112 アマンダと答え合わせ
「えぇ、そうですよ。野蛮人のくせして、随分と察しがよろしいことですね♪」
険しい表情のヤミとは裏腹に、アマンダはどこまでも誇らしげに笑う。その態度は周りを苛立たせるには十分なものであり、現に双子たちは不快な気持ちをしっかりと顔に表していた。
「……なんでそんなに笑えるんだ」
「ラスターの言うとおりだよ。こんなとんでもないことをして――」
「止めときな」
憤慨する双子たちを、ヤミが冷静に制する。
「いくら文句を言ったところでムダだよ。そんなことより、ちょいと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「えぇ、どうぞ。私が答えられる限りのことをお答えしましょう」
「じゃあお言葉に甘えて……」
余裕の笑みを崩そうともしないアマンダに対し、ヤミも淡々と対応する。すぐ傍で大きな爆発が起こったが、お互いにピクリとも反応しない。
「この首飾り……あんたが仕込んだ魔法具だよね? このとーり破壊したんだけど、意味なんかないってことで合ってる?」
「えぇ。大正解です。説明の大部分が省けそうでありがたいことですね」
「そりゃどーも」
ヤミは返事こそしたが、そこに喜びや感謝の類は一切なく、いいから早く説明しろという催促に他ならない。
それはアマンダも察しており、わざと思わせぶりに肩をすくめて見せた。
「その魔法具は、一度発動させることが最大のカギとなっています。いくら壊したところで、仕込まれた魔法の効果が消えることはありません」
「発動させればいいんなら、別にキャロルを使わなくても良かったんじゃない?」
「フフッ。やはり野蛮人の考えは単調ですね♪」
あからさまな嘲笑に、流石のヤミも顔をしかめてしまう。しかし言い返すまでには至らず、まだペースを奪われてはいない。
アマンダもそれを感じており、余裕の笑みを絶やすことなく続ける。
「この魔法は恨みや妬みを沸き上がらせ、尚且つ精神が不安定な者であればあるほど効果を発揮しやすくなります。キャロルさんは実にうってつけな存在でした」
「そっか。あの子の魔族に対する恨みが湧き出て……」
「えぇ、そうです。あの魔族の少年のせい、と言ったところでしょうかね」
「くっ……!」
そんなことはない、とヤミは言い返したかった。しかし決して間違ってはおらず、掘り下げればそのとおりとすら言えてきそうなほどでもあるため、尚更返す言葉が見つからなかった。
そんな悔しそうな表情をするヤミを見て、アマンダは軽く目を見開いた。
(ふむ。てっきり私に対して怒鳴りつけてくるかと思いましたが……割と冷静な部分があるようですね)
思えば初めて、ヤミに対して見直したという気持ちを抱いたかもしれない。しかしそれも今更な話であり、彼女の評価を変えるつもりは微塵にもない。
既に賽は投げられている。もう後戻りはできないのだから。
「……それでキャロルは、まんまとあんたに利用されたってわけだ?」
「そうですね。あの子はあくまで『媒体』……その利用価値が終われば、後はどうなろうと知ったことではありません」
改めて肩をすくめながら笑うアマンダ。演技ではなく、心からそう思っているからこその口調と態度であった。
双子たちは完全に絶句しており、アカリは信じられないと言わんばかりの悲痛そうな表情を浮かべている。
「き、貴様というヤツは……」
そしてベルンハルトもまた、怒りで肩を震わせていた。これまで黙っていた彼も、遂に我慢の限界を超えてしまっていた。
「利用価値だと? 仮にも大聖堂のシスターを務めていた人間だろう? そんなことを平気で言っていいと、本気で思っているのか?」
「全ては目的を達成するためです」
「それを果たすためなら何をしてもいいというのか、と聞いてるんだ!」
「愚問ですね。そう思っていなければ、何日もかけて彼女に魔力を植え込むなどするはずがないでしょう」
「……なんだと?」
ベルンハルトは険しい表情のまま、軽く目を見開いた。それはどういうことだ、という無言の問いかけを察したアマンダもまた、ニヤリと笑う。
「魔族に対して大きな恨みのあるキャロルさんほど、絶好の媒体はありません。いきなり強い力を施せば壊れてしまう危険性もありましたから、微弱な魔力を少しずつ植え込んでいったんですよ。黒竜をおびき寄せる餌に仕上げるために♪」
「ということは、黒竜の雛を盗んだのは貴様だったのか?」
ここでベルンハルトが一つの仮説を投げかける。
「全ては黒竜たちを怒らせ、この大聖堂を襲撃させるためだった。しかし貴様一人でその全てをこなすなど、到底できはしないだろう。恐らく裏に何者かがいる。それも決して小さくはない組織の者たちがな!」
「――お見事です!」
パチパチパチ、とアマンダがおざなりな拍手を送る。
「流石は大聖堂の騎士団長さんでございますね! アカリ様が心から慕われているのも頷けますよ。だからこそ……」
そして拍手が止むと同時にアマンダは俯き、小刻みに震え出す。
「私からすればずっと、忌々しくて仕方がなかったんですけどねぇ!」
その瞬間、アマンダの体から魔力が噴き出した。その魔力は聖なる者とは真逆の、まさに禍々しいものであった。
するとそこに――
「うおおおぉぉっ! 我が同胞たちをよくもおおおぉぉーーーっ!」
人間姿のラマントが、アマンダに向かって勢いよく飛び込んできた。その手には炎が宿っており、完全に彼女を消し炭にしようとしている。
彼はずっとこの時を待っていた。
話を聞いてすぐにでも地獄へ葬りたいと思ったが、下手に動けば機会を失ってしまうことは必至。ひたすら我慢に我慢を重ねて、今を迎えたのだ。
完全なる不意打ちであったが、確実に仕留めるにはこれが一番だった。
そもそもこのような状況となれば、もはや正々堂々など無意味。同胞たちを助けるために黒幕を倒す。たとえどんな卑怯な手を使ってでも――それが今のラマントの抱く絶対的な意思なのだった。
しかし――
「ふふっ♪」
アマンダがスッと手をかざしたその瞬間、紫色の魔力が発動する。
そして次の瞬間――
「ぐほぉっ!?」
飛び込んできたラマントは、いきなり地面に叩きつけられたのだった。
「何だ……か、体が、動かない……」
まるで巨大な鉄の塊と化したかのように、体がピクリとも動かせない。そんなラマントを、アマンダは冷めた目つきで見下ろしていた。
「全く無様ですね。いくらヒトの姿になったとはいえ黒竜……私に盾突こうとすればこうなることぐらい想像できるでしょうに……」
「き、きさまぁ……」
「うるさいので眠っててくださいな」
「まて! 同胞たち、を……」
ラマントは動けないまま倒れ、そのまま意識を失ってしまう。黒竜のリーダーが成す術もなくやられてしまったというこの状況は、流石のヤミでさえも驚きを隠せない様子であった。
「オホホホホ♪ さぁ、そろそろ始めるとしましょうか――」
そんな彼女の反応など興味も示さないアマンダは、改めて誇らしげに笑い出す。
「私を追放した大聖堂を破壊し、新たなる大聖堂へ生まれ変わらせる儀式を!」
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