第306話 初代勇者アルスの場合
鬱展開あります
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「あの神は正常な状態ではない。だから欠点もある。だが、正常ではないからこその強さもある」
「…そうなのか?」
アルスは塔の時間制限を解除してあるという。
で、のんびりやることになり…休憩時間にそんなことを言い出した。
『休憩の間に僕の話を知っておいてもらおうか』との発声に続いての事だ。
腹が減っては戦は出来ん。という事で休憩しつつ食事にしよう。
カバンから鍋と米を取り出して炊く。
その横でカレーの鍋を取り出して、温めなおし、いそいそとよそう。
当然だがアルスの分もある。と言うか率先して手伝ってくれる。
食べたかったのかな?
そして食べながらお話の時間が始まった。
お話の合間にスプーンとお皿のカチャカチャと言う音だけが聞こえる。そんな空間が出来上がった。
何でも、過去に勇者アルスが神を召喚した時には、ってコイツも召喚してたのか。
過去に勇者アルスが呼び出した神は光の巨人と言った風情であり、そこにアルスが憑依して戦ったらしい。今の触手君とはだいぶ様相が違うようだ。
アルスは巨人化し、魔族の戦士たちを踏み潰して行く。
かつてアルスがまだ弱かった頃、魔族は強大で凶悪な、まさに悪魔のような存在だと思っていた。
だが、いつの間にか対等になり…そして光の巨人と化してからは一方的に殺す殺せてしまう相手になった。
極めて簡単に、相手に何もさせずに殺せてしまうのだ。
本当にコレでいいのだろうか?
そんな事を考えながらも後ろからくる軍勢の勢いに任せて押し出されるように前に進む。
何かを考えることも出来ないような虚ろな頭で歩いていたが…ある日、足元で潰した魔族を見ると、それはつぶれた家の中で我が子を庇う一人の母親とその小さな娘だった。
二人は自分の…アルスの母と妹にそっくりだった。
その死に様まで。
「…そして気が付いたんだ。魔族も人族も、ただの人間だったんだなって」
「…ああ」
「で、我に返り、後ろを見るとそりゃ酷い光景で。男は殺す、女は犯して殺す。気に入ったのは持っていって甚振って終いには殺す。そんな光景が広がってて…つい」
つい、光の巨人の力を全力で使い、百万近い人族の軍勢を皆殺しにしたそうだ。
そしてアルスは召喚した神を無に帰すために自害を選んだ。
だが世界は元には戻らず。
幾ら百万の軍を皆殺しにしたとは言っても弱り切った魔族に人族を押し返す力はなく、人族が圧倒的に魔族を支配し、奴隷にするような状態になっていた。
アルスが大暴れする前は魔族が人族を脅かしていたのだから…まあ反動は酷いものだったらしい。
で、そんなこんながしばらく続いて大魔王様が頑張ったと。
アルス曰く大魔王様は上手く神と交渉することで停戦を勝ち取ったらしいが…
「どうやって交渉したのか分かるか?」
「それが、話せないらしい。話そうとするとうまく言葉が出なくなるとか」
「ふーん?」
じゃあ書けばいいじゃないかと思うけどもちろんそういう物ではないのだろう。
と言うか気づいてしまったのだが。
種を集めると神が召喚される。
そして俺は今師匠から種を預かっている。
つまり問題は…俺がうっかり教皇を斃してしまうと…
「そうだな。カイト君が次の『神』になる。いや、魔族だから魔神かな。大体同じだけどね…だから斃すのは教皇ではなく、後ろについているモノだ。」
「やっぱりそうなるのか…」
「待て、私が教皇を倒しても同じなのか?」
「アシュレイ君も元所有者だから同じ。君が『神』になるのさ。グロードも同じだよ」
「じゃあ儂が斃すと?」
「ガクルックス君が斃すと、神を受け入れられない。だから近くに居る者が所有することになる。君たちの誰かって事になるね。同じことだ」
「なんだそりゃ…クソゲーかよ。終わってんなあ」
結局俺たちのパーティーが倒すことは出来たとしても、誰かがあんな訳わからん触手を身に着ける羽目になるらしい。勘弁してくれ。
アルスの話を聞いて俺たちがやるべき事が見えてきた。
