通常ルート81 心





「なあ姫買い物に行かないか?」

「ん? 買い物かの?」


 学校から帰って少しして俺は姫に提案をした。


「心も一緒だけどどうだ?」

「おーアヤツも行くのか! なにやら面白い事が起こるやもしれぬ! よし儂も行くのじゃ!」

「面白い事が起こってたまるか。ゴールデンウィークを休めなかったんだからこれ以上はメンタル崩壊するわ」

「それで何処行くのじゃ?」


 聞けよ、全くコイツは、もう言っても無駄だしいいだろう。


「近くのスーパー行くぞ。今日は卵が安いんだよ」

「うぇ〜わざわざ卵を買いにゆくのかぁ? なんか急にめんどくさくなってきたのじゃ……」


 馬鹿やろう卵は今高いんだぞ!? そんなご時世にセールしてくれるスーパー様に感謝しろ!! でも一人一パックまでだから来てくださいお願いします!!

 でも姫はめんどくさそうに、えぇ〜、と言うので最終手段をとった。


「一緒に来たら今日はオムライスを作ってやるぞ」

「……ッ!? お、おむらいす!! なんて魅力的な響きじゃ! どんな食べ物なのじゃ……やっぱり急に行きたくなったのじゃ」

「本当に現金なやつだ」


 因みに何故わざわざ心と行くかというと、同じスーパーに昔から行っているので一緒に行くのが当然くらいに思っているだけだ、特に意味はない。

 あわよくば心が買った卵も欲しいが欲をかいてはいけないだろう。


「てか卵を買った日に早速オムライスとは消費エグいな……」


 いやこれも卵のためだ、やむを得まい。


 うむうむしょうがない事だ、姫のとんでもない食欲に気持ちの整理をつけていた時、突然インターホンが鳴り外から心の俺達を呼ぶ声が響く。


「心も来たし早く行くぞ、売り切れちまうからな」

「おー! 早く行くのじゃー!」



 家を出てしばらく歩きスーパーへ向かう間、


「ん〜♡」

「……」

「んん〜♡」

「……」

「透ぅ〜♡」

「……なんですか心さん?」

「なんかこれデートみたいだね♡」

「ただ買い物に行くだけですけど?」

「あのお主ら? 儂がおるのも忘れないでもらって良いかの??」


 数歩先を歩く姫は呆れた様子で俺達に文句を言っている。姫だけではなく通り過ぎゆく通行人の皆様が同じような視線を向けてくるのだ。とてもよそよそしい感じで、あ、いや赤の他人ならよそよそしくなるのも当たり前か。

 とまあ何故そんな状況になっているかというとシンプルに心が俺の腕に抱き着きまるで猫の様にゴロゴロと擦り寄っているからだ。


 そしていやいや姫さんお願いだから離れないで? 俺をコイツと二人にしないで? ずっと俺の側にいろよ姫(告白)


「ねぇ透?」

「なんだよ」


 心は俺の腕にくっついている自身の胸を見た後、


「気持ちいい?」


 などと言ってきた。

 馬鹿やろう公衆の場でなにを言っているのだ。場所を弁えろTPOだぞTPO。

 全くこれはハッキリ怒った方がいいだろう。ビシッと言ってやる。


「気持ち良いです」


 俺の馬鹿!! 最低よ!!

 いくら呪いの所為とはいえ、要は俺は今この温もりを堪能していることになるのだ。

 表面上は心にとやかく言ってはいるが、深層心理の俺はこう思っていたということになる。

 情けない! 本当に情けないぞ俺!!


「できれば天みたいに大きかったらなお良かったです」


 本当に余計なことしか言えないなおい!!


「……」

「い、イタタ……痛いっす心さん抓らないで欲しいです」

「本当は引っ叩きたい気持ちを抑えて抓ったんだけど? え? 叩かれたかった?」

「いや抓られて幸せです」


 自分抓られるの大好きなんで光栄っす、だから許してください。腕に力を入れないでくれ……肋骨……肋骨を感じるから……、


「お主らいい加減にするのじゃ、儂を置いておくな寂しいじゃろがい」


 ならそんなニヤニヤしてないで助けてくれませんか神様?


 こうしてなんとかスーパーまで着いたのだが、もう既に疲れた。サッサと目的の物を買いに行くとしよう。と考えていたのだが、


「おぉー!! 儂は菓子を見てくるのじゃぁー!!」

「おまっ!? 卵買う時までに戻って来いよー! レジにいてくんなきゃ買えないからなー!」


 分かったのじゃぁー、と両手を広げて姫はスーパー内を走って行った。まさに見たまんま子供みたいだが、見た目とは違いロリババアだったわ。


「あ、これは姫に言っちゃいけないやつだ。言ったらまた恐ろしいことになる」

「どうしたの透? 早く行こうよ」

「お、そうだな」


 二人で共に卵の売り場まで向かう間、籠をぶら下げた心が、そういえば、と今思い出したであろうことを話してきた。


「透見てた?」


 主語もない突然の言葉に困惑していると、


「アパートさっき出てきたでしょ?」

「そうだな、買い物行くために出てきたな」

「透は知らなかったかもしれないけど僕達の住んでるアパートに誰か引っ越してきたみたいだよ」

「え、マジでか? あのアパートに来たってことはウチの学校の生徒ってことだろ?」


 一応俺達が住んでいるアパートはウチの高校が所有しており、寮の様な扱いになっているため住める者は生徒や学校関係者しかいないのだ。そんなアパートにこんな時期に来るとは珍しい。


「アイツとかじゃないかな?」

「アイツって?」

「杉田」

「人の友達をアイツ呼ばわりは辞めなさい?」


 心の露骨な態度は置いといてそれは無いぞ。銀ちゃんは家族でこの街に戻って来て一軒家に住んでるから。


「ん〜? じゃあ誰なんだろう?」

「別にいいじゃないか? アパートに来たならそのうち挨拶に来るだろ」

「……それもそうだね」

「だろ? さ、卵買おうぜ売り切れちゃうからな」


 とりあえず俺は一刻も早く卵が欲しいのだ。正直今はそんなのどうでもよい。


「さぁ心行こうぜ! 卵が俺達を待ってるぞ!」

「と、透のテンションが珍しく高い……」

「とりあえず心離れてくれないか? 歩きにくいし邪魔」

「と、透が珍しく辛辣過ぎるよ……」


 しょうがないこれも呪いの所為だしな、あーほんとしょうがない。



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