第207話 ディナー・ミーティング


4日目が過ぎ、夕飯を伯母上とベラトリクス魔王と一緒に食べている。

当然のように幹部の食事会は軍議を兼ねているのだ。


それにしても敵は大人しすぎるのではないか。

それともやはり別の策でもあるか。

別動隊がいるとか?

どこかで食糧調達を行っていると考えるのが妥当だが…なんて考え、話しながらの飯だ。

大して味が分かるような状況ではないが、美味い。料理人は頑張ってくれてるっぽい。


「何もしてこないのが逆に不安ですよね…他の侵攻ルートがあるとすればどこでしょうか」

「あまり考えづらいが、海からという可能性もある。海からならベラトリクス領や北からドレーヌ領にも入れる。」

「成程。でも船じゃ人員が限られますね」

「そうだが、詰め詰めにすれば1隻で千名くらいは運べる」

「そんなに…」


この世界の船は大航海時代以前の船、って感じの船だ。

マストがあり、帆があるが砲はまだついていない。まあこれから乗せるんだろうな。


船からか…今までなかったからって油断してたな。

ベラさんは大丈夫なんだろうかと思うが落ち着いたものだ。防備に自信があるのだろうか。


「…それからユグドラシル王国方面からもありますが、そちらはまあ考えづらいでしょう」

「お爺様の所からですか?黙って道を開けるとは思えませんが」

「そうですね。あの父上があっさり道を譲るとは思えませんしね」

「ガクルックス魔王領からというルートもあるがな…あちらは厳しいぞ。まともなニンゲンの通れる道ではない」

「そうなんすか?」

「いくつも崖があるからな…橋を一つ落とすだけで時間はいくらでも稼げるだろう。厳しい道などという物ではない。人族は勿論、魔族も体の小さい者ならまだしも大きい者は…まあ、大勢での行軍など出来る物ではないな」


軍議が進み、話すことがなくなってくると伯母上と俺、ベラトリクス魔王の3人での会議は最早雑談という体になっている。

いい加減口調も適当になって来た。まあそれはしょうがないね。


「カイト、エルナリエが言っていたのだけれど、貴方の方はどうなの?前にほら、なんと言ったかしら。彼らが逃れてきたのでしょう?」

「エルナリエ?ああ、ゲラルドの…」


エルナリエは魔王毒殺犯として処罰されたゲラルドの娘である。

でも使えそうな人材なので罪を償う形で伯母上に仕えさせた。頭が良いから色々役に立つとは思うんだよね。


「そうですね。エルトリッヒの者たちと通って逃げたトンネルがありますね。時々チェックはしていますが…やばいかな?明日マークスに様子を見てきてもらいましょう。何ならあいつはそのままお留守番で」

「そうね。マークスさんに頑張ってもらいましょう。ふふふ。」

「どうしました?」

「マークスさんはね、貴方の父上と母上を結婚させるのに一役買ってくれた方なのよ。感謝しなさいね」

「へー?」


いつまでたっても煮え切らない父と母の関係を一気に狭めたのがマークスなんだそうだ。

何やら計略を使って?上手く二人を閉じ込めて、あとはそのまま…って事らしいが。

なーんで伯母さんがそれを知っているかと言えば当然マークスと一緒に悪だくみをして、その作戦を成功させたからだ。叔父上も一緒になっての事だったとか。


いい大人がなにやってんだ?…と思うけどまあ。

そういう風に強引に引っ付けなければ俺は産まれなかったかもしれん。

良いような悪いような。


「まあそういう経緯だったのですか。あの父上がどうやって女性を口説いたのかと思いましたが」

「パーティーを組んでいるうちにお互い惹かれ合ってはいたようなのですけどね、もう一つ上手くくっ付かなかったようなので…オホホ」

「まあ、ここは一応感謝しています。と言うべきでしょうかね」

「そうなるのかしらね…ところで最近、ダンジョンの方はどう?」

「順調と言いたいところですけどね。最近は領内が忙しくてなかなか修行に出ることも出来ません。まあ俺はソレでもつ…んんっ、つまらなくはないんです。領の仕置きも必要ですからね。でもどうにかして早く攻略したいものです」


あぶね。

伯母上は良いが、ベラさんの前でギフトの話をするところだった。

俺のギフトは領の発展と密接に関係しているから、俺を弱らせようとしたら例えば道路を封鎖するだけでも効果覿面になってしまう。あぶねえとこだった。


「何階層まで到達したの?」

「69階層は攻略しました」

「69階層ですか…良いパーティーメンバーを紹介しましょうか?」

「ん?いえ、ソロ一人で69階層です。もうすぐですよ伯母上」

「ひとりで…」


何とも言えない顔をしている。

そうだよな。たかだか70階層なんかで躓いてたら困るよな。

アシュレイを取り戻すためには80階層なのだ。それを忘れてはいけない。

早く強くならなければ。


早く、出来るだけ早く強さを手に入れる。手に入れたい。

手っ取り早くレベルを上げるにはどうすればいいのか。


……そうか。

戦争は良いレベル上げイベントでもある。

ここで攻めてくる人間どもを皆殺しにしてレベルを上げてしまえば良い。

でもいくら敵だからって皆殺しはさすがに…うーん…


「80層を攻略して、君はどうするのかな?」

「え?皆殺し?」

「「え??」」


2人はぎょっとした顔だ。

俺今何言ったっけ??


「あ、いえいえ何でもありません。80層を攻略したらそりゃ、アシュレイを生き返らせるんですよ」

「アシュレイとは…あれか、アークトゥルス事変で亡くなった姫か…そうか。君の婚約者だったかな」

「そうです。どこでそれを?」

「嫌だな、私もあの時の裁判には出席していたではないか」


ああ、そうだっけ。

あの時の事は色々と曖昧になっていて。

俺もさっぱり覚えてないところが沢山ある。

お偉いさん方は殆ど出席していたはずだから…うーむ。覚えてないけど居たんだろう。


「ベラトリクス魔王、申し訳ない。あのころの記憶は曖昧で」

「む。辛い時期だっただろうからな…思い出させて済まない。あの時はどうだったか。君がやったと強硬に主張する者がいてな。そこの、君の伯母上などは絶対にありえないと主張していたが」

「カイトが夫や父を殺すなどありえないでしょう。それに距離も離れていました。一応下手人は逮捕されましたが、私はまだまだ裏に沢山の協力者がいると思っています。」



まあ俺もそう思う。

物語の流れ的にいずれ二人とも暗殺される運命だっただろう。

でもあのタイミングで、二人そろってって中々。

よほどうまく流れを操り、誘導した者がいるはずなのだ。


「まあそれはそうと…マークス。いるか」

「ハッ」


相変わらずどこから現れたかわからないが、呼べばシュタっと出現するわが執事。呼んだら来るという事に謎の信頼感がある。


「話聞いてたと思うけど。なんかきな臭いから一度領地見て来て。」

「ハッ。畏まりました。では…明日のうちには帰ってまいります」

「今から行くのか?気を付けて行けよ」

「おお、このマークスめの身を案じて頂けるとは…ありがとう御座います!身命を賭して働きましょうとも!」

「ああ、うん…」


コイツこんなキャラだったっけ?

と言う俺の困惑と共にマークスはさっくり出かけて行った。

夜の闇も城外の敵軍も、彼にとって恐れるものではないようだ。

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