第209話 マークスの帰還



外れて欲しい予感ほどよく当たる、とはだれの言葉だったのか。


マークスが出発した次の日、強引に攻めてこない敵を見て嫌な予感はどんどん強くなってきた。アカと飛竜隊と出撃して少しチクチクしてみたものの、空からはグロードが邪魔をするので砲を一つ潰す程度しかできなかった。

それでも戦果ではあるのだが…


「ご当主様、マークス殿が帰られました」

「ああ…どうだ?」

「血塗れのお姿です」

「すぐ行く」


深夜にさしかかろうかと言う頃、マークスが帰って来た。それも血塗れになってだ。悶々としながら臥所でゴロゴロとしていた俺はウーモチに呼ばれ、飛び起きた。


「マークス!マークス無事か!ヒール!」

「坊ちゃん、これは返り血でございますよ」

「なんだそうか。…本当か?」


一瞬安心したが、コイツは平気で俺に嘘をつくから信用ならん。

下手くそな水魔法を頭の上から掛け、血糊を洗い流す。…顔や頭は大丈夫のようだが。


「服を脱げ」

「その前に報告が」

「大体わかる。脱ぎながらで良い」

「…はあ。では失礼して…ヴェルケーロはやはり襲撃されておりました。ロッソ殿とシュゲイム殿が主体となって防衛しておりますが、私が戻る際には外壁部はすでに突破されておりました」

「…そうか。それでその返り血は?」

「これはヴェルケーロを封鎖しようとしていた天馬部隊と戦ったまで。奴ら数だけは多くて参りました」

「怪我がないならいいんだけどな…」



諦めて服を脱ぎながらマークスは説明する。

確かに、マークスの体に大きな傷は残っていない。

ほっと一安心である。


ジジイはちょっとしたことで死にかねんからな。

まあ毎度酷使している俺の言う事ではないだろうけど。






ヴェルケーロの町の外壁部分はここ数年の間に拡張したところだ。

すっかりワーカーホリックになったベロザ達、元々ヴェルケーロに住んでいた者たちが『仕事がもう無い、やることがない』とうるさいのでじゃあ畑を獣たちから守る外壁を作るようにと指示した。


気が付けば街をぐるりと囲む、高さ3m程度の外壁が出来上がっていたものだ。

なかなか頑丈に出来た。これなら害獣もニンゲンも早々突破できまいと思っていたが…あれを突破されたか。


「負傷者や死者はどうか」

「今のところ最小限です。猟に出ていたものが敵を発見し、狼煙を上げて異常を知らせたようで。発見が早く、被害は少ない模様です。」

「そうか。でもそれでも外壁が…あ、あれ?じゃ、じゃあもしかして……外壁と内壁の間の畑は…?」

「勿論踏み荒らされ、奪われております」

「おのれ!許さん!!!!」


元々小さな村、ヴェルケーロ村のその外側を余裕をもってぐるりと囲ったのが内壁。


その外側である外壁と内壁の間の土地は、木と山と岩ばかりで魔物が跋扈するような土地だった。

それを少しづつ伐採して開拓して。ドンドン町が発展して完全に入りきらなくなったので外側を開拓して作られたのが外壁。

二つの壁の間にあるのは皆で協力して作り上げた畑…おのれ!


「クソ共が…絶対許さんからな…」

「カイトこわいぞ」

「あたりめーだ。食い物の恨みは一番怖いんだ」


食い物だけではない。

貧乏時代の血と汗と涙が…まあ多少は沁みこんだ土地だ。

それを好きなようにやらせてたまるかってんだ!


「俺は行く!後は任せたぞ!マークスは少し休んどけ!」

「なっ、私はまだ」

「お前の飛竜はもう限界だろ。こっちの防衛を頼む。交代だ。」

「女王様にはどう言われるのです!」

「お前が適当に言っとけ!後はウーモチに聞け…行くぞアカ!」

「おー」


颯爽とアカに飛び乗る。

コイツも柴犬サイズだったのに気が付けばかなり大きくなった。もうバイクくらいはある。

250ccくらいか?転んでも起こせるだろ?これくらいなら?ってサイズだ。


「じゃあな。伯母上を頼んだ」

「「ハッ」」


嫌な予感はする。

アシュレイが死んだ時、リヒタールに敵が侵攻してきた時と同じような感じだ。

みんな、無理せずに逃げろよ…



――――――――――――――――――――――――――――――――――


内壁、外壁ととりあえず呼称しています。そのうちたぶん壁に名前がついてマリアとかシーナとかになるかも。早く三重にしないと。


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