親友ポジションに憧れる俺は彼女達に狙われている

瑞柿けろ

第一章

通常ルート1




 僕がこの”星空町”に引っ越してきてもう十年、高校二年となった僕達は今日も仲良く学校へ向かう。

 

「しー君! 早く行かないと学校に遅れちゃうよ!」

「お、そうだな! 少し走るか真白!」


 幼馴染の声を聞いて共に走ろうとするが、俺の腕を掴み止められる。


「えぇ〜! 嫌ですよ〜! 私は走りたくありませんよ〜!」

「こーら乱華、腕にしがみつかないでくれ。動きづらいだろ? ほらほら学校にも遅れるしさ」

「う、そ、そうですけど」


 後輩の可愛らしい駄々を大人しくさせると、さらに隣から凛とした声が響く。


「乱華、心太郎君が困っているだろう。あと近づき過ぎだ。離れなさい」

「……チッ、はーい分かりましたお姉ちゃん」

「ありがとうございます先輩」


 後輩が腕から離れ、歩きやすさを取り戻すと俺は先輩へと礼を言う。

 すると、先輩はなにやら困った表情をする。


「心太郎君……前にも言っただろう? 私のことは天と呼んでくれないかい?」

「あぁすいません天先輩」

「……ん」


 少し不満そうな表情を先輩は見せるが、まあ良いだろう、と囁く。

 その顔は不満そうではあるものの、それでいて満更でもないような表情でもあった。

 

「なにやってるの? さ、早く行きましょ!」

「待ってくれよ杏理」


 転校生が一足先にと進む姿を見て、僕はそれを追うように走り出す。


「なにやってんだ! みんな置いてくぞー!」

「ま、待ってよ! しー君!」

「あ〜もう、先輩置いて行かないでくださいよー!」

「いけない。私も急がなければ」

「こら心太郎ー! 私のこと追い抜いてんじゃないわよー!」


 みんなで学校まで走る。

 見慣れたこの光景を、見慣れたこのメンツで走り出す。


 僕は今日も星空高校へと向かう。



「おーい置いてくぞー!」


 聞き覚えのある青年の声。おそらく、いや間違いなくこの星空高校の生徒だろう。

 この学校は町で一番高い所に建っており、校門までに長い坂道を登る。キツくはないがとても長い坂、その坂は自転車通学の者達を苦しめる地獄の坂でもある。

 そんなキツい坂をわざわざ登るのはこの高校の生徒以外まずいないだろう。


「お! おはよう透!」

「ん? おうその声は心太郎か、おはよう」


 坂を登って来た青年はやはり俺の考え通りこの高校の生徒、いやというか俺の幼馴染だった。

 さっきまで走っていたのに一切汗をかいていない爽やかイケメンな幼馴染を見て、俺は急に面白くなり笑ってしまう。


「どうした透? なんか面白いことでもあったか?」


 突然笑った俺を見て不思議そうな顔で心太郎は聞き返す。


「いやなんだ、心太郎は相変わらず元気だなって思ってな」

「……って、なんだよそれ! 朝だからって寝ぼけてんのか透!」


 親友兼幼馴染の”鍵咲 心太郎”かぎさきしんたろうは俺の肩に腕を組ませ笑う。

 この距離感、昔から一緒だからこその距離感に俺はつい照れ臭くなる。こいつのスキンシップは昔から近いのだ。

 

「しー君……待ってぇ〜早いよ〜……」


 背後から聞こえてきた女子の声が聞こえた途端、心太郎は俺の肩から手を離す。


「お〜いみんな早くしろー! 遅れるぞー!」


 そう背後に声を出すと、またな、と言って心太郎は校門へ向かう。そしてすぐ聞こえる女子の声。


「もぉ〜、はぁ〜……本当に早いんだからしー君は……あっ……」

「ん? あぁおはよう琴凪」

「え、う、うんおはようと……雨上君」


 気まずそう、というか嫌そうな反応をしながらも挨拶を終えるとすぐさま走り去る。

 まああれだ、反応は良くないがあれでも心太郎と同じ幼馴染なのだが、一旦置いとこう。


「おはよう雨上君。急がないと遅れるぞ」

「おはようございます東鐘先輩、分かりました急ぎます」

「……うっわ、……おはようございます先輩」

「おう東鐘後輩。おはよう」

「……」

「おはようなフィーリスさん」


 先輩はとりあえず普通、後輩には嫌われ、転校生には名前すら覚えられてない。分かりやすく告げると俺はこの娘達から嫌われている。

 でも気にしない。


 俺は心太郎の幸せをただ願う。なぜなら俺は__



 

 心太郎主人公彼女達ヒロインと結ばれるのを見守る親友ポジションなのだから。







 ギャルゲーというものを知っているだろうか?

 それは物語の主人公を操り、複数人の女の子達、または個人個人と甘酸っぱい恋愛を楽しむゲームのことだ。俺は好んでこのギャルゲーというジャンルをよくプレイしている。

 

 シナリオが良いとか、個別ルートの差別化が上手くできているとか、シンプルにキャラが好きとか、色々思うところはあるが、俺はあるキャラに憧れを抱いている。


 ”親友ポジション”

 これは校内の噂などをもとに主人公がヒロイン達にどう思われているかを伝え、仲の良い主人公をサポートする大切なポジションである。

 ある時は会話のコツ、ある時はヒロイン達の今気になっている物など、伝えられる情報は全て伝えるサポート役。とても大切な役だ。


 ゲームと現実を混同するのは良くないが、俺はこの役割に誇りを持っている。


 俺の親友兼幼馴染の心太郎は文武両道で誰にも優しい爽やかイケメンだ。まさに主人公である。

 誰にでも優しい俺の自慢の親友。

 そんな心太郎のことを好いている彼女達ヒロインは沢山いる。





「よーし、黒板写したか? 消すぞー」


 授業終了を知らせるチャイムが鳴ると教師が黒板に書かれた問題を消す。それを急いで写す者、片付けをして次の授業の準備をする者、俺は後者である。

 

「透ー! 今日昼さ! 俺達と一緒に食べよーぜ!」


 まだ二時間目の授業が終わったばかりだというのに心太郎は嬉しそうに俺の席にやってくる。


「おいおい心太郎。まだ二時間目だぞ? 気が早すぎだわ」

「別に良いだろー? で、どうなんだよお昼さ」

「んーいや、やめとくわ。委員会の予定もあるし」

「……そっか分かった。また誘うからその時食べようぜ」


 誘いを断ると悲しそうな顔をして離れていく心太郎。

 悪いな心太郎。俺はお前と食事をしたいけど、絶対に一緒に食べるだろう彼女達の邪魔だけはできないんだ。というか馬に蹴られたくない。

 だがそんな彼女達を思ってした行動でも、恋をしている女の子の逆鱗に触れることはよくあるのだ。


「おい」

「ん?」


 明らか怒りを含んだ声が聞こえ、授業の準備を一旦手を止めて隣を見る。


「ちょっと来なさい」


 女生徒は眉間に皺を寄せながら言う。これは逆らわない方がよさそうだ、と俺はそれに従いクラスを出る。

 彼女に腕を引っ張られ階段の踊り場まで来る。


「アンタ確か心太郎の友達よね。名前なんて言うの?」

「俺の名前は____」



 ”雨上 透あまがみとおる”主人公の親友ポジションに憧れる俺の物語は、ヒロインの一人に絡まれるとこから始まった。



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