第257話 ゴム

アーク歴1507年 什の月


アークトゥルス魔王領


アークトゥルス魔王領の気候はかなり温暖だ。

ヴェルケーロにいた時には冬場になると雪で覆われてひどい目に合ったが、こちらの冬は暖かく、過ごしやすい。


あれからマークスとシュゲイムは大急ぎで準備をして、山越えをした。

トンネル内部の土砂は土魔法使いと大型魔族が力でゴリ押しして取り除いた。

んで無事に輸送できたそうだ。派手な輜重の車列はかなり目立ったと。

車列と言っても勿論、荷車の車列だ。乗用車やトラックが欲しいものだ。



トンネル工事と道路工事で一番活躍したのは一輪車だったようだ。二人で担ぐモッコより、一人で運べる一輪車の方がやはりいいらしい。安定感は悪いが早いし楽だ。

運べる量はモッコの倍以上になるのだとか。


一輪車の安定感が悪い一番の原因は剥き出しの車輪だ。

鉄製と木製の車輪が混在しているが、小石を踏めば止まる、あるいはガッタンガッタンと跳ね上がる。

当然のように積み荷が零れる。


ああ、ゴムの衝撃吸収能力が欲しい。

これから車を作ってタイヤを…と思っているから当然そちらにも使いたいし。

暖かい地方でゴムの木を探したいが、探して見つけた所でアークトゥルス領でもまだ冬場の気温が低くて厳しいんじゃないか。


ゴムの木は10度だか5度だかを下回ると枯れると聞く。

リヒタール領は真冬の一番厳しい時期に偶に雪がちらつく程度の気候だ。年に数回程度だが。

日本でいうと西日本の太平洋側の、さらに少し南寄りの土地くらいの気候だろうか。


だが雪が降るくらいなら…まあゴムの木は枯れちゃいそうかもな。

やっぱりもっと南の土地が欲しい。それとも一度考えて諦めたハウス栽培か…ガラスハウスなら今の技術ならできなくもない。

どこかの山の中と違って、冬場に雪を下ろす必要もないだろう。

アレがあるから諦めたんだよな。放っておくと重量で割れそうだし、内部の熱も上がらないだろうし…


しかしまあ、ゴムの木をハウス栽培までして育てて、それでどれだけのゴムが採れるのだろう。

ゴムの木にナイフか何かで傷をつけると白いミルクのような樹液が出る。

それを集めて漉して、乾燥させたら固形ゴム。それを硫黄と混ぜ混ぜして成型して…だったかな。

添加物は硫黄以外にもいろいろ必要だった気がする。その辺は要実験だ。


ゴムが出来れば何が出来るかと言えば、タイヤは勿論だけどパッキンが出来る。

パッキンは圧がかかる物なんかにはあちらにもこちらにも、数え切れないほど使われている。現代社会のような文明を築こうと思えばゴムは必須なわけだ。蒸気機関も今ゴンゾが考えたよくわからん仕組みで封鎖しているが、パッキンがあればもっと効率がいいんじゃないか?

まあ耐久性の低いゴムは温度での劣化が激しそうだから結局今のゴンゾ式のほうがいいかもしれん。


ゴムは色々な役に立つ。

使っているところが多すぎて逆にパッと出てこないほどだ。

だからってガラスで作ったハウスを用意するほどかと言えば…うーん。まあやってみるか。

駄目なら駄目で色々使い道はある。


「ゲイン、アークトゥルス領に前に話したガラスの館を作ってみようと思う」


今日も大忙しの大工にさらに新しく注文を付ける。

ブラック?ああん?封建領主にそんな事言ってみろ!打ち首獄門だぞ!?


「あれですかい?部屋を暖めるための何とかというやつ」

「そうそう。ハウス栽培だ。まあ本格稼働は来年になるだろうけどなあ。暖かい時期にこっちに輸入してきて、それで越冬させるのが目的だから」

「そこまでする価値のあるもんなんですかい?」

「ゴムは極めて用途の多い植物だから…でもまあそこまでするほどか?生えてるところから輸入すればいいんじゃないか?と言われたら微妙ではある。まあ実験の一環だと思えば良い」

「はあ…」


まあ昔と違って金には余裕がある。実験としては大掛かりなものになるが、それもわるくないだろう。

それに、俺の樹魔法が上手く使えたらゴムはものすごい量採れることになる。

1本で10本分でも20本分でも採れるかもしれん。と言うかそうなってくれないとハウスの面積がどえらい事になる。

おまけにガラスだと重いから耐久性がとか、台風が着たらあっちもこっちも割れてとか…やっぱやめたほうが良いかな…?


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