それは教皇を斃さずに教皇に寄生するかのように育った種を…種から孵った『神』を僭称する何かを倒すことなのだ。
つーか、アレが実際の所本物の神様なのかもな。
ヒトを操り、動かす。
そして良い事も悪い事も何でもホイホイと無責任に…その結果、どれだけの民が苦しむかなんて知ったことではないとばかりに。
いや、まあそれはいい。
現実の所を考えないと…
「じゃあどうすればいいだろう。あの…触手?アレを倒せばいいのか?」
「アレは僕らの肉体でいう所の髪の毛や爪のようなモノだと考えている。髪を切られても爪を切られても…まあ多少の痛みはあるかもしれないが、その程度だろう?致命傷には程遠い」
「そうだな」
「じゃあ本体を倒すことが不可能かと言えば必ずしもそうでも無い。髪や爪とは言え、切って切って切りつくす。すると、いずれ爪も髪も無くなる。そうすれば…」
「本体が出て来る?」
「僕はそう思っている。というか、塔の番人全員がそう考えている。幾らなんでも無限の力、無限の魔力という事はないだろう。効率的に魔力を減らす方法があるはずだ」
なるほど。なら教皇自信を攻撃したらどうだろう。
そもそも神の髪ガードさえなかなか抜けなかったし、傷もまともについてるとは思えなかったが…ああいや、マークスの一撃は触手を弾きながら腹をぶち抜いていた。
で、すぐに治ってた。
「マークスの一撃は触手を弾いて腹ぶち抜いてた。大きな穴が開いたと思うんだけど一瞬で治った…あれは?ああいう風に削ればいいんじゃないか?」
「そうだね。あの時はそれなりに魔力を消耗したはずだ。それに君のお爺さんの時だって、随分消耗させたはず。だからって倒せるほどじゃない。もっともっと削らないといけないし…いよいよ危なくなればあのボディを捨てることも考えられる。すぐ近くに予備がいることだし」
「ああ…はい」
出てきている触手をどうにかするより、本体を殴った方が早い気はする。
と思ったが、本体をあんまりボコボコにして殺してしまうと教皇を捨てて俺らに取り付くのか。
何とも厄介な敵だ。
厄介な条件が付いていると思うが、希望が無い訳でもない。
だた、今度は本体が出てきた時に倒せるかどうかって話になる。
勇者アルスが憑依していた『神』は正に金色の巨人と言ったところであったようだし、当時の魔族だって強さは多分そんなに今と変わらないだろう。
武器や防具はともかく、生物の体が10や20世代程度でそれほど極端に強かったり弱かったりするとは思えない。それをホイホイ踏み潰していたと言っているのだ。そんなの倒せるのかって話である。
「召喚された後、本体が出てきた後に器が死ぬと消える…と思うのだけどね。僕のように」
「消えない場合は?」
「その場合は…あるいは僕と同じようにするしかないのかも」
「そんな…」
つまり誰かを生贄にするという事か。
だが、アルスは頭がおかしくなったと言っていた。俺が巨人化して、自害しようとしても素直にできないかもしれない。そうなったら破壊の限りを尽くして…何らかのきっかけが起こるまで戻れないという事になる。それが何時になるかは…
そう考えているとアシュレイが尋ねる。
「ふむ…分からんが分かった。で、101層に行くと何があるのかは教えてくれるのかな?」
「それは僕を倒してからじゃないかな」
「これだけ教えてくれるんだから一寸くらい良いだろうに」
「ハハ。それはそれ、コレはコレさ。教えたのは美味しいカレーのお礼だよ」
そう言って勇者アルスは立ち上がり、剣を手に取った。
休憩時間は終わりという事だ。
武器を構え、戦いを再開する。
よし、次は俺の番だ!
…あれ?アシュレイさん何で片づけを俺に押し付けて立ち上がってるのかな?
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ここらへん鬱展開ばっかりで書いててちょっと微妙です。
次回作は何にも考えないで済むような頭ハッピーセットな作品にしたい。
つーか、今作もそうする予定だったのに…
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