番外編IFルート 心 BADエンド① 73話途中分岐




「え、何処だここ?」


 突如意識が覚醒した俺は現在の状況に驚きのあまり思考が纏まらないことで一周回って冷静という状態になっていた。

 一先ず辺りを見渡してみる。


「見たことない部屋だ……それにこれってコンクリか?」


 部屋全体を見てみたが情報量が少ない。ある物といえば眼前に広がる鉄格子、そして、


「痛っ」


 身動きが取れない身体は硬いマットが敷かれたベッドに両手両足を鎖で拘束され、行動を制限されていた。


「どういうことだよ……」


 昨日の記憶を思い返してみるが、こうなってしまった原因が分からない。乱華とデートをしフラれて別れた後、酔っ払いが五月蝿そうにしていた道を離れて。そこまでは覚えている。

 だが、最後の記憶は薄っすらとしかない。家が見えてきた辺りで意識が途切れた。


 というかこれって……、


「やっぱりなんか頭が痛いな」


 このズキズキと感じる鋭利さのある痛みは間違いない。おそらく俺は鈍器らしき物で殴られたのだろう。

 今が何時なのか、ここは何処なのか、まるで分からない。そしてさらに問題なのは鉄格子から見える扉だ。

 誰が来るのだろう? 何故こんなことを? 複数の負の感情が溢れ出し、早く犯人を見たい気持ちと実はこれは全部夢で目が覚めたら姫の寝顔がそこにある。そんな日常に戻りたいという希望を抱いてしまう。


 だが、その淡い希望は脆く崩れ落ちた。


 重たく鈍い音を鳴らし、ギィィ、と突然扉が開き犯人の正体が分かった。


「あ、透やっと起きてくれたんだぁ♡」


 おはよ♡ と頬を染め濁り切ったドス黒い瞳で嗤う俺のよく知る人物……。


「こ、心なのか?」


 そう心、心だ。俺のよく知る幼馴染で親友の鍵咲心。何故そんな親友に疑問形で問いを投げかけたか? それは心の外見を見て言っていた。


「……本当に心なのか?」

「うん僕だよ。似合わないかなこの髪の毛」

「え、いやそうじゃないけどそれって……」

「透のせいなんだよ。見てこの髪……透のこといっぱい考えてたらこんなになっちゃった。これじゃあのクソな後輩みたいだね」


 心の言う後輩とは決まっている。景ちゃんのことだ。その景ちゃんと同じ髪色____


「こんなに真っ白になっちゃって」


 自身の髪を摘み困った様子の心、そうだ白いのだ。心の髪があの綺麗な黒髪は何処へやら、まるで景ちゃんの様に白くなっていた。


「ど、どうしてそんな?」


 染めたのか、と聞くが心は首を横に振る。


「誰があの後輩と同じにすると思うの? そんな事するわけないよ」

「じゃあなんで……」

「だから言ったよね」


 心は鉄格子を開けてコチラ側に来ると微笑しながら言った。


「透のせいだよ?」

「……俺のせい?」


 うんそう、と心は言葉を続ける。


「透が私のこと不安にするから……僕いっぱい我慢したんだよ? でも駄目だったの吐きそうになって、感情がグチャグチャになって、自分がどうなりたいのか分からなくなったの」

「……心」

「そしたらね、こんな色になっちゃってたの」

「ッ!!」


 不気味な笑みを見せながら心が口を半月状にして嗤う。

 聞いたこと……いやギャルゲーで見たことがある。これはアレだろう過度なストレスを受けることで髪の色素が抜け落ちるというやつなのか?

 

「げ、現実でそんな事あるんだな……」


 それが俺の率直な感想だった。

 他に何が言えるだろうか、俺のせいと言う心に謝れば良いのか?


「……ごめんな心」

「ごめん? え、何ごめんってどういうこと?」

「心?」


 心の様子に異変を感じたがもう遅かった。吐いた言葉はもう飲み込めない。


「なんのことを謝ってるの? 髪のこと? いや違うよねそうじゃないよね全部だよね全部。僕があのクソ女のこと嫌いなの知ってたよね? 連絡返してくれないと不安になるの知ってたよね? 僕が透こと好きなの知ってたよね!?」


 心が俺の首に手を置いて力を込めた。


「透が何を謝ってるのか僕分からないよ!? だって僕だったら大丈夫なんだって透が思ったから僕を放ったらかしにしてたんだよね!? 今更だよ今更悪いなんて思わないでよ!! 我慢してた僕が馬鹿みたいじゃん!!」

「……こ! 心! 苦しい! 苦しい!!」

「僕透しかいらないんだよ! 透以外何もいらない! だから透にだって僕以外いらないよね!?」

「何言って!」


 苦しい……死ぬほど苦しい。

 これヤバい死ぬかも……、と意識を手放すギリギリの瞬間に心が手を離し、俺は大きく咳き込み息を整える為に呼吸を繰り返した。


「心……な、なんで……なんでなんだよ」

「透分かる? ここね僕の実家だよ? 実家の地下室を何年もかけて改造したんだ。誰も知らない僕達だけの秘密の場所♡」


 会話をしたいが駄目だ……もう心には俺の声が届いてないようだ。それでも俺は繰り返し試みる。


「……心ごめん、許してくれよこれからはもっと気をつけるから……」

「これね完全防音なんだぁ♡ 僕はもちろん透の家族は基本海外だからお互い邪魔はいないしね♡ これからは僕がお世話してあげるから♡」

「……心違うだろ? 俺の知ってるお前は優しくて主人公みたいな奴で……」

「もう僕達の恋は誰にも邪魔されないよ♡ 邪魔する奴がいたら僕が排除するから」

「……なんでだよ……なにしてんだよ心!! なにがしたいんだよ!!」


 遂に限界を迎えた俺は声を張り上げた。するとようやく心と目が合い、


「決まってるじゃん」


 彼女の顔が近づき、不気味な笑顔で言い放ったのだ。


「僕が透のこと愛してるからだよ♡」


 そう言い終わると心の唇がソッと俺の唇に触れた。

 初めてだった。初めての感覚、普通の状態ならとても素敵な瞬間かもしれない。

 でももう俺のメンタルが砕けるのはこれで十分だった。


 変わってしまった親友の姿をこれ以上見ることが出来ずに項垂れ、頬を涙が伝う。


「帰してくれ……」

「だって透が悪いんだよ。僕に意地悪するから」

「帰してくれよ……」

「僕もう我慢しないから♡ これからは欲しいものはなんでも奪い取るって決めたの♡」


 だからね、


「透……これからはずっと一緒だよ♡」




        ~おまけ~


 心BADエンド


・心と景ちゃんの仲が悪過ぎる。

・帰りに紫先生と遭遇しない。

・心に殆ど連絡を返さない。


 以上条件で発生するエンディングとなります。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る