通常ルート3 東鐘姉妹(天、乱華)
「おばちゃんお任せ惣菜パンで」
「あいよー、ってあんた久しぶりだね! 最近見なかったけど元気していたかい?」
「無茶苦茶元気だよ。最近は後輩がお弁当作ってくれていたからさ」
「あら、もしかして彼女かい?」
「違う違う。そんなやつじゃないよ」
ニヤニヤと話しかけるおばちゃんだが、その手は惣菜パンを手早くビニール袋に包み、慣れた手つきで仕事をこなす。
代金を渡しビニール袋を受け取ると、またいつでも来なね、と手を振るおばちゃんに俺は手を振り返す。
昔はこの購買をかなりの頻度で使っていたが、後輩がお弁当を作ってくれるようになってから久々に利用した。
「さて、とりあえず屋上で食べようか」
お任せで頼んだが中身はまだ見ない。食べる時まで楽しみにしたいのだ。
屋上へ向かうために廊下を歩いていた時、目の前から歩いてくる二人に気付いた。
「おや? やあ雨上君じゃないか」
「東鐘先輩どうも。よう後輩」
「……どうも」
凛とした整った顔立ち、腰まである濃い緑色の髪を靡かせて先輩は俺に話しかけてくる。
冷静に挨拶を返しているが俺も男だ。心拍数が少なからず上がっただろう。
誰もが振り返るほど美しく、周りからの信頼も厚い我が高校の生徒会長”
スポーツ万能、剣道部の主将で学年一位の成績、まさに絵に描いたような文武両道の完璧超人である。
そして彼女も俺の親友、心太郎のことが好きな先輩ポジションのヒロインだ。
余談だが俺に対して唯一普通に接してくれるヒロインなのだ。
「雨上君はこれからお昼かな? どうだろう久々に一緒に」
「お誘いは嬉しいですけどやめときます。委員会のことで考えたいこともあるので、先輩達は今からお昼ですか?」
「ああ、先程まで少し生徒会の話があって私達もこれから食べに行こうとね」
「なら急いだほうがいいですよ。心太郎も学食で待ってると思いますよ」
そうかでは早く行かないとな、と俺の言葉に笑みを返す東鐘先輩は、心太郎の名前を聞いた途端、誰もが憧れる完璧超人先輩の凛々しい表情が崩れ途轍もなく嬉しそうにしている。もうあれだ。ゾッコンである。
さすが心太郎だ。こんな素敵な先輩から惚れられるとは我が親友ながら凄過ぎる。
「それでは私達はこれで」
そう別れを俺に丁寧に別れを告げて去る東鐘先輩と、その背後に隠れ俺を睨みつけていた黄緑色の綺麗な髪色をした俺の後輩の女子生徒、
名前は”
同じ苗字ではあるが俺は決して名前では呼ばない。俺自身が親しくない限り名前呼びをしたくないのもあるが、東鐘姉妹に関してはまた少し違う。
俺は妹の方からかなり嫌われている。何故かは分からない。ただ嫌われている。
故に少しでも刺激しないように俺は”後輩”としか呼ばないのだ。実際、今もずっと睨まれていたしな。
そして忘れてはいけないが、あの後輩も心太郎のことが大好きな大切なヒロイン、大切な年下枠の後輩ポジションなのである。
こうして運良く今日一日で全員に会えたが改めて考えてみる。
【幼馴染ポジション】
【転校生ポジション】
【先輩ポジション】
【後輩ポジション】
この四人のヒロインの中から俺の大切な親友
”
●
空を見ると気が付けば夕方。
あっという間に大好きな昼休みの時間が過ぎ去り、残りの授業を無理なく終わらせて午後のホームルームを済まし帰宅の道中。
昼にしたメッセージアプリで後輩との約束した時のプリンを買って家へと向かっていた。
もちろん一人でだ。
一緒に帰ろう、と心太郎から声が掛かったがヒロインズの邪魔をする訳にもいかないので、適当な理由をつけて一人で帰った。
