通常ルート2 杏理 真白
「雨上、アンタさぁせっかく心太郎が誘ったのに断るとかなんなの? 幼馴染だからって調子乗ってない?」
「いや委員会の話とかあってさ」
「バックレなさいよそんなの」
いやいや流石にそれはちょっと……。
「あれ、雨上? 変ねなんか聞き覚えのある名前」
「そうか? 気のせいじゃないか」
俺の言葉を聞き気にするそぶりを見せるが、ふーん、と彼女はすぐ興味を無くす。
「ま、いいわそんなこと」
気のせいじゃない。彼女にはすでに自己紹介を済ませている。
”
俺達が二年になってからすぐ転校してきた彼女、フィーリスさんは転校生ポジションのヒロインだ。
碧瞳で綺麗な金髪ツインテール、日本と外国の方とのハーフらしい彼女、フィーリスさんは心太郎と仲の良い女子以外に名前呼びを許さない。
そんなフィーリスさんとは転校時に席が隣同士になり、その時に自己紹介をしたのだ。間違いなく。
彼女が興味のない者の名前をすぐ忘れているだけなのだ。
だいぶキツい性格ではあるが、実はフィーリスさんはさらに凄い属性を持っている。
それは____
「おーい杏理、次の授業移動教室だぞって、あれなんで透と一緒にいるんだ?」
「し、心太郎!?」
突然現れた心太郎にフィーリスさんと俺は変なことをしているわけではないが驚き、多少なりとも動揺した。
だってそうだろう。心太郎のことが好きなヒロインと人気のない場所で二人きりとは、あらぬ勘違いを与える可能性がある。
「もしかして杏理……透のこと……」
心太郎が言いかけた瞬間だった。
「ななな、なに!? コイツがなんだっていうの!? 別にコイツなんて興味ないわよ!」
「そうなのか? そういえば杏理からそういう話聞かないよな。好きなやつとかいないのか?」
さすが主人公。この唐変木ぶりは本当に凄まじい物である。
心太郎のデリカシーのない言葉を聞き、フィーリスさんは徐々に顔を真っ赤に染める。
「い、いるわけないでしょ! 好きなやつなんか! べ、別に私は心太郎のことなんか全然好きじゃないんだから! 勘違いしないでよねぇーーー!」
そう言い残し彼女は走り去る。もうそれは脱兎の如くという言葉が似合うほどにだ。
「杏理は相変わらず元気だなー」
「お、おう。なかなかだな」
二次元好きなら聞き慣れたセリフ、顔を真っ赤にさせながら罵倒とも呼べない言葉責めの裏に紛れた本音。
そう杏理・フィーリスは転校生ポジのツンデレ属性のヒロインなのだ。
●
昼休みを告げる鐘を聞き、授業を手早く切り上げて皆は昼食の準備を始める。
学食に行く者、購買へ走る者、仲良い者同士で机をくっつけ弁当を広がる者と様々である。
そんな昼休みを楽しもうとする周りの中、俺はのんびり授業の片付けをしていた。
「おう透、委員会に行かないのか?」
いつまでも予定を済ませに行かない俺を見て、心太郎がお弁当箱を片手に持ち不思議そうな面持ちでやってくる。
もちろん背後にはフィーリスさんいる。こちらを睨んでいるが、俺なんでそんなに嫌われてんだ?
「あ、いやまだ少しだけ時間あるからさ」
なるほどな、と俺の言葉に納得したのか心太郎は弁当箱を見えるように待つ。
「じゃあ俺達は昼食べてくるから、またな透」
「おうまたな」
心太郎とフィーリスさんは教室を出て昼食を食べに向かう。
場所はいつもと同じで学食のテーブルで集まって食べるのだろう。
俺はスマホの連絡アプリを開き、あるメッセージを開く。
【先輩すいません。体調壊しちゃって今日休んじゃいました(泣)委員会の話は明日じゃダメですか?】
送られた時間を見ると俺が登校していた時だった。これから向かおうとしたがどうやら予定がなくなったようだ。
とりあえず返事を返そう。
【悪い、今見た。体調大丈夫か? 委員会のことは明日とは言わず良くなってからで大丈夫だぞ。あんま無理せず安静にしとけよ】
送られたメッセージに返事を返すと、ほんの数秒で既読になり返事が届く。
【返事遅いです。未読スルーかと思いました。寂しかったです。明日には行けると思うので体調治ったらプリンを所望します】
【元気そうで安心したわ。分かったよ明日プリンな】
【さすが先輩です。後輩に優しい】
さっさと寝ろ、と返事をしてスマホを閉じる。
体調を壊したというが元気そうで良かった。だがこれで予定と俺の昼ご飯がなくなった。
恥ずかしい話なのだが、今連絡していた後輩に数ヶ月前からお弁当を作ってもらっていたのだ。いやほんとに困った。
とりあえず、と自分の財布と相談し、教室を出ようとした時にある女子生徒と鉢合わせになった。
「あ、雨上君……」
「琴凪か、あれ? 昼はまだか?」
「あぁ、うん。私は先生に頼まれてプリントを職員室に持って行ってたの……」
「プリント? ……あ〜そういえば琴凪は学級委員長だったもんな」
「うん……」
「……」
「……」
会話が途切れ、賑やかな昼休みに俺と琴凪の間だけ静寂が訪れる。
こちらを伺う様によそよそしい態度を見せる彼女は”
ただ心太郎だけじゃなく、彼女は俺の幼馴染でもある。
知り合ったのは心太郎と出会ってから少し後、虐められていた琴凪を心太郎と共に助けたのが仲良くなったキッカケだ。
小さい頃は俺のことも愛称で呼んでいたが、ここ何年かで苗字呼びになり、段々とよそよそしくなっていった。
「あ、あの……」
「なんだどうした?」
「えっと……しー君は何処に行ったかわかる……かな?」
「あ〜心太郎か、あいつならフィーリスさんと一緒に昼飯に行ったぞ。多分いつものところだろ」
「あ、そうか、ありがとね雨上君。それじゃ」
お礼を言うと琴凪は急ぐように教室を後にする。
そして同時に俺の腹から空腹を知らせる気の抜けた音が鳴り響く。
「とりあえず購買にでも行くか……」
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