第188話 50層・裏
アーク歴1504年 肆の月
久遠の塔50層
むかし、あんなに梃子摺った47層以降のカブトムシが嘘のように弱かった。
俺の防具をガツガツ貫通してきたカブトムシの角はものすごく怖かった。
奴のために防具を変え、アカの鱗を使った盾を使い。
必死に耐えて数を削ったものだが…今となっては皮膚に直接当たっても少し刺さってちょっと痛いって程度になっていた。
ふっ、俺も強くなってしまったものだ。
ってかどうなってんのこの体?
レベル制RPGを生身でやってしまうとなんかもう色々怖いな。
うっかりドアノブ握りつぶしたり、うっかり思い切り出したウンコで便器を割りそうだ。
という訳でボス戦である。
50層のボスは
カブトムシの群体で軍隊だったはずだ。
ボスを倒しても第二第三のボスが現れ、その頃貴様らは年老いて…じゃねえ。
ボスを大佐とすると、大佐を倒すと中佐がトップに、中佐を倒すと少佐が…って感じでドンドン指揮を執る個体が交代する。
まるで現代の軍隊の様な群体だったはず。
つーかここら辺は全体的にひどかった。
50層クリアが一つの山場やで!って事で運営が必死に敵を強化していたんじゃないかと思う。
ボス倒せば終わりでいいだろうと思うが。
でもまあこのシステムは合理的だ。
もしこのシステムが採用されていたら、どこぞの桶狭間でボスをぶっ殺しても周りの今川軍が混乱せずに織田軍を包囲殲滅していただろう。ノッブもマロと相打ち待ったなしである。
此処近年の説だと酔っぱらって奇襲を受けたわけじゃなくちゃんと山頂に布陣していたようだし、正面からいい勝負して討ち取ったようだ。雹が無ければノッブが負けてたって話だし、やっぱりマロは立派な武将だったようだけど。
さてそんな
「あれ…?ボスの人世代交代した…?の…?」
「ギギギイイ!」
おかしい。
なんか前はちょっと赤っぽいカブトムシがボスだったと思うが、今回真ん中にいるのはどうみても金色である。
そういやゲーム時代も裏ボスの方が強かった気がするけど色まで違ってたっけ?覚えてねえなあ…
「まあいいや!いくぞ!アロートルネード・ダブル!」
「ギイー!」
矢の竜巻をぶつけ、舞い上げて炎をぶっ飛ばす。
このパターンで今までやって来た。俺も強くなったものだ。
軽い個体の集まりであるカブトムシたちはさぞ竜巻に弱いだろう。
そう思っていた時代が私にもありました。
「ええ?嘘だろ??」
なんとカブトムシたちは地面に伏せて一塊となり、風雨…じゃなくて矢の竜巻を凌ぎ切った。
表面のカブトムシたちは矢に貫かれて死んでいるようだが、その奥からはこちらを睨み付けるような視線が…これやばい!
「うおおおい!」
良くわからない感覚を感じたので急いで後ろにさがる。
そこに刺さる巨大なカブトムシの塊。
「合体だと!?くそ!」
くそ!カッコいい!
変形合体は男のロマンだ。羨ましい!
何百?何千?もの虫たちは互いに体を寄せ、合体して巨大な一匹の虫となった。
頭部には一際大きな金色のカブトムシ。
だが所詮は虫の寄せ集め。
大したことないだろう?
「フレイムミサイル!」
「ギギッ!」
そう思って魔法を放つも、あっさりと回避される。
大きくなったから重そうに見えるが、機動性は小型の時のままか、それより速いくらいだ。
どうなってんだ!
こんな展開、前回は無かったぞ!
ソロの時とパーティーの時とじゃ動きが違うのか?
ええい!
「あぶね!」
踏み下ろしをバックステップで避け、続いて右の拳もステップして躱す。が。
「いってえ!」
「ギギギ」
紙一重でかわすと塊になっていた右手部分の虫が分裂し、こちらの腕に、脚に刺さる。
「くそが!アロートルネード!ストーム!レイン!シャワー!」
沢山撃ちまくる。
たとえ何千という数がいても、当たりさえすれば数はどんどん減っていっている。
そう信じて撃つ。
撃ちまくる。
乱射、乱射。
そして隙が出来た。
「見えた!ここじゃああ!」
「ギッ!?」
樹魔法による乱射、拘束の嵐。
最初はランダムに捕らえるように撃っていたが、途中からはわざと回避できるようなポイントを狙っていた。そして本命を誘導していたのだ。俺の間合いへ。右手の剣が届くところへ。
回避してきた金カブトへ虫特攻の付いた武器、虫喰いの剣をそっと突き出す。
嘗て俺の畑で虫よけとして吊られていた剣だ。
虫喰いの剣は吸い込まれるように金カブトの胸部に刺さり、何の抵抗も無く二つに切断した。
「すげ。何だこの切れ味」
矢を幾ら撃っても奇麗に当たった矢以外は弾き返されている。
なのにこの剣はボスの金カブトにやすやすと刺さり、あっさりと甲殻ごと切断した。
「ギイッ!?」
「驚いたろ!俺もだよ!アロートルネード!からのヘル・インフェルノ!」
指揮交代までの一瞬の硬直。
だが今の俺ならその隙も見逃さない。
可燃性の物体をたくさん含む竜巻は非常に燃えやすく、そして地獄の炎は少々の風では消えない。
正に地獄のような高熱が周囲に巻き散らかされる。
「あち!あっち!」
水龍の鎧を着ていても熱い。
炎の竜巻が消えた時には、残っている虫はいなくなっていた。
「ふっ…ふはははは!完・全・勝・利!」
相性の決して良くない虫をサクッと倒すことが出来た。
ふっ、随分強くなってしまったものだ!
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