第189話 60層・裏
50層をサクッとソロでクリアした。
特にクリア報酬なんて期待していなかったが、ポロリと金色の殻が落ちていた。
えーっと、何々?
金甲虫の甲殻
ATK+5% DEF+5%
「うほほ!パーセント増加アイテムじゃん!」
これまで見てきたアイテムは+100とかそういう品だ。
これは特に序盤強いが、終盤になると大した性能じゃなくなる場合もある。
素の攻撃力が100で+100だと2倍だが、素の攻撃力が1000になると+100されてもほんの10%、10000になると1%ということになる。誤差だよ誤差。
でも割合で増加するアイテムはその逆である。
序盤は増加量も弱いが、中盤以降にその本領を発揮するのだ。うへへ。
「でもこれ装備しづらいな?」
もし指輪とかなら、ゲームじゃ精々2個くらいしかつけられないが…何なら右手と左手、指に二個づつはめてで20個くらい付けられる。まあ俺の場合左手が無いからその計算じゃ10個が限界だけど。
だが甲殻、お前はどうやって体に着ければいいんだ?
ドロップした甲殻は20cmくらいある金色の、少し曲がった板状の物体だ。
こんなモンどうやってつけろと。脛当てにでもしとくか?
足に当ててみたらややサイズが大きいが、まあ悪くない。
でも動いたら落ちる。当然だな。
「まあ帰ったら加工してもらうか…」
穴開けてヒモ通せば縛って止められるだろう。
問題は素人が適当にやるとアイテムが損傷した扱いになって性能が下がる事だ。
その辺もうちょっとどうにか融通聞かせて欲しいよなあ。
ゲームじゃどうやってドロップアイテム装備してたんだろうか?
50層台は大して苦労しなかった。
アカとペアで来た時もほとんど苦労は無かった。
だから記憶もあいまいだ。
「ボス何だったっけ?象さんだったっけ??」
たしか、ただ大きな象が出て来たような。
大きいと力が強い。あと意外とスピードも速い。
同じく大きいから小回りは悪い。
でも直線は意外とって言えば悪いが、かなり速いんだよな。
まあでも総合すると今の俺の相手じゃない。
前のようにチクチクやってりゃ勝てるだろ
「たのもー!」
「バオオオオオン!」
そこにいたのは大きな牙の生えた象さんだ。
ダンジョンの風景も南の大地じゃなくって一面氷。
氷の大地に変化している。
あっれ?象…さん?あっれ?
ってかこれもう象じゃなくてマンモスじゃね?
さっきのカブトムシもそうだったけど象さんも変わってる??
「や、やあ?イメチェンした?」
「バオーーム!」
「いきなりかよ!」
象さん改めマンモスさんは突然頭を振り下ろし、牙で地面をひっかくと氷の塊がこちらに向かって飛んでくる。
「あぶねっ!」
油断しきっていたところで間一髪、氷塊をかわす。
あぶねえ、一発貰えば潰されそうな大きさの塊だ。なんと言っても俺よりでかい!でも親父の半分以下!?うっせ!
何てこった。前回の象さんは遠距離攻撃の無い、動きはそこそこ早いけど小回りの効かない…いわゆる雑魚枠だったのに。マンモスに進化したらえらいヤバい奴になってる。
「あー、こりゃアカンやつや」
全力で行かなければあっさりと殺されてしまう。
それほどの一撃の重さを感じる。幸い、氷塊は前の方にしか飛ばない。
横に横に、ボクサーが回り込んでジャブを撃つように。
蝶のように舞い、蜂のように刺す!
「ツリーアロー・ストーム!ダブル!」
沢山の矢をぶつける。
巨体の表面を覆う分厚い毛皮の前に、塵芥のような矢。
そして矢から生まれるも寒くて育たない植物。
「チクショウ!やっぱりかよ!」
相性の悪さに震える。
まるで嫌がらせのように通らないダメージ。
またこのパターンだ。この塔は俺に対する嫌がらせのために存在しているのではないか。
そんな気がするほどの苦手属性の多さ!くっそ!
チクチク削る。削る。
遠距離から嫌がらせのように削り、スタミナ勝負を挑む。
楽々と倒すのは諦めた。
蛾のように鱗粉をまき散らして舞い、蟻のようにチクチクと咬む。
大きい体はパワーも強いが、それを維持するためのエネルギーは膨大な量になる。
なので大きな体の持ち主はあまり動かない、事が多い。
ダンジョンのモンスターに当てはまるかどうかは知らんけどな!
