第244話 魔王就任パレード
アーク歴1506年 漆の月
アークトゥルス魔王領
「どうも、色々あって魔王に成りました。カイト・リヒタールです」
「妻のアシュレイです。えへへ」
アークトゥルス城で就任のご挨拶をする。
挨拶をする相手は城内の官僚であり、城下の住民でもある。
割とフランクな城で…というか防犯上明らかに良くないと思うのだが、城下の民も城内の庭までは立ち入りを許可されている。
小さい頃のアシュレイも俺も城下にフラフラ出て買い食いしたり、そこらの子供と追いかけっこをしたり…うん、色々危ないな。良い所も沢山あるが悪い所も沢山ある。
魔王が毒殺されたのに危機感が全くない。
この辺が魔族の良い所であり悪い所でもある。
あれ以降食べ物については特に気を配るようになったし、伯母上は対毒性能の高いお守りを常備しているようだが…俺も迷宮でそういうの見つけないとな。
とまあ、それはアッチに置いといて。
魔王就任と結婚については民に向けて発表することになる。
テレビでもあれば便利なのだがそうもいかない。
ってなわけでパレードみたいなことをする事になった。
二人は豪華な馬車で、それと騎士団が徒歩や騎乗で。
警備隊が道々に立ち…まあかなり大仰なパレードだ。
パレード自体は新魔王の就任や結婚の時には必ず行うみたいで、今回は結婚と魔王就任と両方のパレードを一緒にやることになった。
普段通りに2回やれとの声もあったが一応今は戦時下なのでそれもどうか、って話になって1回で終わらせることに。
モリモリのキンキラキンに飾るかと言えばそうでも無い。
白を基調としたアシュレイのドレスは妹であるアフェリスが織った物だ。
ヴェルケーロで織ったのとはまた別の品らしく、今作はユグドラシル産のシルクらしい。
へー?そういやちょっと違うか。
俺の方も正装である。
男の正装と言えば裸マントだッ…という意見もあった。
恐ろしい事にその意見もあったのだ。割と大きな声で。
だが、前アークトゥルス魔王…つまり叔父上が着ていた衣装を着させてもらう事になった。
なんというかウエットスーツに肩飾りとマントを付けたような衣装だ。
良かったわカボチャパンツにタイツとか、変な衣装じゃなくて。
ウエットスーツもたいがい微妙だがまあこれくらいならね。
おまけに叔父上の身長は今の俺とそう大差ない(魔界基準)ようで、直しも簡単だったようだし。
打ち合わせで俺たちの乗った馬車を引くのはいつの間にか足が6本に増えたディープが。
空からはアカがぐるぐる上を回って警戒する案があったが…大丈夫か?あいつ空中でう○こしたりしないだろうか。そんな心配があるのでアカは小さくなって馬車に乗せることにした。
だが、小さくてもドラゴン。
俺もアシュレイも全く怖くないが、威圧感が凄いらしい。
住人が泣き出すようなら引っ込めよう。
パレードをしていると知った顔がいくつもある。
領民たちの中には俺らがガキンチョの頃に走り回ってた時に店をやってたり警備してたり、一緒に遊んでいたような連中が沢山いる。みんな手を振ったり声を掛けたりしてくれている。
領民たちはアシュレイが死んでいたことをもちろん知っているし、俺が生き返らせたことも知っているようだ。
…何で知ってるかというと伯母上やマリア達が吟遊詩人をやっている者を沢山雇ってお芝居にしたり歌を作ったりしたのだ。
つまりはヴェルケーロ領でやってたあの恥ずかしいお芝居をこっちでも再演したのだ。
突貫で作った劇場、その演目は今のところ『カイト・リヒタールの華麗なる歩み』の1演目のみ。
つまり毎日2回俺の話ばっかりエンドレスにやってるらしい。止めろよマジで…
俺たちも伯母上に引きずられて観に行った。
新しく作った劇場の視察だから!と無理矢理引っ張られていった先には見たことのある俳優陣、見たことのある舞台内容で…つまり、前に見たそのまんまのが演じられていた。
変わったのはアシュレイを取り戻し、キスをして暗幕が降り。そして舞台が変わって伯母上に認められて魔王に就任するというくだりが追加されたところか。そこら辺は伯母上監修らしい。
ダンジョンでの死闘、アシュレイを取り戻し感動の再会のシーンにみんな涙し。キスをして意味深に暗幕が降りた時にはいろんな悲鳴が巻き起こった。
俺もそんな演出するなよ!って叫びたくなったが、何とか両手で顔を覆って我慢した。そんな微妙な思い出がこの劇場の前を通るといつも蘇る。
「どうした?手が止まっているぞ」
「…いや、劇場を見てあの芝居の事を思い出した」
沿道で手を振ってくれている民衆に慌てて手を振り直す。
横を見ると今度はアシュレイの手が止まった
「…どうした?」
「あの芝居は…追加部分は上演させなくとも良いのではないか…」
アシュレイはプルプルと真っ赤になりながら震える。
この後めちゃくちゃ○○した!みたいな演出ホントに必要だった?
って思いなんだろうな。わかる。
まあ実際やったんだけど…それでもな!?
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