通常ルート7
「はい透! ご飯できたよ!」
「おー美味そうだな。今日はオムライスか」
「嫌だった?」
いや最高、と答えると嬉しいのか心は微笑み二人分のオムライスをテーブルに置く。その後小走りで冷蔵庫へ向かうと、中からケチャップの容器を取り出して戻ってきた。
「お待たせ透!」
「いや待ってないよ」
「えへへ、じゃあ僕がケチャップかけてあげるね」
俺の了承を得るより早く心はオムライスにケチャップをかけ始める。見る感じハートマークだろうか。全く可愛い奴だ。
と思っていたがいきなり心の手が止まり一言、
「そういえば言おうと思ったたんだけど」
「なんだ?」
「この部屋女の子の臭いがするね」
「____そ、そうっすか?」
ブジュゥゥ、と言葉を溢した瞬間に勢いよく心の握られたケチャップから赤い液体がオムライスに降り注ぎ、黄色いオムライスは瞬く間に真っ赤に染まってゆく。
あぁぁオムライスが、オムライスが……
さっきまでの笑顔は何処へやら、心の瞳は真っ黒になっている。ここは下手な嘘ついちゃいけないな。
「あぁ、さっきまで琴凪が来ていたんだよ」
「……真白ちゃんが? なんでよ」
「琴凪も心のことで思うことあったんだよ。だから相談しに来たたんだ」
そう告げると真っ黒になっていた瞳にハイライトが戻り、心は困った表情を見せる。
目の前のオムライスはケチャップでビチャビチャになっている。
「……そうなんだ。真白ちゃんが……」
「アイツも幼馴染なんだ、色々思うことがあったんだろ。言っとくが相談内容は言うつもりないぞ」
相談じゃないし、来た理由なんて言えるわけがない。言ったら今度こそ本当に琴凪に殺されるだろう。
「ねぇ透一言いい?」
「なんだ?」
「他にも女の子の臭いするけど」
「あばばばば……」
コイツどんな嗅覚してやがる。勘弁してくれ。
「あ〜さっき後輩が来ていてな。海野だよ」
「海野……あの女か」
「言い方言い方」
心の態度に思わず呆れてしまうが、心は拗ねた表情で言葉を続ける。
「僕、彼女面するつもりはないけど」
「え」
「……なに透?」
「いえなんでもないです」
「ふーん。ともかく彼女面するつもりはないけどさ、あまり僕以外の子と仲良くしないでよね」
「なんでだよ」
「ムカつくから」
「理不尽過ぎんだろ」
俺を殺そうとした琴凪もメンヘラな心もなかなかなやつである。これならツンデレの杏里が可愛く見える。そんなこと絶対心に言えないけどな。
とりあえずオムライスを食べることにしたが、心は機嫌が悪いからかせっかく再会したというのに終始無言で終わった。
◆
翌日、いつも通り学校に登校した。いやいつも通りと言ったがこれからは心と登下校をすることになる。そういう約束になってしまった。
こうしてあっという間に時は流れ、昼休みになった。
「ねえ透! お昼ご飯食べに行こ!」
昼になると早々に心が俺のところにやってきた。すごく嬉しそうにしているが俺は冷静に告げる。
「心、何度も言ってるだろ? 昼は委員会の話があるから無理だ」
「……たまにぐらいは良いじゃない」
「無理」
「……あの女」
俺の返事を聞くと心の表情は暗くなる。というよりまたハイライトが失われてゆく。
しばしの無言が流れたが、心はゆっくり教室から出てゆく。後は怖いがとりあえず一安心。
と思った時____
何かの気配を感じ咄嗟に頭を横に傾けた。
そしてその直後に顔を横切る何か、それは勢い良く俺の後ろの壁に突っ込んでいった。
恐る恐る後ろを見ると壁に突き刺さった一本のピンク色のシャーペン。
俺は投げられた方向へ目を向け____眼光だけで人を殺せそうな程怖い目つきをした琴凪と目が合った。
『殺す』
口の動きだけで分かる。アイツマジ過ぎるぞ。
●
「ってことがあったわけよ。やばいだろ?」
「あはは、さすが先輩モテモテですねー」
「あれ? どこがモテモテに聞こえたの? 難聴かな?」
お昼に図書委員のため、図書室の隣にある倉庫で俺は後輩の景ちゃんと対面して愚痴を溢していた。
「景ちゃん昨日のことを聞きたいんだけど」
「先輩その話はお昼ご飯食べながら話しませんか?」
「……それもそうだな」
じゃこれいつものです、と景ちゃんはお弁当箱を俺の前と自分の前に置く。
そして二人で手を合わせて食事を始める。
「相変わらず美味そうな弁当だな」
「ありがとうございます先輩」
鮮やかな色、そして様々なオカズの入ったお弁当は俺の食欲をとても刺激するものだった。早速一口、
「うん! 美味い!」
「あはは、それほどでも」
食事の感想を言うと景ちゃんは嬉しそうに笑顔を見せ、そのまま言葉を続ける。
「昨日の話をしたいんですよね。先輩」
「おうそうそう。ってその前に景ちゃん右手を見せてくれ」
「? はいどうぞ」
手を見せてくれた景ちゃんの手を触り、俺はじっくり観察する。
「やっぱりなんともないんだな」
「なにがですか?」
「いやさ景ちゃん昨日確かに琴凪のナイフ素手で掴んでいただろ? 怪我してないかなってな」
「……心配してくれているんですか?」
「そりゃするだろ。俺のこと助けてくれたんだしな」
「……」
やっぱりない。傷がないのだ。
昨日の夜に琴凪が俺に放ったナイフはとても鋭利な物だった。それに琴凪が言っていたことが本当ならナイフは彼女の仕事道具、その仕事道具を研いでないとは思えないのだ。
実際あのナイフは俺の家の扉に大きな穴を開けている。
そんなナイフを掴んでいて景ちゃんは怪我をしていないのだ。一体どうして……、
「せ、先輩?」
「あ、ん? どうした」
「そんなジロジロ見られたら恥ずかしいですよ……」
「え」
頬を赤く染める景ちゃん、その手を掴みジロジロと見る俺、さらには誰もいない空間でそんな景ちゃんを見て俺の顔も急に熱を帯びるのを感じ、俺は咄嗟に手を離した。
「ご、ごめんな景ちゃん」
「い、いえ大丈夫ですよ? それに先輩の考えてることもわかります。昨日のナイフを掴んだ時のことですよね?」
「おうそうだよ。なんでないのかなって」
「その話をするには最初に見てもらった方が良いと思います」
見ていてください、と言った景ちゃんは倉庫にあった棚の引き出しからカッターを取り出し、カチャカチャと音を鳴らし刃見せ____自分の手に突き立てた。
「え、ちょ! お前!」
あまりの行動に驚き咄嗟に止めようとした。が、俺はその状況に目を見開いた。
「ほら、どうですか先輩」
景ちゃんは驚く俺に自分の手を見せた。
その手には傷一つなく、カッターの刃はボロボロと崩れ落ちていった。
「……私は化け物なんですよ」
そう言った景ちゃんの表情はとても悲しそうだった。
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