閑話 過労死目前!超絶ブラック労働者ゴンゾ!

アーク歴1510年 参の月


大魔王城城内 異世界知識研究室

鍛冶屋のゴンゾ



「何じゃこりゃあ…?」

「親方、また何かあったんですか?」

「これじゃ…思いついた事を書きなぐったノートのようなモノに見えるが…」

「汚ねえ字ですね」

「読み書きできんかった儂らが言っても説得力ないがな」


ガハハハ、と助手のキンザと笑い合う。

キンザめ、目の周りが真っ黒でウサギのように充血した目をしておる。

真っ赤な瞳に映る儂も大差ないが…まあ気のせいだろう。


坊ちゃんが戦利品として持ち帰った物資、それは多岐に渡る。

車や飛行機の模型から製作途中の物、それに積み込むであろうエンジン…の未完成品、設計図に燃料。

そして燃料の作り方を指示したものに貯蔵庫の位置を示すもの。

あるいは燃料や鉱石を採取した場所。採取の方法。


こりゃあ軍事機密の塊だ。またえらいもん拾ってきたな…


坊ちゃんが奪取してきた機械類は慎重に解体して研究に使う。

これはスケッチしながらゆっくり進めることになる。

壊して戻せないなんて間抜けなことが出来るはずもない。


一方で設計図や資料等は何人もで手分けして、有用かそうでないかを早急にチェックする。

資料を読むには当然だがある一定の知識が必要になる。

隠語で書かれている場合もある。


坊ちゃんが言うにはどこかの国では料理を使った隠語を用いて内容を書き記していたらしい。

書く方も読み解く方も、様々な知識が必要になるのだ。

それらの知識の礎となったのがヴェルケーロに坊ちゃんが作った学校で習った事柄である。

あの頃はよかった。いや、悪かったことももちろんたくさんあるが。



儂が資料を読み解き、仕分け作業をしている隣で同様の作業をしているのは助手のキンザ。

こやつは元々リヒタール時代に儂と隣の工房で働いていた者だ。

働き者だったのだが、その工房の長とは折り合いが悪かった。

なのでヴェルケーロ移住の際に一緒に移り…いや、後から合流したのだったかな?まあそれはいいか。



移住した初期は最悪だった。


坊ちゃんの人使いの粗さは今も昔もそう大差ないが、鍜治場が出来る前に鍛冶仕事をしろと言われても困る。今だって新しい研究をしろと丸投げで言われても、研究に使う器具も結局自分たちで作らなくてはいけない。おまけにその研究の内容が…ん?よく考えたら今も昔も大差ないか?

だが、体が慣れたのか不思議とそれほど辛くはない。3時間も寝れば頭はスッキリだ。

それにしてもこの汚い文字の本…これは…


「おい、キンザ。これを見てみろ。まさに儂等が今やろうとしていることが書いてあるぞ」

「どれ…ほんにのう。オマケに研究器具の作り方まで書いてある。何と親切な本じゃあ」


表紙にも裏表紙にも作者を示すサインはない。

走り書きで恨みつらみがあちこちに書いてあるが、それだけではだれがどうやって書いたのかは判別できないのだ。


「ううむ…しかしこりゃあ」

「こりゃ天才というよりは秀才じゃな。誰かの作ったモノをメモしているようじゃ」

「そうじゃな。儂も同じ意見じゃ」


非常によくまとめられているが、どことなく坊ちゃんと同じような香りがする。

これを書いた本人が実際に作った事があるか?と考えれば、おそらく作ったことはないだろう。

だが知っているのだ。作り方を。その効果を。


「となるとこれは転生者だな。ご領主様と同じか」

「しかし、坊ちゃんよりはよく知っておるようだぞ。儂らが貰う指示よりはよほど具体的で分かりやすいわい。ガハハ」

「そうじゃな。ご領主様の指示は曖昧過ぎてなあ」

「これだけ綿密に指示してもらえれば簡単じゃな。まあその分詰まらんだろうが」

「そりゃあ言える。試行錯誤して、出来た喜びはなさそうじゃ」


材料も作り方も指示通り。

その通りにやったら期待した効果が出る。成程、素晴らしい。

素晴らしいがそれ以上は何ともない。作り上げた喜びもなく、失敗すると責められるだろう。

なんとつまらん仕事だろうか。


「こりゃあつまらんの…儂なら苦労して、ご領主様に酒を褒美にもらう方がええわ」

「そうじゃな。儂も同じじゃ。この仕事はつまらん…つまらんが、相手がこれをやる以上儂らも後れを取るわけにはいかん」

「…そうじゃな」


本の後半に行くほど出来上がるモノ兵器は物騒になっていく。

如何に効率よく相手を殺すことが出来るか、広範囲を焼け野原にすることが出来るか。それだけを考えた兵器ばかりになっていくのだ。



相手がそれらを作ってくる以上…同様か、それを上回る恐ろしい兵器を作らなければならない。

殺し合いの螺旋である。


「…鍬を作っていたころに戻りたいわい」

「奇遇じゃな。儂もじゃ…」

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