第304話 勇者
久遠の塔 100層
「さて、いよいよ100層か」
「何か知っているか?」
「なんにも知らん!」
胸を張って答える。
知らん物は知らん。
多分大魔王様とかはクリアしてるんだろうな、なんて思うけど分からん物は分からんからな…
「100層は黄金に光り輝く巨人らしい」
「また巨人型か」
ガクさんが教えてくれた。
さすがにこの中じゃ年長者。
物知りである。
しかしまた巨人か。
このダンジョン、どこもかしこも巨人と龍ばっかりじゃないか。
偶には虎や燕、あるいは鯉の出番があっても良いではないか。
星?海辺の星はちょっと…どうやって戦うんだ???
まあいい。巨人でも半神でもどんと来いだ!
「たのもー!」
バターンとドアを開ける
「アレはやらないといけないのか?」
「カイトの癖のようだ。騒々しくて申し訳ない」
「儂は嫌いではない。堂々としておって良いではないか」
グロードは微妙そうだが、ガクさんは褒めてくれる。
魔族としては堂々としているサマの方がよいらしい。
人族からすればなんでわざわざモンスターの注意を引くのか。と言う気持ちもあるのだろう。
まあ俺もそれはわかる。
しょうがないじゃないか。
何となくやり始めて、ボス戦だぞ!行くぞ!って気合が入る。
逆にこれをやらないと気合が出ないのだ。
「…よくぞここまで来た」
「喋った!?」
そこに居たのは人型の…大きさも通常の大きさだ。
巨人じゃないじゃん。普通のイケメンだぞ。しかも人族っぽいが…
「お主が話しかけて…んん?この展開は以前にやっているのではないか?」
「ああ、そう言えばソロで70層に来た時にやった気が。水龍元気にしてるか?」
「うむ。お主の父も母も、ロッソも…大魔王も元気にしておるぞ」
ああ、水龍に初めて挑んだ際、この会話をした記憶が。
つーかコイツそれ知ってんのか。あー、何かイロイロ思い出してきた。
「何の話をしとるんだ?」
「何って…」
不思議そうにする3人だが、そりゃそうか。
俺は何故かあの『控室』に行っていた。
アレは…思えばあの瞬間、俺はダンジョンに取り込まれていたのだ。
なのになぜ復活できたのか。なぜロッソはダメだったのか。うーむ、わからん。
「俺はダ…ん?ダン…?ああ?」
「それは喋れないように規定されている。無理なのだよ」
「…そうか。」
「何なのだ一体」
「色々あるって事だ、フッ…」
そう、渋い男には色々あるのだ。
なんてどうでも良いボケは誰も突っ込まない。
でこいつは見たことある。ダンジョンの良く解らない控室みたいなところでアシュレイを応援してた時に居た…居たんだよ。で、誰だコイツ?
「で、失礼だけど貴公は何処のどなたかな?」
「私こそが勇者。初代勇者アルスだ」
「アル…ス…?」「「アルスだと!」」「アルス様!?」
どこかで聞いたと思ったがピンと来ない俺、それに引き換えアシュレイとガクさんは親の仇を見るような目で、グロードは崇拝するような目で見ている。ふむ。アルス?アルス…?
「あー、あれか。初代の」
「だからそう言ってるじゃないか」
「あーはいはい。成程成程。ここでお前が出て来るのか…」
「お前って失礼だろ!?」
グロードが何やらキャンキャン言ってるが無視。
つまり、90層の番人が大魔王様で、100層はコイツと。んん?
