第206話 花火(製作)祭り

戦争2日目。


俺の戦いは手を真っ黒に染め上げることから始まった。

勿論乾いた血で真っ黒の、という意味ではない。

言うなれば血染めならぬ火薬染めの黒だ。


「もうやだ!もういい加減疲れた!」

「若、もう少し頑張りましょうよ」


爪の間には黒色火薬がみっちり詰まっている。

もういい加減疲れた。同じ作業を何時間やっただろうか。

もーやだ。しんどい。


リヒタールの忍び宿ことババアの酒場にいたのはウーモチ。

最初の顔見せの際に見たことがあるやつだ。

あとはずーっとこちらにいて、それから潜伏した…というか通常営業のままだったらしく。

俺も今回ようやく顔を見たといったところか。


戦いが苦手なコイツは以前の侵攻でリヒタールの街が攻められた際には近くの町に避難していたらしい。まあ、貴重な忍びに死なれても困るからそれでいいんだけど。


そして募集したリヒタール義勇…お手伝い軍たちに混じっていたのだ。


「もーやだ!あと何個つくりゃいいんだよ!」

「キリの良いところで100個目指しましょう」

「…あとホンの半分ってとこだな…」


火薬の量にも限りがある。

実際の所、これが限界。もうバッグ入らんってくらい火薬を持っては来た。

大砲用の火薬も当然残しておかないといけない。

なのにまだ花火100個分は楽々ってくらい火薬がある。


荷物の用意は今回同行しているマークスに丸投げにして倉庫にぜーんぶ突っ込ませた。

それをよく見ずに全部持ってきて、カバンを開けたらびっくりだ。

アイツこの火薬量用意して、一体何と戦うつもりだったんだろうか?

おかげで俺は現在進行形で大変な目に合ってるわけだが。





ここに来ている航空部隊ではアカに乗る俺は一応最高戦力らしい。

なのにボンヤリ花火を作っていいのかという説はある。

でも状況が状況だ。


初日、攻めてきていた人間の軍は思ったよりあっさり引いた。

こちらに砲が有る事が意外だったから作戦の練り直しをするのだろうか?


あちらから現状を見ると、初日の結果は遠距離戦では互角、空中戦はやや優勢、地上戦はやや劣勢と言った所か。城壁をもっと優位に使えば地上戦ではこちらがはるかに優位なのだが…こっちから打って出ちゃうんだもんなあ。


でまあトータルでは攻撃しているあちら側がやや劣勢という所か。

普通の頭の指揮官ならここで一計を案じるだろう。

まともじゃないやつならごり押しする。


さすがにこの状況で帰る奴はおらんだろう…と思うけど。


「となると定番は兵糧攻めとかかな?それから…迂回するとか」


でも兵糧攻めはどう考えても向こうの方が厳しい。

幾らマジックバッグがあるとはいえ輸送にも限度があるだろうし、そもそもあちらは凶作で飢饉だったはず。食料事情はかなり逼迫しているのではないか。



と言う訳で攻めて来ると思っていた。

なのに、何やら2日目も3日目もお互いがお見合いをする展開になった。


なのでまあ城の中は武具の補修やら壊れた城壁を直したりやらで大忙しだ。

大砲の方は3門にヒビが見られる。

これはちょっと叩いて溶かしてとかでどうにも成らないだろうからもうそのまま放置だ。

遠目に見ても片付けたりすると壊れたのがバレるかもしれんという事でそのままいつでも使えるっぽい顔をしておいてあるが、どうせ向こうも似たような状況になっているはず。


代わりに花火を作るからそれで許してほしい。

空から落とせば破壊力はそれほどでも無いだろうが、至近距離で爆発すれば致命傷くらいにはなるだろうか。

花火の火薬はまあたぶん大丈夫だけど、ノリが乾いてないから使えるのはもう少し経ってからかな?

投げ落とす分には関係ないと思うが…



なーんて事を4日目の軍議で説明する。


ここ数日、総攻めの気配はないがチョッカイは掛けられている。

というわけで応戦している大砲はまあまあいいペースで壊れている。


アレはちょっとやそっとじゃ直らん。

鍛冶屋に入院したらいいけど、うちの領なら鋳つぶして新しくした方が早いんじゃないかと思う。

こっちにはゴンゾは居ないから多分そんな訳にもいかんだろうが。


だから撃ちまくるな、ゆっくり冷やしながら撃てって言ったのに…

まあもう花火は完成して納めたのでもうこれで誤魔化してほしい。


「まあそうは言うがな、兵にそこまで徹底させるのは厳しいだろう」

「俺もそう思いますけどね。砲兵隊にはもう少し加減するように言ってください。火薬は熱がこもって、熱で砲身が変形したり…酷い時には砲身ごと爆発します。そうすると砲兵はまず死にますよ。ヒビが入っているのは爆発寸前の奴ですから…あれを使い続けるといずれ兵を巻き込んで爆発します。」

「危ない物なのですね…」


火薬を使っているからな。

危ないとか、そういうレベルじゃない。

ああいう兵器はホントはまだまだ出したくなかったのだ。

相手が出してくるからさあ…もうさあ…


「まあ、そういう兵器ですから。扱いには気を付けてとしか言いようがないです。一応、ヴェルケーロで試した時は50発ほど打って壊れていない物を採用しています」

「どーんどーん、すごくうるさいんだぞ」

「おかげでお前は慣れたじゃないか」

「まちのやつらもなれきってるぞ」


街の連中も最初は雷だとか、赤龍様(アカ)がお怒りだ、なんて言って震えてたのに今では大砲の音が鳴っても平気で洗濯物を干し、昼寝をしている。

慣れとは恐ろしい物だ。

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