通常ルート8 景♡①
「化け物?」
あまりにも突然言われた突拍子もないことに俺はつい聞き返すと、景ちゃんは呟くように語り出した。
「化け物というより、正確には私は改造人間なんです」
「……
「なんで英語なんですか? ……えーと、私は子供の頃に人体実験の影響で超人的な人間になったんです」
「お、おぉぉー……そ、そうか」
重っ! 意外と重い話だったわ!
正直に驚いてしまう。しかし一昨日までの俺なら信じなかっただろうが今は違う。
一人の幼馴染は女子になって告白してくるし、もう一人の幼馴染は暗殺者カミングアウトして俺のこと殺しにくる。
それと比べたらとりあえず頭に情報が入ってき易い。が、ちょっと待ってくれ。
「まさかのファンタジー要素のあるギャルゲーみたいだな。俺には専門外だ」
「……二次元の世界と現実を混同しちゃ良くないですよ先輩?」
「喧しいわ」
状況があまりにも特殊過ぎんだろうが、既にかなり情報量が多くてパンクしそうだわ。
と、その前に景ちゃんに言っておきたいことがあった。
「なあ景ちゃん」
「なんですか先輩?」
「顔見てたら分かるぞ。自分のこと言いたくなかったんだろ? そんな悲しそうな顔してさ」
「……悲しそうな顔なんてしてません」
え、いやなぜ意地を張るの? と指摘しようと思ったがグッと飲み込み、まだ中身のある弁当箱を見せる。
「これさ、本当に美味しいよ」
「なんですかいきなり」
「いやさ景ちゃんがお弁当作ってくれるようになって何ヶ月か経つけどさ、最初の頃以上に美味しくなってるし、それだからさ」
「俺には景ちゃんが料理作るのを頑張ってる普通の女子にしか見えないし、たとえ景ちゃんが自分の身体を気にしていても俺は景ちゃんに感謝してるぞ」
実際、景ちゃんが止めてなかったら間違いなく琴凪のナイフは俺に突き刺さっていただろう。
危うく朝のニュースに大々的に出るところだった。だから、
「景ちゃんに会えて良かった」
「____ッ!! ……先輩の馬鹿」
え、何故に罵倒されたの、と反応に困っているとコホンと咳をして、
「ともかく先輩はこれからどうするんですか?」
「どうするって?」
「琴凪先輩のことです」
「あーね……」
そう、それが今の問題。
俺を亡き者にしようとする琴凪の事を考えるのが重要だ。
……あ、いやちょっと待って? 女の子になって告白してきたヤンデレ幼馴染でもなかなか情報量多いのに、実は暗殺者の俺を狙うもう一人の幼馴染とか問題が多過ぎる件。
ハァ……、と色々考えている最中に景ちゃんがため息と共に言葉を溢した。
「先輩気付いてました?」
「え、なにが?」
「これ見てください」
景ちゃんはそう言うと懐から見覚えがある複数の刃物をテーブルへ置き出した。
「え……ナ、ナイフ? しかもこの見た目って」
「はい。琴凪先輩のナイフですよ」
「だよな?」
昨日散々見たし、人生初のナイフ投げ記念日を作ったナイフだ。忘れもしない。
「なんでこのナイフを景ちゃんが持っているんだ? ”七本”も」
そう七本、これが現在テーブルに置かれた数、しかも全てのナイフの刃が折れ曲がっている。
そして景ちゃんは言った。
「八回です」
「え、なにが?」
「先輩が学校来てから今ここに来るまでに琴凪先輩から投げられた回数ですよ」
「マ、マジっすか……」
「マジです」
そうかーアイツそんなに俺に投げてたのかー
「しかも全部頭目掛けてです」
「アイツガチで俺のこと狙って来てんじゃねぇか!!」
「だから本当に重要なんですよ」
まさかそこまで本気だったとは思いもしなかった。……いや考えないようと頭の隅に置いていただけだった。
これは本当に対策を考えないとな、あれいや待てよ?
「そこにあるナイフは七本じゃないか。でも八回は狙われているんだろ? 残りの一本は何処へ行ったんだ?」
「ナイフじゃないだけですよ。それにそのブツは今や壁に埋まっています」
「あのシャーペンかよ!」
確かにあのシャーペンも恐ろしい速度で壁に突き刺さっていた。あれが頭に刺さっていたら俺の命はそこまでだったろう。
「ちなみにこのナイフ達は全部私が防ぎました。褒めてください。報酬はプリンでお願いします」
「分かったよ。本当にありがとう景ちゃ……ってちょっと待って? 七本もどのタイミングで防いだんだ?」
「そりゃほら暗殺者の琴凪先輩なら気付かない間に投げてきますよ」
「たとえばどのタイミングで?」
「トイレ時ですね。三本は投げてきましたよ」
マジかよ。俺にプライベートはないのか?
「なかなか琴凪先輩も周りのことをお構いなしにやっていますしね。私も先輩の後について行って男子トイレに入るのはなかなか恥ずかしいですよ」
「え、待って驚きの発言が飛び出て来たんだけど?」
「ということで、ここで私から提案があります」
コイツ話を流しやがった!
全く、都合の悪い話になるといつもこれだ。後で問いただすとして、とりあえず聞くとしよう。
「私はしばらく先輩と一緒にいようと思います」
「あーおうそれは良いかもな、むしろこっちからお願いしたいくらいだ」
それは良かったです、と俺の言葉に喜ぶ景ちゃん。確かに今のいつ襲われるか分からない状況の中一人でいるのは良くないだろう。
しばらく一緒に行動を共にするのは良いかもしれない、と考えていると景ちゃんは言葉を続けた。
「じゃあこれから登下校は一緒ですね」
「おうそうだな」
「お昼も一緒ですね」
「それは今と変わらないが、おうそうだな」
「じゃあ先輩どうしましょうか」
「? なにが?」
決まっているじゃないですか、と我が可愛い後輩は言い放った。
「しばらく私が先輩の家に泊まりますか? それとも私の家に先輩が泊まりにきますか?」
「あ、ちょっと待って! 頭が混乱していてよく分かんないんだけど!? ドユコト!!?」
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