「何でソロの方じゃなくてパーティーで攻略してるのに出てくんの?」
「出番なさそうだったから無理言って出てきちゃった」
舌を出し、『てへっ。』って顔をしながら言うアルス君。悪い奴じゃなさそうだが…
『アルス』は俺のいるこの世界、KoKの1作目、初代タイトルの主人公様だ。
初代の時は分かりやすく人間の勇者が魔族を倒して領土を広げる話であり、シミュレーションパートもほぼほぼ自動で進むような感じだったらしいが…まあつまりRPGの亜型のようなゲームだったようだ。
だがその分アルスは純粋に強いとも言える。
魔族をアルスのパーティーでバッタバッタと薙ぎ倒したわけだし。
それに、アルスの活躍した時間からおよそ2000年近く経っているはず。その間ずーっと塔で強者たちと修業の日々を送っていたと考えれば…
「バケモンじゃねえか」
「そうだね。そうとも言えるね。でも僕のレベル自体は全盛期のまま変わらないのさ」
「へー…」
威厳のある口調は飽きたようだ。
一寸やってみたかっただけなんだと。
2000年鍛えていたと言えばレベル1万とかになってそうだが、全盛期のまま変わっていないなら勝ち目があるとも言える。
レベルを上げて物理で殴る、これが正しい
「あ、ところでさあ。あの…ボク、昔から初代勇者様に憧れてたですよね」
「え?そうなの?」
「はい、なので…アルスさんのサインを…どっせーい!」
「うわ!」
サイン欲しいとか言って油断させたところでいきなりの攻撃。
短剣をいきなり全力で突く。もろたで!
「…びっくりした。ハハ、君らしい」
「なんで!?」
当然のように、防がれる。
絶対獲ったと思った。
必殺のタイミングだったはずだ。
必殺の短剣を防いだのはいつの間にかアルスの手にある剣だ。
あの剣何処から出したんだ。アイテムボックスを開いても間に合わないタイミングだったはずだ。
「…どこから出したんだよそれ」
「この剣は呼べばどこからでも来るんだよね」
「何だそりゃズルいなあ」
アルスの持つ剣。その神々しい輝きは聖剣に間違いない。
だが、いつぞやの勇者のように嫌らしいギラギラした輝きとは全く違う。
「お返しだよ。ほら」
「う、お……いでえ!」
突きを受け止めたままの剣を捻じり、短剣を弾いて振り下ろしてくる。それを俺が盾で防ぐと、開いた胴に足の裏で軽く蹴りが入った。
軽くにしか見えない一撃。
それだけで俺は吹き飛ばされ、ガクさんにキャッチされる。
あの、ガクさんもうちょい柔らかくキャッチして。
ゴツゴツの岩が痛いんじゃあ。
「やっぱりすんげー強いんだけど」
「それはそうだろ…というかカイト、相変わらずセコイな」
「セコくて何が悪いか」
楽して強い敵を倒す、これほど良いことがあるだろうか。いやない(反語
「…悪いけど今の君達じゃあまだまだ僕は倒せないと思うよ。全員で掛かってこないとね」
「だってよ」
「そう言われれば挑みたくなると言うモノだ」
そう言ってアシュレイは前に出た。
手にはマンモスが落としていった角槍。
何やら槍も昂っているのか、槍から立ち昇る冷気が凄い。
「君か。幾ら君でもまだ僕には敵わないだろう。10年近く眠っていたのだ…それに産後なのだろう?」
「母が強いというところを見せてやるのだ。ふふ…いくぞ!」
槍を聖剣で防ぎ、カウンターを剣で、盾で、そして足技で。
アシュレイが火魔法を使えば水で、槍が氷を出すと土で。
強振は受け流し、フェイントには釣られない。
なんと言うかこれは…
「上手いな…」
「熟練の技を感じさせるな。さすがアルス様だ!」
「後の先だな。…手加減されているぞ」
勇者アルスの攻撃がアシュレイに決まりそうなタイミングがいくつもあるが、そこではあえて剣を鈍らせ、防がせている。脚や拳はさすがに緩めないが…
「ぐっ」
「おっと、ヒール、ヒール!」
アシュレイがこちらにズザザーッと転がされて来た。
すかさずヒール。
うーん、何というか、上手いな。
「では次は儂が…」
「次は俺だろ!」
ガクさんとグロードはどっちが先に挑戦するかで揉めている。
いうて喧嘩ではない。楽しそうな揉め方だ。
「どっちでもいいだろ。ジャンケンでもしろよ」
「よし…最初はグー!」
ジャンケン大会が始まった。
勇者アルスはそれを微笑ましく見ている。
彼にとってはこういう時間も楽しみの一つ…というかおそらく。
人の身でありながら2千年近く生かされてしまって、そのくらいしか楽しみがないのだろう。
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