第301話 強襲の結果


アーク歴1510年 参の月


大魔王城



俺とアカとマークス、そして母方の祖父であるエルフ王ことクソジジイの3人で行った教皇領強襲から3か月ほど過ぎた。


「可愛いでちゅねぇ。あしぇるちゃ~ん、お婆ちゃんでちゅよ~」

「母上…」

「まあいいじゃないの」


子供が生まれて1か月。

幸せの象徴としてアシェルと名付けた。

アシュレイの子供にアシェル。紛らわしいか?

眉目秀麗のアシュレイと馬鹿のバカイト、その子供だから普通か?なんて考えたけどフトゥーなんて付けた日には参観日で子供も親も赤っ恥を掻くことになる。


普通にひねらない名前で…と思ったがアシュレイと音が被った。

まあいいか。



伯母上は毎日こちらに来る。

よほど孫が可愛いみたいだ。

おっと、もう伯母上じゃなくて義母上なわけだが…兎に角毎日来るのだ。


朝の列車に乗ってアークトゥルスからこっちに来て、夕方に帰る。なら止まってけばいいと思うのだが、行き帰りの列車の中、それから帰って寝るまで執務をするのだと。忙しい事だ。






あの教皇領強襲から帰還後、いろんな伝手を手繰って探らせたが、今のところ攻めてきそうな気配はない。

こちらも立て直しに追われる中で俺たちの出発の時を無事迎えることが出来る。


マークスとジジイの死は無駄にはならなかった。

グロードの情報を裏付けるように次々とマリアの所から、それに商人の所からも情報が入ってくる。


やはり彼方の動きは鈍い。


通常なら農閑期の冬場にアークトゥルスに、あるいは雪解けの後でヴェルケーロに、或いはいつぞやのように両方に攻勢があると思っていた。

ところがその気配はない。


どうやら教皇はそれなりに傷を負い、動けないらしい。

それに教国のトップ陣もかなり減ったらしい。

教皇は公式の場に、民衆の前にあれから一度も出てきていないし、教国を主導していた人物たちも同様に出てこないらしい。工場の火災も酷かったようで消火まで1週間はかかったとか、散々だったようだ。

ざまあみろってんだ。


教皇本人は傷を負って動けないか、あるいはもうヒトに戻れなくなったのか、は分からない。

そのおかげなのか、民衆の狂乱状態も収まっているらしい。

こちらはいつまで続くのかは不明だが…。



そして一方の騎士団だ。

教国本国にある聖騎士団本部は壊滅。


聖騎士団長、副団長以下300名以上が死んだらしく、誰がその後を継いで団長になるかで一揉め。

そしてあのマークスが大暴れした事件の際、救援に向かわなかった他の騎士団や兵士団、警備隊との軋轢も生じているらしい。

オマケに聖騎士団員は教会の誉れ、という事で今は教国の一部になっている他国の貴族の子弟、それに恭順した国の子弟も沢山いたらしく。

…まあ教国の内外でも問題になっているようだ。



ここで気になったのが神の洗脳である。


もしかして、と言うかやっぱり、と言うか。

一般兵や農民のような下っ端は濃厚に洗脳に掛かっているようだが、上層部は必ずしもそうではないようだ。洗脳に掛かってりゃ息子や孫が死んだって怒らないだろう。

むしろ良く戦ったと称賛するはずだ。だよな?


いや、魔族に向かっての怒りはあるのかもしれない。でも、同族に向かって怒るというのは理屈に合わないのだ。……どうにかうまいことこの辺りを利用できればいいのだが。


今のところ真正面から打ち倒す方法がない。

ならば搦手から、というのはおかしな策ではないはずだが。


「…なのでマリア、かなり危険だと思うが…人族の貴族連中や王族の中で、教国に不満を抱く者がいるはずだ」

「はい」

「それらを使ってどうにか足止めをしてほしい。具体的には…俺らが帰ってくるまでだ。」

「はい…お気をつけて」

「おう。じゃあ行こうか、義母上、アシェルをお願いします。」

「頼むぞ、母さん。頼むぞアマンダ」

「分かってるわよ。あー、かわいいでちゅね~。このままウチの子にしちゃおうかしら?」

「やめろよ?サクッと終わらせてくるからな?出発するぞ」

「行ってらっしゃいませ」


子供の事が心配だが、伯母上と乳母に選んだアマンダに任せるしかない。

アシュレイも心配そうだが、それはそれって感じで割り切ってる。


「ではまたな、賢く学校に行くんだぞ、ハイダル、ヴェルダル」

「うん!」「分かってるよ!」


グロードの妻と二人の子供もこちらで面倒を見ている。

幾ら初代勇者の子孫だと言っても混血だという時点でどうなるか分からない。あちらの情勢はもうそこまで来てしまっているようだ。


平和になって1000年余り。

混血なんてどんどん進んでるし、もう混ざってない人の方が少ないんじゃないかなんて思うんだが…それでも差別はハッキリとある。いや、今回の戦争でハッキリ出て来たと言える。


「では行こうか」

「すまんな、待たせた」

「いや…子は良いものだ。お主らもバンバン作れ」

「そーだな。…んで、そう言うガクさんはどうなんだ?」

「ウチは7人の嫁と25人の子がいる。孫ももう4人いるぞ」

「ふえー」


魔族は子供が生まれにくいとは一体何なのか。

ガクさんは魔王だからな…特別アレが強いんだろ。そーなんだろ…たぶん。



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