第243話 一騎打ち

3人の魔王と戦う事になった。

だが、いつどこで戦うか。なんて話は特に決まらなかった。


やる気になったからヤル。らしい。

もうこいつらどんだけ戦闘民族なんだ


「それでは参りましょうか、カイト殿」

「はい。いつでもどうぞ」


という訳で俺は伯母上と戦う事になった。

この3人の中じゃ一番格下だと自分で言っているし、当然弱い順に戦うのだと。


何故か良く解らないが魔族で決闘と言えばそうなっているのだ。もう意味わからん風習が多すぎる。

アンリトンルールのような物が多すぎるのだ。

点差が開いたら盗塁しちゃダメとか、3-0から打っちゃダメとか??ガッツポーズしちゃだめとか?いつでも全力で、いつ逆転されるか分からない甲子園仕込みの日本の野球とは違う…ってそれはどうでもいいか。

まあ、そういう風習が魔族社会にもあるらしい。


裸マントが正装でまかり通る世界にルールなんて有って無いようなものだと思うのだが、細かい所でそういうの守れないと『あの方は洛外の方であらしゃいますから(ヒソヒソ』…みたいな感じになる。

やーねえ。これだからお貴族様は嫌らしいってんだ。




お城の闘技城に着いた。

観客は城内にいた武将や兵、それにメイドさんや執事たちだ。


「女王様頑張ってくだせえ~」

「うおおおお!女王様あああ!」

「女王様カッコいいですー!」


などと男女問わず人気の伯母上。

まあまだ若くて見目麗しい女性である。

心なしか、というかかなり野太い声での声援が多いがそれは仕方あるまい。


「カイトちゃーん!がんばってー!」

「カイトくーん!こっち向いて~」


どっちかというとアウェイだが、俺にも声援がある。

しかも伯母上とは違う、黄色い声援という奴である。


「でへへ」

「何を鼻の下を伸ばしておるのだ」

「いででで!」


アシュレイにギュッと鼻を摘ままれる。

アシュレイと言えばこいつは俺たちが頂上会議みたいな事をやってる間に城内と城外の皆に挨拶して回ったらしい。


みんな、10年も会ってなかったかのように歓迎してくれたと。

いやまあ、生きてる人間基準だと実際10年近く会ってなかったかったのだ。

アシュレイの中では1週間ぶり程度のものだが。


「うおおお!アシュレイ様ああ!」

「やっぱりかわいい」「守りたい、あの笑顔」「カイト許さんぞ!」


アシュレイも戦う訳でもないのに応援されてる。

何だか覇王というよりただのアイドルである。

まあ良いんだけど…なんだか力が抜けるな。


「それでは始め!」


ベラさんの掛け声で俺はいつものように爪切り短剣を出す。

もうすっかり体に馴染んだ。これが無いと落ち着か…無くはない。落ち着くわ、普通に。


「せい!!」


伯母上が矢を放つも軽く切り落とす。


「トリプルストレイフィング!アロー・ライトニング!シャイニング・レイ!」


三連矢を切り払うと次には雷属性、そして追撃にはムチムチダークエルフの癖に光属性の魔法を撃ってくる。


「甘いですよ!パワーアロー・ダブル!アローストーム!」


それらを切り払い、さらに放たれた矢をパワーアローで押し返し、いつもの様に矢の嵐で拘束を狙う。


「テレポート!」


当然大人しく拘束されない。

何と伯母上は近距離転移テレポートで俺の後ろに回り込む。


「おっと!」

「あら残念。」


伯母上はそのまま矢斬りを放つが身を捻り、半回転したところで追撃をバックステップでかわす。

そしてそれからは近距離戦に移行。

どういう理屈か分からないが、矢も弓も近距離で短剣や盾と撃ち合っても何ともない。

だが俺も近距離戦闘は師匠に仕込まれているし、普段からロッソやマークスと散々に打ち合っていた。


「そこ!」


早々負けるものではない。

最後は足払いで蹴り倒し、馬乗りになって喉に短剣を当てた


「ふう、参りました。」

「はい、良い勝負でした。」


伯母上に手を差し出して引き起こす。

起こしてそのまま握手をすると会場からは万雷の拍手があがった。


短い戦いだったと思うが見る者が見ればよい戦いだったようだ。


「伯母上、手加減したでしょ」

「まあ少しね。でも手加減しなくても負けてたんじゃないかなあ」

「ホントかよ…」

「本当よ。カイトちゃんだって全力じゃなかったでしょ?」

「む」


言われてみるとそれはそうだ。

殺す気なんてなかったしな…

そう言われるとしょうがない。


ベラさんとガクさんの二人は、技量の高さが分かる良い戦いだった。

対戦できる日を楽しみにしている、と言い残して去っていった。

まあこれでとりあえず解決か?

てかそもそも何が解決なんだっけ?俺は復活したアシュレイの顔見せに来ただけだった気がするが…


「よし、ではこれよりアークトゥルス魔王の位をカイトに譲りましょう。なに、いずれ遅かれ早かれこうなっていたのですからね」

「…はい?」

「アシュレイに王位を譲ってカイトが王配でも良いかとおもっていましたが、まあ大魔王になろうというものがそれでは格好もつかないでしょう。いずれアシュレイに譲るにしてもまずはカイトが王になりなさい。解りましたね?」

「…はい」


そして俺はヴェルケーロ領主のカイト・リヒタール伯爵から爵位を何段階かスッ飛ばしてアークトゥルス魔王の座を引き継ぐことになった。


「良かったではないか。これで次は大魔王だな…」

「まだいくつかステップあると思いますけど」

「そうだったか?いずれお前は…ゴホ…すまん。」

「大丈夫ですか」

「ああ…問題はない」


相変わらず体調が悪そうな師匠。

皆が心配しているが、師匠は気にしなくていい。

それよりどうせこの位も腰掛けに過ぎぬのだから満足せずに精進しろと…はあ。


「まあソレは分かりましたが、仕事の引継ぎなんかは協力してもらいますよ」

「勿論。この領も、ヴェルケーロのようにあなたの手でに栄えさせてほしいわ」

「うーん、これだけ人がいれば十分なんじゃないですかねえ…」


ヴェルケーロ領はド田舎の僻地だった。

そこに一気に人が流れ込み、開発が進んだ。


人が増えれば消費する水や食料は勿論、家も職場もお店も…鍬に鎌、コップやスプーンに至るまでありとあらゆる物が必要になる。

そうするとそれを売る人は儲かり、儲かった金で別の物を買い…とまあ経済がぐるぐるグルグル回ってお金が儲かる。そのグルグルの間で少しずつアガリをカスリ取っていくのがヤクザ…じゃない、領主だ。


という訳で経済を回すと領民も、領主も嬉しい。そしてもちろんそこに来ている取引相手も嬉しい。三方良しである。


一方でアークトゥルス領のようにある程度完成している領地はどうか。

肥料、土壌の改良、作物の改良などで収穫物の量を増やすことは可能だろう。

でも開発する土地が足りないからそれもある程度の所までだ。

どうしてもと思えば領都から離れた土地に新たな土地を開拓、衛星都市を作るだとかしなければ…そうしたら移動、輸送に時間が…うーん…

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