第254話 ゴンゾに丸投げ②
アーク歴1507年 玖の月
アークトゥルス魔王領
今年の収穫はぼちぼちと言った所だった。
何故良好ではないかというと。
やはりというべきか、今年も寒かった。
どうやら人間界にあるメラク山脈の火山が大噴火したらしいのだ。
その火山灰の作用で世界全体の気温が下がったらしい。
詳しい事は良く解らんが火山と聞いて俺は納得した。
火山の噴火も程度によるが、大規模なものになると地球規模で気温が下がるという。
日本の火山の噴火や太平洋の火山がヨーロッパのどこやらの革命の引き金になったとかならなかったとか。はるか遠くで噴火が起きてそれが原因とみられる冷夏で米が不作になったとか。そんな話があちこちに残っているのだ。
「そのメラク山脈?ってでかい山なのか?」
「人間界のど真ん中にある大きな山々です。魔王城の周囲にあるレグルス火山やヴェルケーロ火山よりかなり大きいようで」
「ほーん?」
マリアの報告を聞いているがピンと来ない。
呻っていると、アークトゥルス城筆頭執事のランドさんが地図を出して教えてくれた。
「こちらでございますカイト様」
「ありがと、ランドさん。」
「いえいえ…これしきの事で礼など申されますな」
お礼はいらないって事か。まあいいか。
ランドさんはマークスと違って要らない事を言わない。でも言ってほしい助言みたいなのもない。気を使ってくれているのだろうとは思うが…
「何年か冷夏は続くかもなあ。魔界全体には収穫はどうだったのだろう」
「今年は全土で冷夏対策を取っておりますので、収穫は昨年より良く、ほぼ例年並みのようです。」
「そうか…人間界は?」
「少し、いえ…北部の方は厳しいようです。旧エルトリッヒ地方はかなり厳しいと連絡がありました」
「ふうむ…こういうニュースをパッと見れる媒体が…テレビ…ああ、新聞が欲しいな。」
現代日本では売り上げが下降一直線の新聞だが、まだまだメディアとしての力は有している。
やはり、活字はテレビやネットの動画で見るより伝えられる事柄が多い。
ただし、動画で見たほうが事故現場などの現状がよく伝わるということもある。
一長一短だ。
俺が思うに薄く広く知るには新聞などの活字でサーっと見たほうがいい。
そしてさらに深く知ろうとすれば関連する動画を探すなり、さらに詳しく情報が載っている書籍を探すなりすればよい。というわけで…
「というわけでゴンゾよ、印刷だ」
「またですか坊ちゃん」
「今度は簡単だ。こうやって字を書いて、んで刻む」
木魔法でハンコを再現する。
アカの似顔絵と『ア』『カ』という二文字だ。
反転する事をすっかりすっかり忘れて字が反対になるところまでがワンセットだが。
「間違った」
「印章ですな。これが何か?」
「ハンコはあったっけ。これをだな…こうか?こうやって」
『ゴ』『ン』『ゾ』『お』『ね』『が』『い』
「何を…というのは無粋ですな。成程、文字を組み合わせるのですか…これで完成でいいですじゃろ?」
「木だとすぐにダメになる。持って何百枚だろう」
「それで十分ですじゃ?」
「でも何万枚という数を刷ることになる。しっかりした金属で彫ってほしい」
「何万枚も…?」
驚いた顔のゴンゾ。
まあ実際、木製でパーっと作ったやつでも何十枚程度なら全く問題ない。
少々痛むだろうし、一枚目と最後を比べると誤差はあるかもしれん。でも所詮は新聞だぞ。よめりゃいい。
だが、何百、何千枚と刷っていくと、だんだんと木が痛んでくるのだ。
すると当然文字が悪くなって最悪読めなくなる。
そんなこんなを説明。
「同じ文字を何度か使うこともあるから…このハンコのようなものを何百という数作ってもらう事になるな。勿論だが、多く使う文字を多く彫って、あまり使わん文字は少なめでいい。」
「はあ…それはわかりますじゃ。で、何を作るのです?」
「新聞でも本でも、何でも作れる。子供向けの絵本でもいい」
「はぁ…」
どういった目的で使うかを何となく説明。
新聞は情報収集したものを印刷してたくさん売ることだとザーッと説明した。
ああ、見出し用に大きな文字も必要になるな。すごく小さいのもまあほしい。
わかったか?
「…まあもう一つよくわからんだろうと思うが、これも一つの産業になると思う。だから上手く彫れるやつ、うまく刷れるやつを…育てて?」
「そうですな…」
ゴンゾにお願いをすればすぐに言うことを聞いてくれる。
打てば響くという奴だろうか。
マリアとマークスと連絡を取って、卒業生のうち器用で口の堅いのを何人か集めてくれたようだ。
どうも、少し勘違いがあるようだが…まあそれはそれでいい。いつか機密情報も扱うかもしれんし??
頼んだぞ、ゴンゾ。
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ゴンゾちゃん過労死しそう回その2でした
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