第210話 ヴェルケーロ防衛戦①
アーク歴1506年 壱の月
ヴェルケーロ領
ロッソ・クリューデル
我が名はロッソ。
ロッソ・クリューデル。
爵位は騎士爵を頂いている。
先代の筋肉に惚れ、頼み込んでリヒタール家に仕官させて貰ったが。
先代が亡くなってからはまだまだ可愛い若にお仕えしているところだ。
若は可愛い。
誰が何と言おうと、我が領のアイドルだ。
先代の奥様、若のご母堂様は若を出産後すぐに亡くなってしまわれた。
おかげで若に乳をあげるのは領内の母親たちが交代で、若を育てるのはお忙しい先代様に代わり我ら家臣たちが主となった。
家臣たちも領の若い母親たちも、大変不敬だが若の事を実の子供のように思っている者も多い。
その若がいきなり畑を耕し始めた時はどうなるかと思ったものだ。幼いころから奇行が目立つ子供だったと思っているが…マークス殿が上手く操縦していると思っていた。
なのに突然の農業である。
『農業アイドルになろっかなー』とか、『アシュレイと二人で農業ユニットってどう思う?〈農ツー〉とか??』など。
今までにも増して訳の分からない言動が続いた。
先代もマークス殿もあの頃は頭を抱えていた。
ダンジョンに通い始めたと聞いた時、先代は『本の虫だったが、体を鍛えてくれて嬉しいわい』と酒の相手をしているときに言っていたが、農業ユニットなどと言い出した時は『どうして儂の息子は訳の分からん事ばかり…』と嘆きながら浴びるように飲んで潰れる毎日だった。
だが、その若の奇行の結果がこのヴェルケーロ領の繁栄だ。
ここが本当に領全体を見ても1000人足らずで食い物にも困っていた土地とは思えない。
若と開墾した日々、収穫の喜び、それと徐々に増えてくる子供たちの笑顔…
「それらを奪おうという物は許せぬ。そうであろう?」
「「「応!」」」
「第一騎士団出撃用意はいいか!」
「「「応!!!」」」
「よし…初戦は決して無理をするな!適当に蹴散らして帰って来ることこそが肝要!良いか、外壁到達までの時間を稼ぐだけで良いのだ。死守せよとは言わん。まだここは貴様らの死に場所ではないぞ!」
「「「応!!」」」
「第二騎士団は避難誘導が終わり次第外壁上から迎撃。衛兵隊、職人隊は内壁の防備と罠の設置を。数が多い。外壁はいずれ捨てる。内壁の後方に民を集め、避難させよ!」
「「「応!!!」」」
「シュゲイム殿。」
「第二騎士団長の私から告げる。これから襲いくる『敵』は人族だ。諸君らの中には魔族と人族、それに混血の者も沢山いる。これは分かっている。」
皆が周りを見る。
疑心暗鬼の目ではない。
訓練を通じ、お互いの強い所も弱い所も分かっているのだ。
単純な力は強いが軍としては纏まりに欠け、各個撃破されがちな魔族。
力は弱く、魔力も弱いがその点を補って余りある統率力を持って集団戦術に長ける人族。
お互いの良い点を引き出し、補い合えば何物にも勝る。
「…敵は人族とはいえ、第二騎士団所属の諸君らの母国、エルトリッヒを焼いた者たちだろう。つまり我々の旧主、王の仇でもある。これは敵討ちである。だが、それだけではない。これはこの防衛戦に出る者全てが共通することだが…もし我らが抜かれた場合、敵の刃は君たちの妻や子、兄弟姉妹、友人や年老いた父母に及ぶだろう。そのような事は絶対に許されん!」
「「「応!!!!」」」
「よし…第一騎士団出陣!奴らを蹴散らすぞ!」
「第二騎士団出陣!外壁を守る。数を減らし、避難の時間を稼ぐ!行くぞ!」
「「「「応!!!」」」」
若がリヒタール防衛に出動し、主不在のヴェルケーロに敵が突如現れた。その総勢は2万を超えるらしい。
慌てて使いを送ったが飛竜は撃墜されたかもしれんし、馬では時間がかかる。
分かっている事は我らは包囲され、敵は外壁のすぐそこまで来ている。
それも領主である若が不在の時にだ。
だが我らは負けぬ。
何のために若と修業し、学問を学んだのか。
今ここで民を生かす。
その為に我ら騎士団は在るのだ。
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暫くロッソ視点になります
兄弟姉妹と書いてから、いまって『きょうだい』なんだよなーとおもいましたが、こういう演説のときにみなさんのきょうだいは~みたいになると小学校かよって感じなのでこうしています。
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