第220話 戦線復帰

アーク歴1506年 壱の月


ヴェルケーロ領上空



アカはまた成長した。

大きくなって飛行もスムーズになったのだ。

安定感もすごいし、心なしか速度も上がったように思う。

パラシュートを必死に作って大魔王様に笑われていた頃が嘘のようだ。


リヒタールに向かう前、領地や境界になっている山々を上から見降ろしててみたが、敵はすっかり引いたようだ。

山の方を上空から見てもまとまった軍勢は全く見当たらない。

何人単位なら木の陰なんかに隠れることはできるが、数百とかそれ以上だとどうやっても目立つ。

さすがにそんなに大量に隠れられるような木陰もアイテムも無いのだ。


という訳で領地の方は部下に任せて俺はリヒタールをみにいく。

マークスを拾いに行かなければいけないしね。


「アッチも無事だといいけど」

「問題ないだろ?」

「だといいけどなー。それにしても大きくなって立派になったな。もう鞍でも何でも付け放題だなあ」

「俺あれきらーい」


乗ってる方は鞍がないと安定が悪くてしょうがないんだけど、まあ付けられる方は窮屈なんだろうな。


そして飛ぶこと何時間か。途中で一回休憩して暖を取り、やっと戦場の上空に来た。


飛び交う飛竜と天馬たち。

そして地上では砲の撃ち合いが…地上も空中も、大砲の数がかなり減ったような気がするが状況は大差ない。


「うーん?変わってないかな…?」

「そのようだな。じゃあ一発ブレスどーんして降りようぜ」

「おー!がおおおお!」


敵陣に向けてブレスどーん…なんだけど、以前のと比べてはるかに大きな火球。

そして着弾からの大爆発。


「えええ?」

「がはは!俺さいきょー!」

「せやな…」


その威力に軽く引きながらリヒタールに降りた。

降りた所は領主館の目の前。ぶっちゃけると俺が裏森に畑を作っていたところだ。

今やここも畑じゃなくて兵舎のようなのが出来ている。

くそう、俺の畑…


戦時中ならあるあるなんだろうけど、そういうのはやめて欲しい。

折角俺が開拓したってのにさあ。

なんかもうさー!


プンプンしながら領主館へ。


領主館では伯母上とベラトリクス魔王に迎えられた。


「お帰りなさいカイトさん」

「何やら久しぶりな気がするな」

「戻りました。マークスは?」


二人は居るが、マークスの姿は見えない。

まさか怪我したとかじゃないだろうな


「マークス殿は昨日の夜番でしたので「今起きた所でございます」」

「うお!びっくりした!」


いきなり後ろから現れるマークス。

伯母上もベラさんもビックリした顔をしてる。

そういうの止めて欲しい。つーか止めろ、心臓に悪いから。


「マークス…まあいい。伯母上、敵の状況はどうですか?」

「あれから何度か攻勢はありましたが一進一退と言った所です。上手くこちらも士気を上げすぎないようには出来ています」

「そうですか。なら良かった。士気は下がるが一番駄目ですが、上がり過ぎてもロクな事ないですからね」


魔族の兵は士気が上がり過ぎると大暴れして見境が無くなる。

敵陣に突っ込んで罠にかかるくらいならまだ大した問題ではないが、下手すりゃケンカからの同士討ちを始めてしまうのだ。そんな事やってるから人族に負けるんだぞと言いたい。


「我々としても一息にやってしまいたいという気も無くも無いがな…それで、そちらはどうだった?」

「それがですね…」


俺は説明した。

ヴェルケーロは到着した時には陥落寸前だったこと。

それを見て何やら俺の中の魔王の種?が暴走したと思われること。

そのおかげで敵は引いて行った事。


「ああ、アレですか…」

「伯母上は分かるので?」

「分かるも何も、前回、いや前々回か。リヒタールが侵攻された時カイトさんは大暴れしたじゃないの。」

「そう、でしたね。」


あの時は、確か…そうか。

城門に子供の首が並べられていたのだったか。それで…




「やはり皆殺しにしましょう。許せませぬ」

「まって、落ち着いて?変な炎出てるわよ!?あの時蛮行をした者どもは私たちが追撃でほとんど討ち取りました。」

「…そうですか。」


怒りの余りに席を立つが伯母上に宥められた。

でもなあ、アレはなあ。

思い出したらムカムカしてきた。おのれ…


「だから落ち着きなさいって」


ピシリと額をはたかれる。

気が付いたら立ち上がっていたようだ。


イカンイカン。

そうだな、落ち着いて、明日あいつらぶっ殺そう。

どうやってぶっ殺すか考えないと。逃がさないためにもまずは後方に部隊を送り込むことを考えなとな。そして火か何かで封鎖して、袋のネズミにして後ろからパンパン打ちまくるとか。アカが上からドッカンドッカンするとか。


「駄目ですな。」

「はあ…」

「随分と激情家なところもあったのだな」


ベラさんはニヤニヤしながら見ている。

む、いかんな。イライラしすぎて危ない思考になっていたか。


「すみませんね…明日までには出来るだけ収めます」

「そうね、落ち着いて戦ってね」


ひと眠りすれば落ち着くだろう。たぶん。

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