第245話 内政はじめました①
アーク歴1506年 捌の月
アークトゥルス魔王領
領が大きくなればやることも多くなる。
ヴェルケーロ領の事はもう完全にマークスに丸投げした。
今までもほぼほぼ丸投げだったが、先日フラッと帰った時にもうお前の好きにしろ。
もうお前が領主だから、好きなようにしろの一言で100%投げた。
だってもう両方見るなんて無理なんだよね。
マークスは嬉しがってくれるかと言えば全くそんなこともなく。
今年中に後進を育てて俺の執事に戻ると言っていた。無理だろ?
奴が言うにはリヒタール家の執事であることに誇りがあるとかで領主なんてどうでも良いのだと。
そう言われるとうれしいような何とも言えないような。
師匠は大魔王領に戻った。
立場的にかなり忙しいらしい。
どうやら大魔王城には大魔王様の作った解読不能な結界があり、これに定期的に、かなり大量に魔力を送らないと魔界中のモンスターがものすごい量で出現する?らしい。
ダンジョンもスタンピードを起こしやすくなるとかで。
とにかく大魔王様が生きていた間は魔力を注いでくれていたらしいが、今は師匠とドレーヌ公爵のような高位魔族が何人かで交代でその役目を担っているのだと。
だから俺にもそのうちやれと…ハイ。
「帰ったぞー」
「かえったぞー!」
「おう、お帰り」
アシュレイとアカはすっかり仲良くなって一緒にダンジョンに通ってレベル上げをしている。
アシュレイは20層までクリアしてたからそこからレベル上げのやり直し…って訳でもない。普通にレベル上げ兼攻略だな。
まだまだレベル的には大したことは無い。
確かにアシュレイは魔王の種を喪ったようだ。
だが、魔王の種なんてものは無くても公式が認めるクソチート主人公様の片鱗をすでに発揮しており…その豊富なギフトのおかげでステータスは倍々ゲームになってきているらしい。
どうせアッと言う間に俺の手の届かない所へ行ってしまうだろう。
まあ俺はそれでいい。
領地を富ませることが出来れば自分に帰ってくるんだからノンビリ内政を強化すればいいのだ。
嫁が強くて困るのは…まあ喧嘩の時くらいだ。
変な心配しなくていい分、強いに越したことはない。
これからの方針として、まずは内政を強化する。
軍事よりも何よりも内政である。
その内政の基本は第一次産業だ。
衣食住、その3つが成り立ってナンボである。
そしてその為に重要なのが健康。
やはり健康第一なのだ。
健康について教育されていればいざ戦って時にも怪我や病気が悪化しづらいだろう。
当然、食事の改善は第一である。バランスよく食品を選び、良く噛んで食べる。好き嫌いをしない。
小学生に言うような事だが、現実的に中世でバランスよく選べるほど食品があるという事自体まずない。
日本の農民なんて1日2食、大根の葉っぱと漬物に麦飯くらいしか無かった。それだけあれば上等だ。
作った米はほぼ全部年貢で持っていかれ、稗や粟をメインに、麦が有ればいい方。
味噌汁なんてそもそも味噌が手に入らん。塩が有ればいい。薄味で具材が行方不明のうす~い雑炊?鍋?…みたいなのを毎日食ってたと思われる。
ある程度時代が進んでもそこら辺は大差ない。
少しづつ改善されてはいったが、戦後になってようやく色々と食べられる時代が来た。
一般人が裕福にバランスの良い食事が出来る、なんてのは先進国でもここ何十年の間だけだ。
人類の歴史はドングリ食ったり狩猟した獲物を生焼けで食ってた時代の方がはるかに長い事を忘れてはいけない(戒め
だが、当然そんな食事をして他者より大きく、強く育つなんて不可能だ。
だから上流階級である武士や騎士はメシをしっかり食った。今から考えりゃ大した栄養のある物じゃないとは思うが、それでも平民よりは体は大きかったようだ。
大きくて強い奴が大きくて強い奴の娘と結婚して子供を作る。
そしてその子供も大きくて強くなり、別の大きくて強いのの子供と子を作る。
これぞサラブレッドだ。割と理に適ってるなとは思う。
食料については出来るだけ増産する。と言っても出来ることは限られている。
新しく農機具を作って配り、入手した種や苗をやる気のある奴らに売る。
税以外にも余った収穫物は積極的に領主側が買い取り、加工して売る。あるいは備蓄する。
