第187話 本番のはじまり
アーク歴1504年 参の月
久遠の塔30層
俺は今、独りマラソンをしている。
アカは置いて来た。
ハッキリ言ってこれからの戦いには着いてこれないのだ。
アカとペアで80層をクリアした。
もしかしたらワンチャン従魔と一緒でもソロクリア報酬は貰えるんじゃないか。
だってそうじゃなきゃ『テイマー』なんてどうしようもないじゃん?
なーんて思ったけど、勿論報酬は貰えていない。
そんなに甘いわけがないのだ。
宝箱落ちてないかな?なんて探してみたり、81層に踏み入った瞬間だったり!とか思って色々試したけど、まあそんな訳ないよね。知ってた。知ってたわ。
という訳で1層から登り直しである。
とは言え、当然のことながら昔と比べるとレベルも上がったし装備も良くなっている。
思えば遠くまで来たものだ。
最初、アシュレイと一緒に来た時はそこらの木で作った木剣と普段着という装備だった。まあ、今から考えればダンジョンを舐め腐っていると言われてもしょうがない。
「なあ?」
思わずアカに話しかけてしまった。
…が、勿論返事は帰ってこない。
「ソロだと寂しいもんだなあ」
ソロじゃないと特別な報酬は貰えない。
だからアカは付いてこれない…寂しいもんだぜ。
というかコレ、ソロ攻略の場合は一回外に出たら駄目だという謎仕様らしい。
1層から80層まで、ずーっとソロで登り続けなきゃいけないんだと。
師匠にそう聞いてマジックバッグに替えの衣服と食料と水、あと予備の装備品を沢山詰め込んだ。水は飲み水くらいなら自前で出せるけど、魔力を消費するので出来れば持って行った方がいい。
というわけで出発。
体感だとまだそんなに日数は経っていないが、外の時間は10倍くらいで流れてるんだっけ?
そう考えると3日で1か月分くらいになるか。
モンスターほぼ無視してマラソンで走っているが、1日に10層が限界である。
という事はモンスターに苦戦しなくても80日、ボス戦なんかで苦労したら外じゃ何か月もかかることになるな…きちぃなこれ。
今の俺なら50層のボスくらいまではホイホイ進めるんじゃないかと思うが、それ以上はどうか。
特に、この間頑張って倒した巨人型モンスターなんてソロで倒せるのだろうか?
火力で言えば問題ないだろうけど、あの戦術はそうホイホイ使えるもんじゃない。
大砲だって何回も使えるかって話でも無いし、ぶっ壊れているかもしれん。うーむ。
なーんて事を飯食いながら考える。
「参ったな…あちち」
今日の夕食?は大量に作ってあったシチューを食べている。
大量に作ってアチアチになった鍋をそのままバッグに入れているが時間がほぼ止まっているのでまだ微妙に温かい。それでも温めなおさないと…
シチューについてはここ3日朝昼晩と同じものを食っているから、もう飽きたどころではない。単独で食うのも何なので他の保存食も出す。食事の後は軽く睡眠だ。
ダンジョン内では時間の概念が無いのか日は暮れないし当然昇ることもない。今が朝か昼か時計でも無ければなんてさっぱり分からない。明るいから寝づらいけど寝てないと体力が持たない。
それにしてもこのシチューは出発前に魔王城の料理人に頼んでいっぱい作ってもらったんだが、一人で食うには多すぎるんだよなこれ。アカがいればいっぱい食ってくれたんだけどなあ。
コンロなんて洒落たものは無いから石を積んで竈を作り、薪を出して火魔法で着火して…飯を暖めて食うにも一苦労である。
少しくらいの鍋が出て来るので温めなおす。序に腸詰も焼こう。いや、茹でてもいいな。
マジックバッグの中は完全に時間が止まっているわけでは無い。
この中で雑菌の繁殖とかどうなんだろう。
シチューの微妙に暖かい温度なんかはとても繁殖に良さそうな温度だが…まあ考えないでおこう。とは思うけど、毎回アツアツに温めて食べている俺なのだ。
攻略中は食欲も便意もあまりない。というわけで割と面倒だが、一日中走る以上食事はきちんととらなければならない。
汗をかくと体内の水分だけではなくミネラルやらあれやこれやがどんどん出て行く。ちゃんと食べないとモリモリ痩せて益々ガリガリに…
とは言え疲れた体で飯を用意するのは面倒だ。
洗い物も面倒なので朝、昼と食った皿にもう一回シチューを注ぐ。
なあに、もし雑菌が繁殖しても毎回沸かしているし…いざとなれば回復魔法もある。その上解毒剤も持ってるから大丈夫だろう。だよね?
このシチューが無くなったら自分で調理して食べないといけない。
でも食材はあるけど調理はめんどくさい。
特に一人分の料理ってなあ。
だからってあんまり大量に作ってもどうせ何日も同じモノ食うのもなあ。
なんて一人暮らしの時の事を思い出しながら考える。
皿も洗わないので大学生の一人暮らしのよりはるかに状況はダメだ。
飯食ったら眠くなってきた。
ボス部屋はボスを倒したらもうモンスターは出てこない。
のんびりできて言う事ないのだ。
このままこたつを出してゲームして寝たいくらいだ。
まるで実家のような安心感??
まあいいか。誰も来る気配もないし、もうこのまま一眠りしてしまおう。
カバンから布団を取り出す。
寝袋を用意したかったが、そうも出来なかったのでお布団だ。
不用心この上ない気もするが、倒したあとのボス部屋はエアコンの効いたよく眠れる環境だ。
今更だがこの世界のダンジョンはいわゆるインスタンスダンジョンのようで、他のパーティーと出会うこともない。
一緒に侵入したパーティーメンバー以外の他人と出会うことがないのだ。
コミュ障には最高である。
まあ、もし人間と魔族が戦争中にダンジョン内で鉢合わせする、なんてことになったらめんどくさい事しかないからな。殺伐としすぎるダンジョンになる。むしろ戦地より危ない環境になるだろう。
各地に入口があり、転送される。
おまけに中身はインスタンスダンジョンになっている。
不思議なシステムだなあとは思うが、ゲームだと思えばそんなもんなのだ。と言う訳でおやすみ~
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