閑話 ヴェルケーロ包囲戦①
相手側視点です
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アーク歴1506年 壱の月
ヴェルケーロ領 外壁内
自由同盟連合軍
オーブラン・リケルム将軍
「ようやくここまで来たな。もうひと押し!もうひと押しで憎っくき魔族どもを皆殺しに出来ようぞ!」
「おおお!」
タラモル国王の声に盛り上がる陣幕。
勿論皆がタラモル王の声に
そこには冷めた目で見ている者も沢山いる。
俺やグレアム将軍などがそうだ。
この戦に大義は無い。
いわば火事場泥棒のような戦だ。
それでも領土を得るための闘いなら深慮遠謀ともいえるが、獲らんとしている物は食料だ。かつて小国家群であるエルルスローニ連邦は味方であったはずのエルトリッヒ公国を食いつぶした。
彼らに特に何の罪があったわけでもなく。
その戦に参加していた私が言えたことではないが、あれは何の大義も無い戦いだった。寄ってたかって言いがかりをつけ、無理やり奪い取るような…騎士道の欠片も無い。
まるで夜盗のような所業だった。
我が国は小さく、王は病を得ていた。
跡継ぎである太子はまだ若く…つまり、周辺の強国と協調していかなければすぐに自分たちが食い物にされる立場だったのだ。とは言えあの戦は…
そして、前回の戦からおよそ8年が過ぎた。
20代の若造だった俺も30代になり、陣中で侮られることもなくなった。
病を得た王は亡くなり、太子はようやく成人だ。
そういった時に魔界、それもヴェルケーロ領から今年は冷夏になるのではないか、という情報が流れて来た。
タラモル国を含む連邦の多くは魔界側の謀略だと言って相手にしなかったようだ。
…俺はそんな事をする意味がないと思った。
カイト・リヒタールは姑息な手も使う男だとは思うが、避難民を見捨てたり囮に使うような事はしなかった。あの状況なら彼一人ならいくらでも逃げられたはず。なのにそれをしなかったのだ。
第一、もし魔族の謀略だとして、我々が食料の生産を増やしたから彼が得をする事が何かあるだろうか?
俺は悩む王にそう進言し、ソバやカブなどの作付けを増やすように勧めた。
我が王はそれに応じ、冷夏への備えをすることにした。
…ただし、人目につかない畑を選んでの事だ。
こんな事すら他国の目を気にしなければならない。
国民の食べ物の事すら…俺は情けない気持ちになったが、王もそれは同じだったようだ。
そして今ここに至る。
隠し畑は上手くいった。
我が国はおかげで少し不作程度、民はあまり飢えずに済みそうという状況だった。
だが他国は酷い状況になった。
連合の中にも情報が流れていたので我らと同じように少しずつ対策をしていた国もあったようだ。
だが、タラモルだけは絶対に備えをしなかった。
そこからの凶作である。
タラモル国は食糧難に陥り、他国の麦を買い漁った。
あるいは武力で奪い取った。それでもまだ足りないようだが。
そうすると困るのは奪われた側である。
周辺に比べ遥かに大きい国の人口を賄うための略奪。
奪われた側とてただでは済まない。
斯くして食糧不足は人界全域に広がった。
勿論我が国も同じだ。
折角上手く乗り切れそうだったのに食料を高値で買い占められ、やはり食料不足に陥った。
出来るだけ売らないようにと国が指示したのに商人たちが売ってしまったのだ。
こうなるともうお手上げである。
国庫を開いても無いものは無い。
食い物はなく、金で買おうにも値上がってしまった食料は買えない。
慌てて再度増産の指示を出したが食料不足はどうにもできず、そして最後には周囲に流されてこの出兵だ。
折角情報をくれたカイト・リヒタールの領を火事場泥棒のように襲撃する。
何とも情けない出兵である。
とは言え、出兵の間の食料はタラモルが出してくれる。
ならばと兵は最小限、食うに困った難民たちに武器を持たせての出撃となった。
難民たちには出来るだけ戦うな。
飯だけ食って帰れと言ってあるがどうだろうか。
…まことに情けない戦。
そして、この愚行を止められなかった我が身の不甲斐なさよ…
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