通常ルート80 皆で昼ご飯 後編
目の前に異質な圧をかけてくるドス黒い物体は、美味そうだからとは違う意味で俺にゴクリと生唾を飲まさせた。
この物体をハンバーグだと言い切るのも驚くが、こんな異物を作れる真白の才能に恐怖する。
さてこれをどうするか。
「これ本当に食べて大丈夫か? 食べた瞬間に”全身の穴という穴から出血”とかならない?」
大丈夫死なない? 俺を殺そうとしてない?
すると景ちゃんが、大丈夫ですよ、と一言添えて、
「出血なら優しい方かもしれません。もしかしたら食べた瞬間”人間性の喪失もしくは死”だったり……」
「あ、ありえる……」
「人の手料理を何処ぞの大穴の呪いと一緒にしないでくれないかな? 殺すよ本当に」
いや同じ死ならナイフの方がマシかもしれない。あ、でも呪いで良い匂いのフワフワにもなりたいな、ふむ悩ましい。
「ほらとー君食べてみて早く」
「え、ま、マジですか……」
「はいあーん!」
「うわ嫌過ぎる……あ、あーん……」
抵抗することを諦め、大人しく従って差し出された物体を口へ入れ咀嚼してみた。
「どうかなとー君? 自信作なんだけど……」
自信作?? そうなんだそうなんだへー?
食感はサクサク、いやバリバリ、いやいやネチャネチャ、いやいやいやプリプリ? いやいやいやいやこれはドロドロか??
おかしい、本来混在することのない食感が複数存在するのが認識できる。それにこれは____
「なんかネバネバするんだけど!?」
「うん! チーズ入りハンバーグだからね」
「ネバネバするチーズってドユコト!?」
一瞬納豆かと思ったけれど、良かったどうやら違うらしい。てか納豆だったら許さなかった。それよりも、
「……味はハンバーグだこれ」
「マジですか先輩!?」
「透大丈夫!? 本当大丈夫なの!?」
大丈夫だよね? 安心した途端爆発とかそんな非人道的なことしないよね? 人間性喪失しないよね?
貴方が呪いを受ける方ですよ、とか言わないよね?
いやこれ以上はやめよう。それよりも今はこれだ。
「味は美味い……」
「本当!? やったぁー!」
「でも食感が無理過ぎる……」
「なんでよ!」
なんでとか言う? 真白さんやお前ちゃんと味見したのか?
こんな斬新な食べ物は食べたことないぞ。だっておよそ世界に存在するであろう食感をこれ一つで味わえるからね? この物体を口に入れた瞬間にありとあらゆる食感の大海原へと出航してしまうわけなんだ。洒落にならんのよ。
「まーまー透? 今回は味は美味しいんだからラッキーじゃん良かったね」
「他人事だからってお前……心も食べてみろよ。ほらあーんしてやるから」
「い、良いよ……遠慮しとく」
ちくしょう……こんな時だけ断るのか。
でもどうしようこれ食べたくない。よしここはいい加減ハッキリと断って____
「とー君の為に頑張って作ったんだ……食べてくれると嬉しいんだけど……無理なら私食べるよ……」
「……」
そんな悲しそうな顔しないでくれよ。……仕方ない。
「食べるよ」
「え?」
「味は悪くなかったしな、既にこの量食べるだけで大変なんだ今更一品増えても変わらないって」
「良いのとー君?」
「……せっかく真白が作ってくれたんだしな」
「……とー君♡」
覚悟を決めたおかげで真白を悲しませずに済んだ。ただヤケに皆の視線が痛いけれど、どうしたのだろうか。
よし、早く食べなければ昼休みが終わってしまう。
だがその前に皆にはハッキリ言っておきたいことがある。
「とりあえずお願いだから昼飯一気に持ってくるの勘弁してくれない? せめて事前に言ってくれ」
「「「「じゃあ毎日作って来るから一緒に食べたい」」」」
はいやっぱり当番制にしよう決定ですこれは、俺の身が持たないからね。
こうして無理矢理昼飯をなんとか食べ終えることに成功した。腹が爆発するかもしれないですはい。
◆
昼休みが終わり、あまりの満腹でまともに授業に集中出来ないまま気がつけば帰りのホームルーム時間になっていた。
今の時点でもまだ落ち着かない腹に苦しみながらも姫に食べさせる夕食の内容を考えていた時、教卓に立つ紫先生が気怠そうに口を開く。
「皆はゴールデンウィーク明けでまだ気が抜けてると思うけど、この後の行事分かってるわよね?」
皆が担任のハッキリとしない言葉を聞き何かを思い出しため息を溢す者、逆に途端に元気になりテンションの上がる者が現れ、その様々な姿に姫が困惑しだす。
「どうしたのじゃ何かあるのか? のう! なにがあるのじゃ?」
明らかに周りの反応と違う姫、それもそうか神様にこの行事は分からないのだろう。
正直俺の勝手な考えだがこの行事の事を言われ露骨に嫌がるのは陰キャ、異常に喜んでいるのは陽キャだと思う。その他に超喜んでいる奴は大体体育だとか身体を動かすのが好きな奴だ。間違いない。
ここまで言えば分かる者には分かるだろう。だからあまりそれについてなんとも思わない俺はこの状況の中での第三カテゴリーとなるわけだが、
「あんた達の気持ちも分かるわ……私も同じ気持ちよ……」
まあ長ったらしい考えは抜きにして大人しく紫先生の話を聞くとしよう、とテンションの下がった紫先生は静かに言い放った。
「もうすぐ”体育祭”が始まるわね……」
そう、ウチの学校もいよいよ体育祭の時期になったのだ。
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