第221話 再戦
翌日は快晴だった。
所謂戦日和ってやつだ。
俺は航空部隊とともに出撃することになった。
今回は指揮はギロンヌ殿に任せる。ずっと居たわけだしね。
こちらの出られる飛竜の数は最初の半分以下になっていた。
随分と削られているが、ギロンヌ殿に聞くとそれは相手も大差ないそうだ。
「マークス、お前も来たの?」
「久しぶりに坊ちゃんの戦いぶりを見せて頂こうかなと」
空を飛んでいるとマークスが追い付いて来た。
コイツも出陣するのか。
「大丈夫か?その飛竜疲れてない?」
「問題ありませぬ」
「ホントかよ」
マークスの乗っている飛竜はあちこち傷だらけで、俺から見ると疲労感が全身から溢れ出ている。ヘロヘロで助けて欲しいって顔に見える。
だけどマークスが喋る時、チラッと覗いた時はシャキン!としている。
すげーパワハラ喰らってるんじゃないか?心配になる。
けどまあ所詮は畜生だしまあ良いか。(ド畜生
「マークス殿はあちらの勇者の相手をしてくださっておりましたので」
「あー…グロードか。そうか」
俺が居ないことを知った敵の航空部隊は大攻勢をかけて来た。
だが、勇者グロード率いる部隊を止めたのはマークスとギロンヌ殿だ。
置いてった花火もうまく使ったようで、飛竜部隊は出撃できる人数は減ったが、飛竜も騎手も死んではいないと。うまく敵をあしらえたらしい。
以前にこちらの戦場に居たのがはるか昔に感じる。
体感で2週間くらいは経ってそうで…げふんげふん。
「あいつ強かった?」
「地上では負けるかもしれませぬ。ですが空ならば話が変わります」
「そう言うモンなのか?」
マークスは土属性の魔法を使う。
なら空中は不利だと思うのだが、まあそう単純なモノでもないらしい。
「見えましたな」
空中で会敵したペガサス部隊も前回みた半分くらいになっていた。
なるほど、消耗戦になっているのは間違いなさそうだ。
こういっては何だが、エリート中のエリートである飛竜部隊も天馬部隊も、替えが効かない。
乗り手と飛竜、天馬は一心同体だ。
アカだって俺以外を乗せるのは嫌がる。
マークスの飛竜だってあんなにパワハラを受けても尻尾は嬉しそうにしている。犬か。
「若、来ておりますぞ」
「ああ。アカ!デカいのかましてやれ!」
「まかせろ!がおおおおおん!!!」
今までとは比較にならない程大きな火球。
心なしか色もオレンジから青系統に見える。
それがすぐそこのアカの口から出たのに俺は全く熱くない。
不思議だなと思っているとその火球は空中に居る天馬部隊、そのど真ん中で爆発した。
何にも当たっていないのに爆発したのだ。なんで?
「がはは!たーまや~!」
「どうやったんだ今の!」
「何かできるようになってた!がはは!」
その後もポンポンと火球を吐いては任意の所で爆発させる。
今までは直撃さえしなければなんてことは無かったが、今日のは至近距離で爆発したら爆風で吹っ飛ばされる。それだけで即死という事はないが、衝撃波や熱風でまともに動けなくなる。
そこに飛竜部隊が突っ込んでいけば仕留められるし、そうじゃなくても数的有利が得られる。
「そこまでだ!待てい!」
と言った所で奴が来た。
ウッカリ名前を忘れそうになっていたが勇者グロードだ。
奴のグリフォンの蹴りをかわし、上空からアカが火球を。
火球はグリフォンの風魔法で曲げられ、爆発の爆風も風魔法で制御された。
「パワーアロー・クワトロブル!」
「なんの!」
俺はすかさず太く大きな矢を撃つが、それはグロードに受け流された。
「今度はこちらから行くぞ」
「甘い!ペネトレイトアロー!」
「避けろ!リシャウル!」
接近して振るってくる槍を盾で防ぎ、貫通矢を放つも紙一重で避けられた。
得られたのはマントにあいた穴だけだ。
強い、やはり一息に仕留めるなどできない。
でもこんなモンだったか?感はある。
前はもっと圧倒的だった。逃げるのにやっとだったのだ。
それが以前より全然戦える。
「貴様がまたこちらに来たという事は…ヴェルケーロ方面はどうなった?」
「報告は、聞いてるんじゃ、ないの!?」
戦いながらの会話だ。
舌をかみそう。
昔から思ってたけどよくアニメの主人公たちは戦いながら話が出来る。
歌いながら戦う作品なんて呼吸とかどうなってんだろう。全集中なのだろうか。それとも歌う事で呼吸も要らない体になっているのだろうか。
「そこ!ライトニングミサイル!」
「おっと!あぶね!アローストーム!」
「それは喰らわん!」
「アカ!」
「がおおん!」
周りを気にしていると突然猛烈な攻勢に出て来た。
雷魔法を盾で防ぎ、お返しに矢の嵐を放つも全く当たってくれそうにない。
範囲攻撃が良いとは思うがグリフォンの機動性が高すぎてよっぽどじゃないと当たらん。
だが、戦いながら魔法と火球をバラ撒く事で、少しづつグロードの表情に焦りが出て来た。
俺はよく見る暇がないが、後ろでは戦闘の音が少なくなっているようだ。
