第217話 両輪


寝て起きて、街を見回る。

あても無くうろついていると遠くに軍の姿が見えた。

アレは…第二騎士団と、ケンタウロス隊と…?

あれ?第一の奴らも混じってんな?

アイツら危なっかしいから復旧に回されたんじゃなかったか?


「止まれ!領主様がおられるぞ!」

「おお、ご領主様!」「ご無事で!」


先頭にいたのはシュゲイムか。

あいつ何で騎士団長なのに先頭切ってんの?

敵に鉄砲隊がいたら壊滅しちゃうぞ、と思うけどまあ自領内だしいいのか?いや、油断禁物だ。

ここはガツンと。


「シュゲイム、先頭は「おお、ご領主様!ご無事で!このウルグエアルは心配しておりましたぞ!」…ああ、うん。ありがと」

「我々も心配しておりました。お体は何も問題ありませんか?」

「何ともない。師匠とアフェリスは寝込んでいるようで申し訳ない気分だ…」

「それは…申し訳ありません。我々の責任であります」


何とも言えない表情になるシュゲイム。

マリアに聞いたところでは第二騎士団の面々とウルグエアルさんは敵の裏に回るために外に出ており、その隙をついて裏切者が門を開けたそうだ。


「いや、そういう意味じゃない。軍議で決まった事だと聞いたし、あのままだとジリ貧だったと聞いている。士気を保つためにも、打って出ることは必要だ。仕方ないで済まされないかもしれないが戦に常勝は無いからな…」

「はい。我々はあの時待ち受けていた敵軍の中に取り残されておりました。領主様が敵を追い払っていただけなければ、我らは全滅、領民は皆殺され、奴隷にされていたでしょう。勿論我妻も子も…私は領主様に対する感謝の念が堪えませぬ。」

「我もだ。打って出ようなどと迂闊な事を言ったばかりにロッソ殿を喪ってしまった。兵の士気は下がっていたがどうしても看過できない程ではなかった。なのになぜ我はあのような迂闊な事を…悔やんでも悔やみきれぬ」


シュゲイムもウルグエアルも、第一騎士団の皆も、ケンタウロス隊も、ミルゲルも…あれ?コイツってリヒタールでいた時に孤児で野菜育てる時に拾ったミルゲルじゃん。


「あれ?ミルゲルじゃん?」

「はっ!覚えて頂いていたようで光栄です!ミルゲルです!」


シャキーンと気を付けの姿勢で固まるミルゲル。

コイツこんな所で何やって…ああ、そう言えばロッソの副官てこいつか。

そう言えばリヒタールで拾ってから…何年経ってんだ?ならいい年になってても全くおかしくないのか。


「ああ、ロッソの副官として頑張っていたようだな。いつもお前の事は聞いていたぞ」


聞いてはいた。

嘘じゃない。

聞いてはいたけどほぼ素通りしていたが、まあソレはいいだろ。


「はっはい!カイト様に覚えて頂けていたとは…ぐっ、ふぐっ」


よかったな!とかおめでとう副官!とかって声が聞こえる。

シュゲイムもウルグエアルももらい泣きしそうになっている。

俺はやや罪悪感を感じながら、ふと本題を思い出した。


「あれ?でもお前らって復旧作業するんじゃなかったっけ?マリアにはそう聞いたけど?」


一転してギクッ!って顔をした第一騎士団の面々。

アチャー、バレちゃったって顔の第二騎士団の面々。


「はあ…まあいい。キッチリ押し返してきたんだろうな?」

「勿論です」

「では、怪我人は素直に申し出るように。諸君らは明日はちゃんと復旧作業を手伝え。分かったな」

「「「ハッ!」」」


まあ、こいつ等だってロッソの仇を討ちたいって気はあるだろう。

それを無理して抑え込むのも難しいだろうし、どちらにしろその辺に逃げ込まれると野盗になる。

ある程度の所まではきれいに押し返す必要はあるのだ。

だからこいつらが命令違反をしたことは確かだけど、ガス抜きにもなったしどうせ必要な事だったからしょうがない。


…とは思うけどな。

でもこれ本物の軍で同じ事やったら懲罰房程度で済むんだろうか?

