第218話 決意
「おはよう」
「お…おはようございます…」
「お!?師匠!アフェリス!おはよ!」
街の見回りをした次の日。
寝込んでいた師匠とアフェリスは今日は起きて来て、食堂で顔を見せてくれた。
よかった。
正直、師匠にもう会えなくなるかもって思った。
思わず駆け寄って手を取って挨拶する。
「師匠、お元気そうで…良かった」
「ああ、なんとかな」
「その、先日はお世話になりました。アフェリスも本当にありがとうな!」
「お前、覚えているのか…」
急に手を握られて困惑顔の師匠だが、そこはスルー。
続いてアフェリスにも頭を下げて礼を言う。
師匠は元気そうには見えない。
歩くのも辛そうだし、息も絶え絶えというところだ。
アフェリスは相変わらずオドオドとしている感じはあるが何とか普通にしていようとしている、といった感じだ。
「師匠、辛いようならしばらく休んでいてくださいね。俺が代わりに頑張りますから」
「代わりに?ふふ。代わりに魔界でも統一してくれるのか?」
「…ええ、そうですね。そうしましょうか」
さっきまで明るい空気だったのに俺の一言の後、シーンと静まる室内
「すまん。今なんと言ったかな?」
「やる気になったって事です。師匠、俺が魔界を統一します。何なら人間界もです」
「…そうか。ついにやる気になってくれたか!」
おおっ、と盛り上がる室内。
ついにやる気になったかと涙を流す師匠。
そしてキョトンとする俺とアフェリス。
「何でそんなに盛り上がってんの?」
「そりゃお前、あれだ。ダンジョン以外に興味なさそうなお前がついにやる気になったからだよ。なあ、マリア!」
「そうですとも。坊ちゃんにお仕えしている甲斐があるというものです!さあ、楽しくなってまいりましたね!」
「そんなモンかな…」
「ロッソも浮かばれるというものだ。」
「…ロッソは生き返らせます。俺が…」
そういうと皆は目をむいて驚いた。
80層でアシュレイを、90層でロッソを生き返らせる。
出来ない事ではない。はずだ。
「出来ないと思いますか?」
「いや、可能かも知れん。今のお前ならな…」
「そうでしょう。90層くらいまさに朝飯前って事ですよ。さあ、ごはんを頂きましょう。」
「そうだな。さて、今朝は何だろう。ハハ、一杯開けたいような気分だ」
「朝からですか?ハハハ」
和やかな気分で始まった会食。
朝ごはんはご飯に豚汁だった。
避難させる際に怪我をした豚を締めたらしい。なるほど、そういう事もあるだろう。
具材は豚と、足の早そうな野菜を適当にぶち込んだ豚汁だ。
これはちょっと違うんじゃないかと思うような食材が見え隠れするが、まあどうって事は無い。
味噌汁で煮てしまえば大体同じだ。豚が入ってりゃなんでも豚汁だ。
俺の中でその上位がカレーだ。カレー粉を入れて煮れば何でもカレーになるのだ。ってそれはそうと、折角だから聞きたいことを聞いておこう。
「ところで師匠。覇王の種とは何でしょうか?」
「覇王?魔王の種ならわかるが…というか私も持っている。預かっていると言ったほうが正しいかもしれんがな」
「そうだったんですか?何なんですかこれ?」
「…私も大魔王様に聞いただけなので良く分からないが、神の力の欠片だとか…集めると強くなるだとか…な。だが…覇王な?はて。」
「ふーん?」
集めろなんて言われたことない。
始めた頭の中にゲームみたいなアナウンスが流れたのは、アレはアシュレイが死んだ時だ。
あの時、種が二つになったとか言ってた気がする。
…という事は俺はもともと一つ種を持っていたって事になる。
こんなのゲームで出てきたっけ?
うーむ、返す返す、キッチリシナリオを読んでなかったツケが来てるな。
でもまあアシュレイでクリアした時はそんな変な要素なかった気がする。
ばばーんと戦ってたら楽勝でクリアして?シナリオ的にはそんなにおかしなことは無かったと思うが。普通に天下統一みたいになって終わったんだけどな。
「あれ?じゃあ師匠にも痣があるって事ですか?」
「ああ、あるぞ。」
手を見せてもらっても痣は見えない。
俺は手にある。
アシュレイも右手だった。
えーっと?
「師匠は右手じゃないんですね?」
「あ、ああ。どこにあるかはその…秘密!秘密だ!」
「ほう」
手の甲じゃないのか。じゃあ二の腕とか…首筋でもないな。見たことあるけど無かった。
んじゃあ胸とか尻とかかも知れん。
で、そんな所をホイホイ見せろとも言いづらい。
ちょっと興味はあるが、そんなに突っ込んで聞く気もないし。
しかし、ということは他に何人痣持ちがいるのだ。
そして種の保持者を倒す事が本当に良い事なのだろうか?
俺の種は開花宣言が出た。
次は何だ?何が起こるのか、さっぱり分からない。
分からないからワクワクすると同時に怖いという感情もある。
恐らく種が育つたび、俺も強くなる。
強くなった実感があるのだ。
それは良いのだが…こういうのが集まると良くないことが起こるのではないか。という不安も尽きない。杞憂であればよいのだが。
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