「パワーアロー!フレアミサイル!」
突進と氷塊をバラ撒くマンモスの動きを見て数を増やすのは諦めた。
避けられない程の飽和攻撃で動けなくして、捕らえた後チクチクするのが大好きだ。
でもそうも言ってられん。全部躱せるかと言えば行けそうだが、そのうち事故りそうなのだ。
しょうがないからチクチクじゃなく一撃を重く、ダメージを与えて削る。削りたい。
スタミナ切れがあるかどうかは分からんが、マンモスの形をしている以上どれかの足を壊せば動けなくなる。もしくは動きが極端に鈍くなることは間違いないだろう。
という訳で左前脚に攻撃を集中。
「おらおらおら!」
離れてチクチク。もひとつペチペチ。時々ドッカンドッカン。
俺は絶対に近寄らないマンだ。
でも疲れて来た。
「24時間戦えますよっと!」
疲れてきた感じがあるのでグビグビっとポーションをいただく。
魔力ポーション、体力ポーションともにそれなりのお値段設定だが、そこは仕方ない。
続けてポーション2種をチャンポンで4本ラッパ飲みにしたところ、体の疲れも吹っ飛びさらにMPがググーンと回復した感がある。
おまけに不思議な昂揚感とギリギリで躱した時の快感。なんかやべえクスリ混じってんじゃないか??
「あー、ポーションなくなった」
今までダンジョンで稼いだ金はほぼ領地に消えている。
もっと買っとけばよかったか?いやでもそうすると万一凶作になった時に冬の暮らしが…今はそれはいいか。
「ふぬおおおりゃあああ!」
虎の子のポーションを全ツッパし、己の(金の)力で削る。削る。
マンモスはどんどん動きが遅くなる。
このクスリ、何だか飲めば元気になって目も頭も冴えてくるような。
ヤバい薬なんじゃないか?大丈夫かこれ?
「うおっと!」
急にマンモスの動きが変化した。
離れていれば突進と氷塊を飛ばすだけだったのに、アイスブレスみたいなのを出したのだ。
動けなくなって攻撃方法を変えたか?
追い詰められてのブレスか?
どっちにしろチャンス!
「ペネトレイトアロー!ダブル!」
ブレスをかわし、横から一直線に貫通する矢を放つ。狙いは動かしづらそうな左前足の、そのやや後方、腋の下からアバラ骨の隙間の…
「ブギャアアア!…ガシュー…シュー!」
「…当たったか?まあ、後は時間の問題か。ペネトレイトアロー!」
心臓を狙ったが少し外れたか。
それでも肺を貫通したようで、おかしな呼吸になっている。
でも追撃の貫通矢を放つ。
ズシンと倒れるマンモス、ふう何とかなった。
…と気を抜いたのが不味かった。
「ブフォー!」
倒れたマンモスの鼻がこちらに向いていた。
マンモスは気を抜いた俺をその鼻で吸引してきた。
「ブギャオオオ!」
「やべっ!」
吸引で引きずられたところはヤツの最大の武器である牙の間合いだ。
慌てて左の盾で防ごうとするも、盾ごと腕をへし折り、水龍鎧に穴をあけて襲い来るマンモスの牙。
この時、時間がゆっくりに流れているような感覚があり、牙が急激に伸びているのを感じた。
これは、避けなければ死ぬ。
「うおおおおお!」
急激に自分の体を左に回転させ、腕に刺さった牙を抜いて相手の方へ倒れ込む。
振り上げた牙の真ん中前方に柔らかい腹が当たり、吹き飛ばされる。
「グッ…ゴホッ」
血を吐く。衝撃で内臓を痛めかも。
でもあのままだと串刺しになって死んでたところだった。
だが、今回は俺の勝ちだ。
忌々しそうにこちらを見るマンモスは先ほどの攻撃が最後の一撃だったようで。
倒れ、動かなくなってそのまま消えた。
消えた所には巨大な象牙が。
持ち上げるのも苦労しそうな大きさだ。
「こんなクソでかい物、なにに使えってんだ?…えーっと、『毛長巨象の角槍 攻撃力240 主人と認められれば伸縮自在となる』ふむふむ。ええやん。ちいさくなーれ!」
象牙は全く小さくならない。
クソっ!なめんな!
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