まあ被害がないからいいのか?うーむ。

とりあえず明日の割り当てを決めとこう。


「明日は第二騎士団は見回りをメインに、第一騎士団は外壁とその外側の補修を行うように。」

「ハッ」

「特に第二騎士団。まだ変なのが隠れてる可能性は十分にある。素直に捕縛されるようなら良し、抵抗するようなら殺しても構わん」

「ハッ!」

「だが、捕虜の扱いは酷いものにするな。問題なさそうなら普通に民として迎えても良い」

「それは…カイト様。我々が言うのも可笑しいとは思いますが、甘すぎるのでは?」

「そうは言うがシュゲイム、君たちだって困ってここに助けを求めてきたじゃないか。今回は飢饉なんだし似たようなものだろう。」

「そうですかね」

「騎士団員の面々からすれば違うだろうが、民からすれば似たようなものだ。自分の手ではどうしようもない状況に放り込まれて、仕方なくって事だ。勿論、保護して飯を食い、受け入れた後に罪を犯すようなクソは死罪でいい。」

「勿論です」


大きく頷くシュゲイム。

シュゲイムたちエルトリッヒからの避難民も最初は色々あったようだ。

でも彼らはここを放り出されると非常に困る。と言う訳で内輪での犯罪に対して非常に厳しく取り締まった。農地の水争いや苗の優先何かで喧嘩沙汰になった時もかなり厳しい罰を課したらしい。

そこまでしなくてもと思ったものだ。


だが、彼らも必死だったのだろう。

そしてその締め付けが厳しいと感じたのか…裏切者が出た。


「そうだ、シュゲイム。裏切者の処遇はどうなった?」

「一族すべて捕らえてあります」

「どうすっかな。そこらへんの法整備をキッチリしておくべきだったな」


ヴェルケーロにエルトリッヒからの避難民を迎え入れた時、法を作った。

ハンムラビ法典を参考にしたようなもので…まあ色々穴が多かった。

大逆罪は死刑だが、この場合は大魔王様に対して…というものであった。

つまり俺に背いた場合はどうなるって具体的には決まってなかったんだよね。


それから外患誘致?みたいなのはもっとはっきりしない。

たぶん死刑だ、って感覚で…もっといろんな状況を想定して分厚い法律にしないとダメだった。

でもそんな時間なかったし!


「うーん?どうすっか」

「裏切りは九族まで死刑です」

「九族!?ふええ…エルトリッヒじゃそうなの?」

「公国では三族まででしたが、こちらに来て厳しくしてあります」

「なんでやねん」


九族まで死罪って昔の中国じゃあるまいし。

まあどちらにしても今回門を開けた者については死罪は免れない。

妻子は…どうすりゃいいんだ?そもそもいるのか?


「門を開けた裏切り者は何者だ?」

「ハッ…それが、王と血縁のある者でありまして」

「ほう」

「領主様は覚えておいででしょうか。嘗てトンネルを通って避難していた際に大きな荷車を持っていた者でして…その…」

「あー、そんなの居たような気がするな。アイツか…」


何やら大きな荷車を持ってきてて邪魔臭かったやつか。

大臣の何ちゃらとか言ってなかったっけ?王都も血縁あったんだ。そーかそーか。


「そういうのホント邪魔だよな…ああ、ごめん。」

「いえ、我らエルトリッヒの人間がとんでもない事を仕出かしました」

「あー…まあそういうのはもういいよ。ヴェルケーロは急に大きくなりすぎた。みんな言いたいことも不満もあってしかるべきだと思う。もう何年も経ってんだし…裏切られたのは俺が悪いんだよ。そこまで気にすんなよ」

「ご領主様…」


シュゲイムは感動したのか人目を憚らず泣き始めてしまった。

だってしょうがないじゃない。

あのままだと責任を感じて切腹でもしそうな勢いだったんだもん。


留守がちな俺の代わりにマークスとロッソが内政と軍事の要となって動いてくれていたのは分かっていた。その両輪の上に俺という神輿が上手いこと乗っかってこの領はバランスが取れていたのだ。

なのにロッソが…参ったな、ホントに。




――――――――――――――――――――――――――――――――――


両輪をの片方を喪えば片輪(へんりん)になります。そういうタイトルにしようかと思ったけど、読み方を変えるといろいろ時代的に不味いので止めました。言うてカイトも右目と左手ないんだけどね。そういうの気にして弾圧するのこそどうなんだって話なんですけど…

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