめる心さん。

 いや怖いからね? なんだか最近心はメンヘラというよりヤンデレ要素の方が多くなってない?


「透……最近僕に冷たいよね……」

「いや、そうは思わないけど?」

「僕のメッセージや電話無視するし」

「それに関しては女子グループに聞いてみろ。俺じゃなくて他の奴らにスマホ没収されたり、電源消されたりしてるからね?」


 つまり俺は悪くない証明終了。

 というか心は男の頃からメッセージや電話の量が多いのだ。あの程度の通知量今に始まったことじゃない。


「僕以外の女と仲良くなるし……」

「俺は最近まで皆に嫌われてると思ってたんだけど? なんでこうなったか一番知りたいの俺だし、ていうかアレを仲良いって言えるか?」


 もう既に心にはアイツらに狙われていることを伝えてある。それなのに仲良く見えるのか……。

 

「なんか最近の透楽しそうだよ?」

「そうか?」

「うん」

「そうかなー?」


 考えても見なかったが、言われ考えてみると別にこの環境がどうしても嫌というわけじゃない気がする。


「透は昔から変だから色んな面白いことが起こるもんね」

「おい人のことを変な奴呼ばわりはやめろ。シンプルに傷つく」

「良い意味で変な人ってこと」


 良い意味でって付ければなんでも許されると思うなよ?

 

「でも今の透の方が僕は好きだよ」

「さいですか」

「そんなことより早く帰るのじゃ、腹が減って死にそうなのじゃ」




 姫に急かされて家まで帰った俺達は一度心と別れ、夕食にやってくる心の分もオムライスを作ることにした。

 ちなみに姫はというと、


「おむらいす〜! おむらいす〜!」


 嬉しそうにテーブルに大人しく座りながら歌っている。それとオムライスがどんな食べ物か分からないからテーブルに箸、スプーン、フォーク全部を用意しているところがなんか可愛らしい。


「さてじゃ作るか」


 エプロンを着けて早速調理を始めようとした時、突然インターホンが鳴った。

 心だろうか? いやアイツならすぐに入ってくる筈だ。


 とりあえず出てみるか、と扉を開けてみた。

 

「どうも隣に引っ越してきた者です! よろしくお願いしますね____先輩♡」

「ひ、景ちゃん!? と杏理もいる!?」


 なぜか景ちゃんがいた。しかもその背後に杏理が気まずそうにしている。


「え、ドユコトだよ引っ越し? え、あの無茶苦茶良さそうなタワマンは?」

「引っ越しました」

「タワマンからアパートに!?」


 嘘だろマジか!?


「先輩ともっと一緒にいたいのにあそこじゃ遠過ぎますから」

「にしたって思い切りがよ過ぎるだろ」

「夕飯ご一緒して良いですか?」

「あ、私も一緒に食べたいんだけど……」

「え、いやそれはちょっと……」


 さすがに心に聞かないと、杏理はともかく心と景ちゃんは仲悪いし……


「あ、これどうぞさっきスーパーで買った卵です。ほらフィーリス先輩も」

「は、はい雨上……卵」


 そんな物に俺が釣られるわけ、


「ようこそいらっしゃいました。どうぞどうぞ」

「ガッツリ釣られてるのじゃ」


 仕方ないだろ。卵が高いのが悪いのだ。



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