第258話 奴隷
アーク歴1508年 壱の月
大魔王城
「「明けましておめでとうございます」」
「おめでとう、カイト、アシュレイ」
今年も無事に終わった。
戦の準備もしていたが人間界は内部でごちゃごちゃしていて特にこちらには何の被害もなかった。
線路はガクルックス領から大魔王城まで繋がった。列車はまだ車両が少ないので1日1往復、2便体制だ。
およそ半分以上が貨物用の車両だが、詰めればかなり乗れる。
改良に改良を繰り返した結果、だんだんと蒸気機関の出力が上がってきたので車両を10両程度繋いでも無事に動く。
回転運動とはすばらしいものだ。いくらなんでもあれだけの重量を運べまいと思うがレールの上を転がすと動くんだからな…。
乗員については少し問題がある。
一般的なサイズの種族や小人族は特に問題ないが、いわゆる巨人族やケンタウロス、ミノタウロスさんたちは普通の車両だと狭いから貨物用の車両にデカい椅子を付けて乗ってもらうことになる。
あん?屋根が無い?文句があるなら乗るな!暑いなら傘でもさしてろ!という状態だ。
うーむ。これはどうなんだろう。
まあ実際蒸気機関車の貨物車両、それも屋根のない車両に乗るのはちょっとかわいそうだ。
何と言っても煙が凄いのだ。
でも大きい車両を特注で作るとする。すると、後々電車を作った時に大きな種族等の車両は架線に当たりそうだ。
いや、どっちにしろ目的地に到着した巨人族がうっかり立ち上がって伸びをしたら架線に当たって…うーん。
まあ座ってたら大丈夫…だと思うけど…
やはり巨人族用の車両を作る必要があるのだろうか。
その場合は何ならレールからかもしれん。
レールには広軌狭軌と言う言葉があって、簡単にいうとレールの幅が違う。
世界で初めて実用化された英国の鉄道の軌間は1435mmで標準軌と呼ばれる。
これより広いのが広軌で狭いのが狭軌だ。
日本だと1067mmが多く、新幹線では1435mmも使われている…んだったかな。
広い方が安定がよく、傾斜にも強い。巨人族を乗せるとなると高さが必要なのでなおさらバランスが崩れやすい…はず。ふつうに考えりゃレール幅が広い方がいい、と思うんだけどな。
俺は一応その辺を考えて標準軌を使った。
200kmを超える速度で運行する新幹線でも採用されているのだし…特に問題は無いと思うがどうなんだろ。高さが変わるとまた違うのかも。よくわからんなあ。
この辺は物理の問題になるから計算すれば答えは導き出せることなんだろうけど、その辺のリーマンだった俺に物理の計算は色々厳しい。
教え子に期待しよう。
なお、標準軌だとは言っているが、あくまで名ばかりの目測に毛が生えた寸法だというのは納得してもらいたい。
大体140~150cmくらいってことだ。
うーん、このサイズ!って決めた棒と全く同じサイズの鉄棒を何個も作り、その大きさで幅を調節しているに過ぎない。だからあっちから敷いてこっちから敷いてって場合に最後の合体の時にズレてたりするかもしれない。と言うかたぶんズレる。それが多少ならどうって事ないから別にいいが。
そんな事を師匠にさらっと説明。
これからヴェルケーロからと大魔王城から、2方向からかなり広い範囲に線路を敷く。
途中でユグドラシルやベラさん方面にも敷設する予定ではあるが、あっちはたぶん鉄材が無いからに方向からってのは厳しいかもな。ヴェルケーロはガクさんの所ほどではないがそこそこ鉄があるからまあ…たぶん足りるだろう。
基準になる棒は鉄製で、数もいっぱい作ったから特に問題にはならないと思うが…まあ所詮道具は道具。
使うのは人間だからな。ちゃんと使わなかったりしたらどうなるかはわかりきっているのだ。
そして蒸気機関の事を魔王城の皆の前で話したのちに飯の時間になった。
飯は師匠と俺とアシュレイの3人で食べる。給仕のメイドはいるが、そちらは顔なじみもいいところのカティアさんだ。
「シュゲイムたちは無事に食糧支援を完了させたようです」
「そうか、まずは一段階目というところだな」
「…本当に略奪に等来るのか?来なければそれでいいというのも分かるが」
二人とも今回の策については軽く説明してある。
まあ俺も何となく支援してもいいんじゃないかって手紙を書いて、それからよく考えたら『こりゃやべえ事したかな』…って気が付いたのだ。
「略奪に来なきゃ来ないでいい。シュゲイムたちの人気取りになるからな。…でもあっちに火種が起きなければこっちが危ないと思う。人間同士の小競り合いしてる暇ねえって事になるからな。」
「なるほどな」
「良く考えられたいやらしい策だ。カイトの性格の悪さが出ているな」
「そんなに褒めるな」
俺も何となくでやったんだ。
支援できる範囲はした方が人気取りになるな。でもあんまりやりすぎると揉めるかも…ってくらいだったのだが。
アシュレイは魔族の中でもかなり血統のいいほう。
力こそ全てよ!って考え方の古い時代の魔族に近い考え方のところもあるので迂遠な手はあまり好まない。もっと直接的な方法がお好みなのだ。
「いいじゃん。シュゲイムたちにしてみたら残してきた民の事も気になるだろうし。かなり奴隷にして連れ去られたみたいだけど、残ってる奴も多いみたいだぜ。」
「奴隷か…人間は人間同士でも奴隷にするのか」
「そりゃそうだ。魔族は…魔族は奴隷制は無いのか」
魔族は奴隷を作ったりしない。
ハッキリと力の上下がある以上、大して意味がないのだ。
力が強い方がえらい、という原始時代のような理論を脈々と受け継いでいるので身分やら何やらは大した問題ではない。師匠が敬われているのも大魔王様の直系であると同時に、師匠自身が直系にふさわしい魔力の持ち主だからだ。
「そう考えると人間が身分や奴隷やらってするのはなまじ個人のもつ力が近いからか…なるほどなあ」
深い。
世の真実を見てしまった気分だ。
だからってどうにも出来ることではないが。
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