牛や豚もどんどん増やす。牧場も拡張しまくる。
この方針を打ち出した時、まず場所が無いとかそんなに急に結果は出ないとかいう奴がいた。
そういう奴はチェックしておいて、サボるなら即降格。
駄目なら警告を挟んで最後は首だ。
さらに文句を言うなら物理的に首にする。
これからやり方変えて頑張ろうって時に頑張れない、やる気のない奴は容赦なく切る。
たとえそれが偉い血筋の何とかさんであってもだ。
まあそうやって打ちだしてはっきり表明してもアホはいたから何人か首になってもらった(物理
次に改革したのは公衆衛生についてだ。
具体的には風呂とトイレ。
上下水道がぐちゃぐちゃだとウンコを食っているような物だ。
そりゃ体調を崩しやすいのも当然である。
井戸のすぐ裏にトイレがある所もある。
ウンコ汁がにじんで井戸水に入るのだ。気分は最悪だし、実際に細菌も混じるだろう。そういうのは発見次第井戸を封鎖して離れた場所に掘り直させた。
ありえんわ。
トイレは残念ながらしっかりした下水道なんてものは程遠い。
汲み取り式で溜めて、それから肥料にするかあるいは火薬の原料にするか。でもヴェルケーロの時とは規模が違う。
10万を超える人間の出すウ〇コをどう処理すればいいのか。
埋める、海に流す、どうにか加工する…
まあ堆肥作りに利用するのがまだ一番即効性があってマシだろう。
江戸だとウン〇を買い取って畑にまいていたらしい。
当時の世界の状況から見ればすげえことだと思うが、柄杓ですくって天秤棒で担いで…と思うともっと凄い。当時の彼らにバキュームカーをプレゼントしてあげたい。
まあ真面目な話、どこかに集めて微生物くんに頑張って分解してもらって水を流すくらいしかしょうがないんじゃないか。つーか今までどうしてたんだ?
そして風呂。
公衆浴場を作った。正しくは数をかなり増やした。
ヴェルケーロの時の様に温泉を作ろうと思ったが温泉はどこにでも沸いてこない。
じゃあって事でとりあえずボイラー式の循環して温めるお風呂を作った。水流をどうこうする機構はほぼ人力だ。
バイトを雇って自転車を回す要領でペダルをこぐと配管内のスクリューが回って水流が起こるというシステムを作ってみたが…思ったよりバイトの疲労が酷い。
どうにか改善しないとな。
「暑いから飯食ったらプールいこうぜ」
「恥ずかしいから嫌だ。何だあの破廉恥な格好は」
「おれだって裸にパンツだぞ」
「男は元々そんなもんだろう」
こちらに来て初めに作ったレジャー施設は劇場だが、2番目にはプールを作った。
公衆浴場を作って、このやり方で流れるプールを作ればいいなと思った。
ああ、プールか。今の季節にぴったりじゃん…と思ったのが先月の事。
突貫に次ぐ突貫工事だったが、この世界の魔法は本当に便利だ。
水を通さない土壁くらいなんてこたあねえぜ!って感じでモリモリ穴をあけて土壁を岩のように加工し、水を流した。そこをひっかいても蹴っても全く水が汚れることは無い。うーむ。
だが問題は水に入る格好である。
男はまあ、裸マントが人権を得ている世界なので特に問題は無い。
女は…ビキニアーマーの人とかいるくらいだし別にいいんじゃないかと思うが、ビキニを着てプールに入るのは破廉恥極まりないと認識されている。
うぬ、解せぬ。
派手な格好も肌も出し放題って状態なのに何でプールに入るのはダメなのか…良く解らないが駄目らしい。しょうがないから城の中庭にプール作ってこっそり夜にでも入ろう。ナイトプールって奴だ。
最早エロスの香りしかしない。勿論プールで盛り上がったらその後は…
「何を馬鹿なことを考えておるのだ。破廉恥極まりない」
「そうは言っても期待しているアシュレイであった。」
「こ…この馬鹿!」
「ぶべらっ!」
バゴン!と俺を思い切り殴り、顔を真っ赤にしたアシュレイは足早に去っていった。
クソ痛い。
アイツまだレベル100にもなってないはずなのにこのダメージよ。
やはりレベルなんてものは本質的な強さには全く関係ないのだ。と思わせるに十分な一撃だった。
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