閑話 ヴェルケーロ包囲戦②
前回に引き続き相手側視点です
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アーク歴1506年 壱の月
ヴェルケーロ領 外壁内
自由同盟連合軍
オーブラン・リケルム将軍
「貴殿らにやる気はあるのか!」
またタラモル殿が怒っている。
まあ無理もない。
今日で壁を囲んで4日目。
山中のトンネルを抜けた後は何度も横からの襲撃に遭った。
ピクニック気分だった新兵ども、略奪を楽しみにしていた盗賊上がり共は何割が死んだのやら。
街の壁に到達するまでに多数の犠牲者を出した。
そしてヴェルケーロの外側にある壁を囲み、さらにその何倍もの犠牲者を出しながら何とか壁を突破した。そこには広大な畑があり、実っている最中の食料が沢山有った。有ったのだ。
飢えていた味方は我先にと食料を奪い合い、意気揚々と進軍した。
何とも見苦しい有様ではあるが…まあ致し方なし。
戦場の常だ。
天馬からの報告によると壁は2枚ある。
これは事前の軍議で報告されていた。
外側の壁の内部には畑が沢山有り、内側の壁の内部には住居や商店のようないわゆる街の施設があるらしい。つまりこの壁の中には食料の他に金銀財宝がある。
色めき立つ盗賊上がり共だが…我々からするとさらにその脅威度が上がったと言える。
外側の壁と比べると明らかに攻略の難しそうな巨大な壁。何ヵ所かある出丸のようなところには大砲が、そして銃眼が多数見える。他にもまだまだ仕掛けがありそうだが…
そう思って一当て。
金に目が眩んだ盗賊は死んだ。
名誉に飢えた騎士も死んだ。
少し腹のふくれた貧民は逃げ惑った。
どこからか出撃してきた魔族たちに散々蹴散らされ、ようやく壁付近にたどり着いたと思えば火砲によって騎士が、魔法使いが遠距離からドンドン殺されたのだ。
そこで足を止めればあの恐ろしい巨人がまた横から、後ろから、あるいは正面から襲い掛かってくる。我らの備えがそれほど弱いとは思わないが…あの恐るべき赤胴肌の巨人。
圧倒的な膂力に加え、矢を、さらに魔法を跳ね返す防御力。
あれは何かの加護なのだろうか。
およそ裸に近いような格好に見えるが圧倒的な防御力でこちらの攻撃が通用しないのだ。
遠目には鈍重な動きに見えるが何せ大きい。
力もとんでもない。
殴られた兵が盾ごと10mも飛ぶ有様を見れば、どのような上官も突撃せよとは言えないだろう。
故に奴が戦場に現れれば亀のように縮こまる事しかできず、侵攻が遅くなる。
仕方ないと思うがな…
「リケルム将軍!いかがか!」
「…ハッ。問題は敵の巨人であります。ケンタウロスの弓矢、ゴブリンやオーク共の攻撃も成程厄介です。しかしあの巨人がいてこそです。あれさえどうにか出来れば自由に動けますが…あれが現れれば兵共も動けませぬ」
「それを動かすのが貴殿らの仕事ではないのか!」
「そうは仰いますが…では陛下の所の隠し玉を使っていただけませぬか?あれくらいしか対抗できそうにありませんぞ」
「あれをか…」
タラモル王の所には勇者がいる。
確信はなかったが、この情報は間違いないようだ。
「何か策でも講じなければ厳しいと思います。天馬部隊も随分やられたようですし」
「策はある」
「左様で、どのような策でしょうか?」
「まだ言えぬ。どこから漏れるやらわからぬからな」
「はぁ」
我らを信用できないという事か。
だがそんなにノンビリしていていいのか。
昨日、大魔王城方面から一騎の騎竜が現れた。
ノコノコと近寄ってくるワイバーンに10を超えるペガサス部隊が出撃していったが。
彼らは3分持たずに全滅したようだ。
あまりに一方的な殺戮に敵の士気はさらに上がり、味方の士気はどん底になった。
しばらくして飛び立ったあれは恐らく、援軍を呼んでくる。そうなるとこの遠征軍は…
「昨日のワイバーンは恐らく援軍を連れて来るでしょう。そうした場合に我らは敵中に取り残されることになります。ここは一応の収穫もあった事ですし、撤退を視野に入れることも」
「黙れ!何たる弱腰な…おい!この反逆者を捕縛しろ!」
「え?いや…タラモル王、これは軍議です。それも他国の将ですよ」
「知ったことか!捕縛せよ!」
参加者全員が戸惑っている。
だが、ここにいる参加者は各国の代表であり、軍議の場だ。
ならば参加者から反対意見が出ることもあって当然の筈。
おまけに俺は部下でも何でもない。小さいとはいえ国を代表して来ている者だ。
それを突然捕縛だなどと言われても…と戸惑っている。
どうやらすぐに捕らえられて殺されるという事はなさそうだ。
だが安心できる状況ではない。
それに勝算もあまりなさそうだ。
王には悪いかも知れんが、ここは引かせてもらおう。
「どうやら我らは不要の様子。申し訳ないが兵を引かせていただき申す」
「うぬぬ…帰れ!帰れこの役立たず共が!魔族を片付けたら次は貴様らの番だ!」
「それはどうも。皆様方、この方はこういう方のようです。我が身のみならず、国としてのふるまい方も再考してはいかがかな。では失礼。」
まだ怒鳴り声のする天幕をでる。
策があるとは言っていたが、この分では上手くいくのだろうか。
敵が何か下手を打たなければなかなか難しいのではないか。
まあ最早我らの知ったことではない。
残りたいという者だけ残し、我々は兵を引いた。
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オーブラン将軍は大国に挟まれた小国の将軍ですね。
戦国時代の国人領主みたいなものを想定しています。
大国の主に振り回され、どうしようもない感じですね…
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