「ふふ、どうもマークスが頑張ってるみたいだな」
「くっ…」
「地上の方も拙いんじゃないの?」
チラリと見ると地上の方もこちらがかなり押しているようだ。
制空権を得た空軍から敵の陣地に向け、次々と花火が落とされている。
実際のところ花火に大した威力は無い。
そりゃ直撃すれば大やけどだし、衝撃も凄いが一人倒せるかどうかだ。
鉄球とかクギとか入れてたらどうかとは思うが、基本が花火玉だ。作った時にそういう発想がなかったからなあ。
そもそもが連絡用であったり城の対空防御用に作ったつもりだった。
実際その用途でもそこそこ役に立ったようだし、もし鉄球を入れていたとしたら自軍の頭の上に打ち上げた場合は味方の陣地に鉄球をぶちまけることになる。
何人怪我人が出るか、怪我で済めばいいなって話になる。
敵陣用と自陣防衛用とに分けても良かったが…作る時にそこまでやる発想も元気もなかった。
またそのうち元気な時に作って溜めておこう。
で、その火花が出て当たれば痛いだけ…の花火だがまあまあ効果はある。
大砲の近くや火薬がありそうなところを狙って落としているようで、今のところうまく火薬に誘爆させることは出来ていないが大砲の撃ち出しは止まっている。
一瞬で燃え尽きるしそんなに上手く着火できないとは思うけど、万一って事がある。敵も気が気じゃないだろう。
なーんて思ってたら『ドゴオオオン!』という音と共に敵陣後方の陣地からものすごい煙が。
「あらあ…火薬にうまく誘爆したみたいだな…」
「おほお!楽しそう!おれもやるぞ!ぎゃおおおおん!」
アカもあちこちに向けて火球をポイポイと放つ。
あっちこっちでドッカンドッカン、終いには敵陣はバラバラになった。
「…勝負あったなこれは」
「おのれ魔族どもめ…汚い手を使いおって…」
グロードはこちらを睨み付けながらも下の戦況を把握できているようだ。
「まだやんのか?」
「当たり前だ!」
「まあいいけど…お前、魔族どもとか言ってるけど。人族が侵攻してきてんだぞ?分かってんの?」
「貴様らの呪いのせいで作物が採れなくなったのだろうが!」
「……はあぁ???」
何言ってんだコイツは。
狙って凶作に出来るならそんなモン毎年凶作にしてれば兵士の人数も増やしようがなくなる。
だから戦争なんて起こす元気も体力も無くなる。
俺が狙って気候操れるなら敵側のところ毎年凶作にして反乱煽って逃げて来る農民受け入れまくるわ。そうすりゃ敵国は生産人口も減って戦いもままならなくなる。何もしなくても勝てちゃうぞ。
「あのなあ…狙って凶作に出来るなら何で今までやんなかったんだよ。毎年凶作にしてれば食いモン無くなるんだから戦争する元気なんて起きないだろ。狙って出来るなら今までにも何回でもやってるよ。誰がしょうもない嘘ついてるか知らんけど、少しは自分の頭で考えろ」
「そんな訳があるか!」
「だから、一回自分たちの頭で考えてみろって。お前らが魔族で圧倒的な力持ってて、人間が憎くてしょうがなかったらどうするかって。それでおまけに天候まで操れちゃうんだろ?そんなクソチート野郎どもが何で憎くて嫌いでしょうがない人間滅ぼさないんだよ…」
「それは…」
グロードは考え込むような仕草をしている。
コイツってやっぱり腕はいいけどアホの子なんだな。
何で今まで考えなかったんだろうか。
なんかこっちまでアホらしくなってやる気が削がれたな…
「はあ。まあいい。いいか、今回は見逃してやるからよく聞け。俺はこの下らん戦争が嫌になった。俺が魔界を統一するからその時お前らがどう動くか、よく考えろ。勿論人族を皆殺しになんてしないし、関係ない奴を奴隷にしたりもしない。でもお前らから襲い掛かってくるならそれは知らん。攻めてきた国を亡ぼすくらいの事はたぶんやる。当然だろ?やられたらやり返すからな…そのつもりで攻めて来いよ」
「…分かった。伝えるとしよう。だが見逃してやるのはこちらの方だ。」
「ほざけ」
「ふん」
軽口にフフッと笑いながら返すとあちらもニヤリと笑う。
空中での二人の対話はこれで終わった。
空軍はそこで双方引いた。
もう飛竜もそろそろ限界だし天馬も危ない。
双方とも強力で速度も速いが継戦能力の低い兵種なのだ。
一部例外として、俺の乗ってるアカとグロードの乗っているグリフォンはまだ元気だが、乗り手の方にはもうやる気がない。
地上の戦いはすでに追撃戦に移っているようだ。
出来るだけ多く討ち取ってほしいような、少しでも犠牲者が少なくなって欲しいような…複雑な心境ではある。
――――――――――――――――――――――――
必要のない蛇足だとは思いますが…
カイトは皆殺しに…とか言ってたのが複雑な心境に変わったのは勝って余裕が出来た事、グロードと話して彼らなりの事情があったことを思い出したから、一晩寝たことで抑えが効いたから、ですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます