第215話 破壊と覚醒
前半は師匠視点で上空で別れたところから、後半はカイト視点です
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アーク歴1506年 壱の月
ヴェルケーロ領
マリラエール・ラ・ルアリ
「行くな!待て!ゴホッ…ゴホッ…」
「…行ってしまわれましたな」
「…ウム…」
待てと言っているのにカイトはどんどん先に行ってしまった。
私の騎乗している飛竜とて魔界でも選りすぐりの飛竜であるが、子供とは言えドラゴンに比べるとさすがに速度は劣る。
先ほどまで隣を飛んでいたカイトは町から上がる煙を見て我慢が出来なかったようだ。
アイツは大人びているようで全く子供のままなのだ。
「カイト殿!待たれよ!カイト殿!」
「良い、行かせてやれ…ギザルム、貴様らもだ。私を置いて先に行け」
「…ハッ。ラーナ、貴様の隊はマリラエール様の元に残れ。残りの者は先行するぞ」
「「ハッ!」」
3名を置いて先行する飛竜隊。
私も急ぎたいが、もう体が付いて行かない。
「情けない事だ…」
「姫様、御身が一番でございますよ」
「ラーナよ、私はもう無理だ。自分でもわかる…私が亡き後はカイトに仕えろ。大魔王様はもともと奴を指名していた。大魔王城の私の机と、このカバンの中に遺書がある。すまない、こんな役をやらせて…」
「姫様…」
私の体はもともと病を得ていた。
大量に魔力を使うとその病は一気に進行し…やがては死に至る病だ。
そして、大魔王様の『種』を継承したことにより病は加速した。
とはいえ、『種』の継承後にここまで大きな戦いも無く、魔物との戦いも此処近年は殆どなかった。
それゆえ今まで永らえていたが…
大魔王様に聞いたが、カイトの知る歴史では私は登場しなかったらしい。
つまり私は恐らく、大魔王様が亡くなる前、戦いが始まる前にに死んでいたのだろう。
何故まだ命があるのか。
それは分からないが…私のこの、先の短い命でも恐らくは出来ることがあるのだろう。
…あるいは、為すべきことが、まだ残っているという事か
「ああ、やはりか…」
ようやく町の全貌が見えてきた。
以前訪れた際に見た、外壁と内壁。
数千のモンスターが攻めて来ても備えさえ十分なら破られそうになかった堀のある外壁。
それが破られている。
そして外壁よりさらに強靭な内壁。
これほどの備えが必要なのかと首を傾げた壁も一部の門に敵が侵入しているようだ。
やはり防衛の人数が、そして指揮をする者が足りないのか。
カイトはその門の近くにいる。
倒れているあの巨人族は…ロッソ殿!?
ああ、彼ほどの者でも圧倒的に数に優る相手には…
「しかし…カイトだけでも脱出させねば」
この状況だ。
もう街が陥ちるのは避けられないだろう。
カイトは住民を見捨てるなどという事は出来ない。
大魔王様の後継者であるカイトだけでも、何とか。首根っこをひっ掴んででも何とか脱出させて。
そうして人族の侵攻を抑えて平和を…
「な、何!?」
突然辺りに溢れ出す魔力。
そして周囲に溢れる炎。
何らかの魔力が混じり合った、この感覚は…これは以前にリヒタールで…
「いかん!カイト!」
あれこそは『種』の真の力は神の欠片の覚醒。
大魔王様が無くなる間際に聞いた。
アレはいずれこの世界、魔界と人界の全てに破滅を齎す。
悍ましい神の力の
アーク歴1506年 壱の月
ヴェルケーロ領
「ぬああああああああ!」
誰かが叫んでいる。
右腕からは樹を生やし、肘までの左腕は黒き炎を次々と生み出す。
叫び声は深く、重い。
無防備に声を聞いたニンゲンはそれだけで失神するほどの魔力が込められ。
遠目に見た者も恐怖の余りに金縛りにあった。
彼の前に立ち塞がる者凡てが樹に捕らえられ、次の瞬間黒き炎で焼き尽くされた。
この光景を、俺は見たことがある。
誰なのか、顔は良く分からない。
でも以前にも大体同じようなのを見た。
門に攻め寄ってくるものは悉く樹に捕らえられ、その木を舐めるように走る黒炎で焼かれ、一つの黒い柱になった。
門の中と外が黒柱で満たされた頃、その怪物は門の外へと出て行った。
あれは何だろう、なんて呑気な事は思わない。
そうか、アレは俺か。
前にリヒタールで同じような事があったとき、ロッソが変な反応をして師匠も困り顔だった。
ああ、今やっと腑に落ちた。
何でこうなったかは分からないが、俺がアレに乗っ取られて。
んで俺は弾き出されたって事か。
妙に納得しながら後をふわふわと着いて行く。気分は浮遊霊か背後霊ってところだ。
そして城壁の外を見て愕然とする。
俺の、俺の果樹園が…
西門の外は果樹園だった。
それが、未だ青い果実まで捥ぎ取られたどころじゃない。樹ごと切り倒されている。
燃料にするにしても、もっと他に!すぐそこの山に木があるだろうが!
『何すんだこのクソ共が!』
「ぬがあああ!」
あ、俺が怒ったら『俺』も怒った。大暴れしている。
ちゃうねん。いや、違わないけどちゃうねん!
あいつが暴れたら益々畑がぐちゃぐちゃになる。まだ根の元気なトマトが!枝折られてるだけのモモが!あああ!そっち行っちゃダメ!燃えちゃう!
止めて!何とか止めて!
その時ギラギラする剣を持ったやつが立ち塞がった。
「そこな異形よ!この聖炎の勇者ヴァルクトゥルス様が貴様を成敗してくれよう」
あー、あのギラギラ野郎は勇者か。
じゃああの光は聖剣か?何か嫌な感じの光り方だと思った。
同じ聖剣でもリリーが使ってる剣はそんな嫌な感じはしないんだけどな。
やっぱり敵意とかそういうのが関係しているんだろうか?
そうこう感じているうちに勇者君は『俺』に向かって突撃。
樹を放つ俺。
切り裂く勇者。
…やばくね?と思ったら『俺』は聖剣でざっくり切られた。
『痛った…?痛くないわ?ありゃ?』
見ると袈裟斬りに斬られ、鎖骨はどう見てもやられているはずの『俺』の方も全く意に介さず。
身体を斬ったままの剣を素手で掴み、そのまま勇者君を消し炭にした。
「う、うわあああ!」「勇者様が!」
「に、逃げろ!」「こら!逃げるな!逃げる者は撃つぞ!」
敵はもう軍隊の体をなしていない。
兵は我先に逃げ、それを統率するための将も腰が引けている。
逃げるな、前に出ろと口では言っているが自分はしっかり後ろにさがっている。
どうにもならない状況だ。
『うわあ…圧倒的じゃないか、我が…我が俺?は?』
背後霊のような状態で見ている俺も名台詞でもボヤいてないとどうにもならんくらい強い。
もうずっとコレでいいんじゃないか?
そう思っていると、『俺』は今いる畑を燃やし、見えている果樹園も火の海にしようとしている。
『あ、だめだめ、それはダメよ?待って?ストップ!ステイ!?』
あー、アカンアカン。
こらあきまへんで!俺の果樹園が!そっちは野菜より育つの時間かかるんだ!
まだ折られただけで生き残ってるのも多そうなんだ!待って!
『こら!俺!そろそろ止めろ!』
門を燃やし、果樹園を焼き。
敵軍が逃げていった方向に火をばら撒き、樹で作った槍の雨を何千何万と降らせた。
…そして最後には壁内の方を向いた
『おい!何やってんだ!止めろよ!おい!』
あろうことか壁に向かって火を放つ。
まだ怪我人は居ないようだが、このままじゃ。
『おいこら!止めろって!』
そうすると師匠とアフェリスが現れ、俺を止め始めた。
「カイト!よさぬか!」
「カイト、もうやめて」
『そうだぞ!やめろ!』
「もっともやせ!ぎゃははは!」
『アカは黙っとけ!』
ウチのアホドラゴンは『俺』が出してる火を見て興奮している。
もっとやれじゃねえだろアホ!
俺はアカの頭にポカポカと拳骨を降らせる。
一寸不思議そうな顔をしているが、何の痛手も感じないようだ。
すいませんね、躾のなってない犬で…
師匠もアフェリスもアカを全無視して俺を止めようとしている。
師匠は水魔法を身に纏い、俺に抱き着いて必死に宥めているようだ。
アフェリスは自身の火魔法で俺の出す火を抑え込んでいる。あんな魔法の使い方出来たんだな。
火魔法って燃やす一方かと思ってたがあんな使い方も出来るのだ。
そうこうする間に俺の出す火は師匠に火傷を負わせながら小さくなってゆく。
体感時間でおよそ10分。
師匠とアフェリスによって『俺』は鎮火され、背後霊のようにハラハラしながら状況を見ていた俺の意識も吸い込まれるように無くなったのだった。
<カイト・リヒタールが聖王の種を獲得しました。魔王、聖王どちらの種も獲得したので魔王の種は覇王の種進化しました。>
<カイト・リヒタールが覇王の種開花条件その1『敵国の種保持者を殺す、若しくは捕虜にする』を満たしました。>
<おめでとうございます。カイト・リヒタールの覇王の種は開花しました>
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