心太郎には付き合い悪くて申し訳なく思うが、お前の将来のためなんだ。我慢してくれ。
ちなみにおまかせパンの中身は焼きそばパンにホットドッグと定番惣菜パンであった。
甘い物が苦手な俺からしたら菓子パンじゃなくて安心した。さすがおばちゃん、俺の好みを覚えていてくれて助かった。
そうこうしているうちに家へと辿り着く。家といっても俺自身の家ではない。
眼前に立つ建物は星空高校の所有するアパート、俺はここに住んでいる。
学校所有と言ったが住んでいる者は俺達くらいしかいない小さなアパートだ。
仕事が忙しく家にあまり帰らない両親から、学校のアパートに入ることを勧められてここに入った。
「ただいま~っと」
部屋に入り同室の者に伝えるためにも声をかけるが返事がない。
「あれ、心太郎?」
そうルームメイトの親友、鍵咲 心太郎に挨拶をしたわけだが、何故だか返事がない。買い物をしてからのんびり帰ってきたのに心太郎がいないことが不思議でしょうがない。
とりあえず今日は俺が料理をする日なので誰もいない静かな部屋の中で調理を始める。思えば家事などは全く出来なかったのに、心太郎と共に暮らすようになってからかなり色々なことが出来るようになった。ほんと心太郎と出逢って良かったな。
「そうだ。今日は心太郎の好きなのにしようか。上手く作れるといいが……」
まあでもきっと喜んでくれるだろう。
夕食の準備を終わらせテーブルに作った料理を置き、席に着くと部屋の虚空を見つめ言葉が零れた。
「遅いな、心太郎早く帰って来ないかな」
言葉は静かな部屋に響くだけで寂しさを際立たせるだけ、いつまでも湯気を放つ食事を眺め続けて時間が経過してゆく。
結果としてその日から心太郎は帰って来なくなった。
◆
心太郎が姿を消してから半月以上経過した。
『しばらく帰れない。でも絶対帰るから待っていてくれ』
あのいなくなった日にメッセージアプリでそう送られてから待っているが、
正直、状況が色々ヤバい。何がヤバいって、
「ねえ雨上、アンタ心太郎のこと本当に知らないの?」
「知らないぞ。そもそも俺も心太郎からなにも聞いてないんだって、ここ最近毎日言っているけど?」
「うっさい」
この扱いである。
フィーリスさんに毎日問いただされ、しかもあの態度を毎度毎度されるとシンドイのだ。
しかも、もちろんのこと俺に心太郎のことを聞いてくるのは一人だけではない。
今日も既に通学路で東鐘姉妹に遭遇し、教室に入った途端に琴凪、そして最後にフィーリスさんと今日はこの順番である。
心太郎がいなくなってからは彼女達に毎日常に問いただされている。俺の疲労がヤバ過ぎるのだ。
まだ朝だというのにもう疲れてしまった。
はあ……、とため息を吐くとチャイムが鳴り、教師が引き戸を開け教室に入ると朝のホームルームが始まる。
「おーい皆席につけ~」
女教師のやる気のない言葉に従い、皆が席に座り一言、
「ま~あれだ。皆驚くと思うが____」
あまり驚かないようにな? と教師の意味の分からない矛盾を聞き、状況がうまく呑み込めないでいると教室の扉に声をかける。
「おーい入ってこい」
教師がそう言うと扉が開き、その正体が現れた。
「____ッ!!」
夜空を思わす綺麗で長い黒色の髪、同じく黒い瞳も輝いている。
思わず言葉を失った。こんな美しい女性がいるのかと驚いて目が離せない。
そして俺の思考はその後に続く言葉を聞いて、
「皆久しぶりです、ただいま帰ってきました。鍵咲 心太郎、改め”
さらに言葉を失った。
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