第248話 蒸気機関車で行こう!①


アーク歴1507年 壱の月


アークトゥルス魔王領


「「「おめでとうございます」」」

「おめでと~」


アークトゥルス魔王領であいさつを受ける。

ヴェルケーロ領の者も飛竜に乗ってわざわざ挨拶にここまで来ているようだ。


飛竜牧場は順調のようで今年も何十という数の飛竜が誕生したと。

そして調教も順調に進んでいるらしい。素晴らしいね。


んで大きくなった飛竜に乗って旅をする…あれ?鉄道いらないんじゃね?ってふと思ったけど、まあそうでもない。あれだけ飛行機が飛びまくってる現代社会でも、航空機よりはるかに多くの列車が通っているのだ。


これから作ろうかというものは電車ではなく蒸気機関車だ。

電車に至るにはまだまだはるかに遠い道のりが…あると思うが何が必要なのかわからない。

電気は当然としてエンジン…じゃなくモーターか。


そもそもガソリンエンジンの事なら多少分かるが、モーターの事なんてミニ四駆くらいしかわからない。

針金をぐるぐる巻いたコイルがどうにかなってて電気を回すと軸が回転して…?だめだ。とても実用化できそうな技術を口では説明できない。学校で教えながら研究してもらわないと…


現代社会で使われている技術はこんなのばっかりだ。

パソコンやスマホの中身なんてさっぱり分からん。メモリが、ハードディスクが、CPUが、グラボが、ディスプレイが…なんて言っているが、どうやったらそれらを開発できるか?それぞれの仕組みは?

…俺にわかるわけない。


俺のような素人でもなんとなくわかるのは産業革命あたりで作られた品々、それとふんわりぼんやりした機械の仕組み、それから一般的な家電の仕組み程度だ。あとは技術者たちが試行錯誤を繰り返しながら開発してもらうしかないのだ。


「…というわけでこれが蒸気機関車と線路だ」


蒸気機関自体はヴェルケーロにいた時にある程度完成までもっていっていた。

要するにお湯を沸かして湯気の力でギアを回転させ、それをシャフトに伝達して車輪を回すのだ。

最初のきっかけを何でやっているか、回すのが何か、そこで得たエネルギーをどう使うかの違いだけでやってることは発電所も電車も車も同じような物だ。


叔母上やアシュレイたちアークトゥルス領に暮らしている者たちは『またなんかおかしなものを作ってるな』って何回か見に来ていた。

でも詳しい説明はしなかったから俺が作っている物を見ても首を傾げるだけだった。

後で説明するからって言ってたからか、質問攻めにしたりすることはなかったが。


最初は城の中庭にでも組み立てようかと思ったがさすがに大規模になりすぎる。

なので駅舎予定地を作り、そこで工場も作った。

工場を作るところからスタートなので時間はめちゃくちゃかかるかと思ったが、ゴンゾが旋盤で遊んでいる間に建築慣れしている大工連中はあっさりと工場を建て、さらには駅舎まで作ってしまった。


と言っても駅舎はものすごく小さいド田舎の駅そのもののイメージで問題ない。

具体的に言うと単線で駅員もいないような令和じゃ考えられないような無人駅のイメージである。

もっと大きく拡大できるように、余地を残した駅舎にしてはいるが。


だが、余地を残しているとはいっても、もしこのまま発展して東京駅や京都駅のように何十本もの路線を通すようになると間違いなくスペース不足になる。


まあ、実際に現代日本の路線は数え切れないほど入り組んでいるし、あんな風になるかもしれないから城からは少し離れた所に駅を作ってあるが…まあそんな遠い未来のことは俺が知ったことではない。


あ、いや、そうじゃなかった。

俺らは寿命が長いのか。


それに最初の計画がまずいんじゃないのって言われることになるな。

後の鉄オタにカイトはアホだからスペース不足になったんだとか。俺の爺さんはバカイトのせいで嫌々立ち退かされたとか…ありそう。


前言撤回。俺が知ってなきゃいけないことではある。

悪いがその際にはあちこち立ち退いてもらうことになるだろう。

言うて徒歩10分もかからないところだが。


「これが動くのか…?冗談だろ?」

「動く。動く…はずだ。試運転は済んだんだろ?」

「勿論ですじゃ。試作は3号まで作りましたがどれも自重程度は軽く。一度動き始めれば〝レール"のおかげですいすい進むですじゃ。」

「おう…楽しみだな」


まあまだレールは1km程しかできていないが。

測量は今やってる。

今やってるという表現にしかならない。

測量に使う器具も作った。



ゴンゾが旋盤を作りまくったのだ。

旋盤を作るために旋盤を作り、制度の上がった旋盤で旋盤を…さらに…と、作りまくった。

ようやくゴンゾが飽きた頃にそれで出来る精密な機械は何だろうという話になって測量器具を作ることになった。

測量器具は角度が少しずれただけで結果が全く変わってきてしまう。という訳で精密な器具が必要になるわけだが…使うのは素人だ。習うより慣れろの精神で測りながら勉強している。


だから最初の方はかなり適当になっているはず。

結局現場で働く職人はその数字を参考にはするが参考程度にしないという微妙な結果になった。

まあ今後、いろんな用途に使える。大きな建物を作る時なんかは今は職人のカン…と言えば聞こえがいいが、大体は大雑把に作って後でちょっと足したり削ったりで誤魔化す。おかげでそこだけ強度が…なんてことになるが、測量してキッチリ作ればそう言う事は減る、はず。たぶん。

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